千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第四章 魔人襲撃

47.呆然とする器用貧乏

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 なんやかんやで準備が進み、訓練場には俺と漆黒のなにがしさん、そして審判役として抜擢された名も知らぬ騎士団一名だけが立っており、他の連中は遠巻きにこちらを見ている状態だ。

 ルールは何でもありの一本勝負。ただし、相手の命を奪うような攻撃は禁じられている。

 アニエスから助言を受けたのだが、漆黒さんは、どうも『全てを見通す眼』とやらを持っているらしく、相手の戦術を見抜いて封じ込める戦いに長けているとのことだ。

 ……まあ、どうやって封じ込めてくるかはわからないので、その辺は戦いながら適宜対応していくとしよう。
 いつも通り、俺は剣主体の戦闘をするだけだ。

「よっしゃ、じゃあ始めるとしようか」

 俺は帯刀している剣の柄に触れ、軽く構えながら始まりの時を待つ。

「フフフ……我が邪眼の前にひれ伏すがいい」

 剣を抜こうとする俺に対し、漆黒さんは素手のままだ。一応、指抜きグローブを着用しているようだが、格闘を得意とするタイプなのか……?

「それでは……始めっ!」

 相手の分析をしている最中に、審判の掛け声と共に模擬戦闘が始まった。
 だが、漆黒さんは謎のポーズを決めたまま不敵な笑みを浮かべ動こうとしない。

 ……あれ、今、開始の合図あったよな?

「今宵……この場所は鮮血の雨ブラッディ・レインが降り、深紅に染まるだろう。そう……貴様の血で、だ」

 いや今宵て。まだ朝なんだが……。

 なんだこいつの奇行は……謎に顔の前に手を広げて、自分で視界を遮る意味がわからない。ただでさえ髪で片目が隠れているのに、そんなことしたら殆ど見えないんじゃないか?

 いや、隙だらけに見せかけて、カウンターを狙っているのか……?
 くそ……読めない。今まで経験したことのない行動パターンだ。

 仕方ない。ここは俺から攻めずに『けん』に徹し、相手の出方を観察するとしよう。

「フフ……冥土の土産に教えてやろう。我が邪眼は貴様のスキルを看破する力がある。スキル構成さえわかれば対策は容易。どうとでも料理してくれようぞ」

 そう言いながら漆黒さんは髪をかき上げ、隠れていた右目を露出させた。

 いや、邪眼って言ってるけど、見た目は左目と何ら変わらないんだが……。なんか目の周りに紋様が描かれてはいるが、魔法的な効力は一切感じられない。

「【鑑定】! フハハ、視える……視えるぞ貴様のスキルが! ――って、え、あれ、ちょっ、まっ……!」

 いやいや、今【鑑定】スキル使ったよな……? 邪眼とは……?

 俺が呆れていると、漆黒さんは突然慌て始め、両手で顔を覆ってしまった。

「なんだ、この情報量は……目が、目がァァァァァァッ!!」

 ひときわ大きく叫んだかと思うと、漆黒さんは顔を覆ったポーズのまま、仰向けに倒れてしまったのだった。

「えぇ……?」
 
 恐る恐る近付いてよく見てみると、鼻血をたらしつつ、口からは泡を吹いて気絶しているという、なんとも悲惨な状態だった。

「おいおい、まさか……これで終わりか?」

 漆黒さんはどう考えてもしばらくは意識を取り戻しそうにない。
 一太刀も交えることなく……というか一歩も動くことなく戦闘が終了してしまった。肩透かしもいいとこだ。

 ……ただまあ、何が起こったのかはなんとなく理解できる。

 漆黒さんが使ったのは【鑑定】スキル。俺も使えるからわかるが、このスキルを使うと、対象の情報が頭に直接流れ込んでくるのだ。
 俺の【鑑定】はレベル3だからそこまで詳細な情報は読み取れないが、スキルレベルが高ければ高いほどより詳細な情報が読み取れる。

 奴の自信たっぷりな様子からして、スキルレベルは相応に高かったはず。俺の【偽装】スキルを突破していたようだしな。
 その高精度の【鑑定】で俺の千を超えるスキルを覗いたとなると……馬鹿げた情報量が一気に流れ込み、脳が情報を処理しきれなくてオーバーヒートを起こしたとしても不思議じゃない。

 本来なら相手のスキル構成を読み取り、相手の不得手とする戦術を取るのが漆黒さんの強みだったんだろうな。
 仮に俺を【鑑定】して気絶しなかったとしても、俺の戦術全てに対応するのは難しいはずだ。

 ……まあ、要するに俺と相性が最悪だった、ということだな。

「はぁ……」

 ため息を吐きながら、俺は審判に選ばれた騎士団員へ向かい『どうするんだ?』と、身振り手振りで言外に示した。
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