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第四章 魔人襲撃
48.恐れられる器用貧乏
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漆黒さんが倒れたあと、観戦していた王様とその他大勢は、小走りでこちらへと近付いてきた。
「……完全に気絶している」
いち早く駆けつけたアリューゼが漆黒さんの容態を見て、そう呟いた。
まあ誰がどう見てもそう思うであろう。清々しいほどの気絶っぷりだ。
「貴様、何をした。一歩も動いた様子などなかったぞ」
「……いいや、何もしてない」
俺が返答するや否や、アリューゼは並の人間なら腰を抜かしそうなほど鋭い眼光で睨み付けてきた。
そんなに凄まれても本当に何もしていないので、他に説明のしようがない。
「はは、残念な結果だったねアリューゼ。エドガー君は優秀だが……ちょっとクセが強いからね」
「セイン……まあな。戦う前にベラベラと喋るなと口酸っぱく言っているというのに、一向に直さないからこんな醜態を晒すのだ」
俺が『強い』と感じたうちのひとり、白い鎧の優男がアリューゼへと話を振ってくれたおかげで、疑いの眼差しから逃れることができた。
セインとか呼ばれたこの男……黒牙騎士団の団長であるアリューゼと対等に話していることから、おそらくはアニエスの属する白翼騎士団の団長なのだろう。
「それで……どうだい? 過程はどうあれ、騎士団部隊長であるエドガー君を一対一で倒したんだ。これで彼のことを認める気になったかな?」
「……あれだけで実力が計れたとでも? だがしかし……何らかの力によってエドガーが倒れたのは事実、か。
……そうだな、代役を立てたいところだが、実力を見れぬまま何人も転がされてはかなわん。ひとまずはエドガーの回復を待つとしよう。
この小僧は手の内を喋る気がないようだから、やられた張本人に何をされたか聞いてみるのが一番だ。判断するのはその後でいい」
「まあ、そうなるよね……」
何やら揉めているようだが、それも当然だろう。俺の実力を試すための模擬戦闘だったが、実際は少しも動くことなく終わってしまったのだ。
「誰か、回復魔法を使える者を呼んできてくれないか?」
「待て、必要ない」
セインが部下に呼び掛けるが、俺はそれを制止して、倒れた漆黒さん……もといエドガーへと近付いた。
「貴様……エドガーに何をするつもりだ!」
「慌てるな、回復魔法をかけるだけだ」
俺は倒れたエドガーの胸元に手をかざし、回復魔法を使用する。もちろん、外傷はないので意識を呼び覚ますことに特化した合成魔法だ。
ついでに状態異常の回復もしといて……っと。よし、これで大丈夫だろう。
「――っ、はぁっ! はぁ……はぁ……」
蒼白だっだエドガーの顔色はみるみるうちに赤みが差し、すぐに意識が覚醒した。
そして、上体を起こしながら、足りていなかった酸素を取り戻すかのように深く呼吸を繰り返す。
よしよし、問題なく回復したようだな。
「立てるか?」
「――ヒ、ヒィィィッ! ば、化け物……!」
俺が手を差しのべると、エドガーは目を見開き、悲鳴を上げながら後退りしていく。
それにしても人の顔を見るなり化け物とはなんだ、失礼だな。
「あ、アリューゼ団長~!」
「お、おい。いったいどうしたんだ」
俺から離れるや否や、エドガーは素早く立ち上がり、近くにいたアリューゼの背後へと身を隠した。
その様子は怯える子供のようで、戦う前の自信ありげな態度とは正反対だ。
おかしいな……きっちりと回復したはずなんだが、特異な状態異常にでもかかっているのだろうか。
「落ち着けエドガー……何をそんなに震えている。お前の目にはいったい何が映ったというのだ」
「あ、ありえない……あんなのありえないんだ。ひとりの人間が得られる力の限界を軽く超えている……!」
「どういうことだ」
「スキルだ……こいつ、途方もない数のスキルを持っているんだ!!」
エドガーは自らの上司で半身を隠しながら、俺に向けてビシッと指差した。
その瞬間、いくつもの視線が俺へと集まる。ここへ来たばかりのときも同じようなことがあったが、今度の視線は質が異なっていた。
値踏みするようだったり挑戦的だったりと、俺のことを『試してやろう』と、どこか下に見ていた。
だが、エドガーの怯えっぷりを見て、今は恐れや不安、驚愕などといった感情が入り混ざった視線のほうが多い。
この場で冷静なのは二人の団長と王様、そしてアニエスぐらいか。さすがに上に立つ者は肝が据わっているな。
……と、そんなことを考えていると、エドガーは微かに震えた声で語り始めたのだった。
「……完全に気絶している」
いち早く駆けつけたアリューゼが漆黒さんの容態を見て、そう呟いた。
まあ誰がどう見てもそう思うであろう。清々しいほどの気絶っぷりだ。
「貴様、何をした。一歩も動いた様子などなかったぞ」
「……いいや、何もしてない」
俺が返答するや否や、アリューゼは並の人間なら腰を抜かしそうなほど鋭い眼光で睨み付けてきた。
そんなに凄まれても本当に何もしていないので、他に説明のしようがない。
「はは、残念な結果だったねアリューゼ。エドガー君は優秀だが……ちょっとクセが強いからね」
「セイン……まあな。戦う前にベラベラと喋るなと口酸っぱく言っているというのに、一向に直さないからこんな醜態を晒すのだ」
俺が『強い』と感じたうちのひとり、白い鎧の優男がアリューゼへと話を振ってくれたおかげで、疑いの眼差しから逃れることができた。
セインとか呼ばれたこの男……黒牙騎士団の団長であるアリューゼと対等に話していることから、おそらくはアニエスの属する白翼騎士団の団長なのだろう。
「それで……どうだい? 過程はどうあれ、騎士団部隊長であるエドガー君を一対一で倒したんだ。これで彼のことを認める気になったかな?」
「……あれだけで実力が計れたとでも? だがしかし……何らかの力によってエドガーが倒れたのは事実、か。
……そうだな、代役を立てたいところだが、実力を見れぬまま何人も転がされてはかなわん。ひとまずはエドガーの回復を待つとしよう。
この小僧は手の内を喋る気がないようだから、やられた張本人に何をされたか聞いてみるのが一番だ。判断するのはその後でいい」
「まあ、そうなるよね……」
何やら揉めているようだが、それも当然だろう。俺の実力を試すための模擬戦闘だったが、実際は少しも動くことなく終わってしまったのだ。
「誰か、回復魔法を使える者を呼んできてくれないか?」
「待て、必要ない」
セインが部下に呼び掛けるが、俺はそれを制止して、倒れた漆黒さん……もといエドガーへと近付いた。
「貴様……エドガーに何をするつもりだ!」
「慌てるな、回復魔法をかけるだけだ」
俺は倒れたエドガーの胸元に手をかざし、回復魔法を使用する。もちろん、外傷はないので意識を呼び覚ますことに特化した合成魔法だ。
ついでに状態異常の回復もしといて……っと。よし、これで大丈夫だろう。
「――っ、はぁっ! はぁ……はぁ……」
蒼白だっだエドガーの顔色はみるみるうちに赤みが差し、すぐに意識が覚醒した。
そして、上体を起こしながら、足りていなかった酸素を取り戻すかのように深く呼吸を繰り返す。
よしよし、問題なく回復したようだな。
「立てるか?」
「――ヒ、ヒィィィッ! ば、化け物……!」
俺が手を差しのべると、エドガーは目を見開き、悲鳴を上げながら後退りしていく。
それにしても人の顔を見るなり化け物とはなんだ、失礼だな。
「あ、アリューゼ団長~!」
「お、おい。いったいどうしたんだ」
俺から離れるや否や、エドガーは素早く立ち上がり、近くにいたアリューゼの背後へと身を隠した。
その様子は怯える子供のようで、戦う前の自信ありげな態度とは正反対だ。
おかしいな……きっちりと回復したはずなんだが、特異な状態異常にでもかかっているのだろうか。
「落ち着けエドガー……何をそんなに震えている。お前の目にはいったい何が映ったというのだ」
「あ、ありえない……あんなのありえないんだ。ひとりの人間が得られる力の限界を軽く超えている……!」
「どういうことだ」
「スキルだ……こいつ、途方もない数のスキルを持っているんだ!!」
エドガーは自らの上司で半身を隠しながら、俺に向けてビシッと指差した。
その瞬間、いくつもの視線が俺へと集まる。ここへ来たばかりのときも同じようなことがあったが、今度の視線は質が異なっていた。
値踏みするようだったり挑戦的だったりと、俺のことを『試してやろう』と、どこか下に見ていた。
だが、エドガーの怯えっぷりを見て、今は恐れや不安、驚愕などといった感情が入り混ざった視線のほうが多い。
この場で冷静なのは二人の団長と王様、そしてアニエスぐらいか。さすがに上に立つ者は肝が据わっているな。
……と、そんなことを考えていると、エドガーは微かに震えた声で語り始めたのだった。
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