千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

文字の大きさ
59 / 71
第四章 魔人襲撃

49.千のスキルを持つ器用貧乏

しおりを挟む
「こ、こいつのスキルを【鑑定】で覗き見たら、あまりにも多くの情報が頭の中に流れ込んできて……それを処理しきれなくて気を失ってしまったんだ。
 こんなことは初めてだ。これまで多くの人間や魔物を鑑定してきたが、普通はせいぜい五、六のスキルしか所持していない。十を超えていれば多いほうだ」

 エドガーはそこまで言うと、俺を指差していた腕を下ろし、俯きながら言葉を続けた。

「だというのに……こいつは異常な数のスキルを保有していた。途中で気を失ったから正確な数はわからなかったけど、最低でも百以上はあった」
「なっ、百……だと!? そんな馬鹿げた数のスキルを……!?」

 エドガーの言葉を聞き、アリューゼは口を開き驚愕している。だが、それとは対照的に、セインは何かに納得しているかのように、うんうんと頷いていた。

「百以上のスキル……そんな規格外のスキル適性を持つ加護はひとつしか考えられない。
 君の加護は【器用貧乏】。そうだよね? ユーリ君……いや、ユーリ・グランマード君と言ったほうがいいかな?」
「――っ」

 驚いた……この男、俺の素性を知っているのか。

「ま、待ってくれ。君に対して害意があるわけじゃないんだ。だからその鋭い敵意をしまってくれないか」
「……む、すまない。つい、な」

 セインの口からグランマードの名が出た瞬間、無意識のうちに警戒心が剥き出しになってしまっていた。
 
 とっくに克服したと思っていたが、グランマードの名を聞いた途端にこれだ。俺の心の底には、まだあのときの嫌な記憶が
こびりついているらしい。

「はは……その反応は、正解ってことでいいかな?」
「まあ……そうだな」

 どうやら俺が元グランマード家の者だという確証はなく、かまをかけていたようだ。
 ここでしらばっくれることもできただろうが、別段隠すことでもないと判断した俺は、セインの言葉を肯定する。

「やはりそうだったか……いや実は、八年前に君に声をかけようと動いていたんだ。残念なことに会うことは叶わなかったけど……。
 君の加護のことはそのときに知ったんだよ。まあ、あまりに昔のことだったから、先日改めて記録を調べさせてもらったけどね」

 俺を騎士団に……か。
 八年前ということは、俺がグランマード家を追放された後の話だろうな。

 もしもう少し早いタイミングで騎士団が動いていたならば、俺は父……いや、ミゲル・グランマードに言われるがまま騎士団へと入団していただろう。
 そうなっていたなら、今とは違う人生を歩んでいたに違いない。

「それにしても百を超えるスキルか……そこまでの数のスキルを所有している規格外な者などまずいない。それもそんな若さでだ。
 魔人を単独討伐したというのも頷ける話だね。なあそうだろう? アリューゼ」
「ふん……エドガーが言うのだ。こいつが馬鹿げた数のスキルを持っているのは間違いないないんだろうよ」

 態度こそ悪辣なままだったが、アリューゼはそれ以上は何も言わなかった。
 反対をしないってことはつまり、俺を戦力として認めたってことか。……まあそれはいいんだが、俺のスキルについてちょっと勘違いをしているようだから、少し訂正しておくとしよう。

 編成に組み込まれる以上、正確な戦力は知っておくべきだろうからな。

「あー……ひとつ訂正しておくことがある。俺のスキルが百を超えてるってのは間違いじゃないが、厳密に言うともっと多い」
「なんだって……? まさか倍……二百近くのスキルを有するというのか!?」
「いや、千を超える」
「せ、千!?」

 俺の発言に、この場の誰もが言葉を失っていた。あの高圧的だったアリューゼや、常に冷静でなければならない国王でさえ、口をあんぐりと開けたまま硬直してしまっている。

「嘘だと思うなら、そこの漆黒……エドガーに再度【鑑定】してもらうといい」
「ひっ……! む、無理無理無理無理無理! 絶対に無理! どうせまた途中で気を失うだけだ!」

 エドガーは首を全力で振りまくり、俺の案を否定する。その姿には部隊長としての威厳の欠片もない。

 まあ、威厳はともかく、言うことはもっともだな。いくら身構えていようとも、脳の処理速度が劇的に上がるわけでもない。
 しかし、そうなるとこの場で証明する方法が無いな。

「千の技……か。ときにユーリ殿、その力はいったいどこで手に入れたのだ? そのような力を手に入れるには、途方もない努力の積み重ねがあったのは間違いないだろうが……」

 誰もが口をつぐむなか、国王が俺へと質問を投げ掛ける。
 ……というか、呼び方が変わってないか。ついさっきまでは呼び捨てだったのに、今は『ユーリ殿』と、畏まった言い方に変化している。

 王様にそんな呼び方されるような身分じゃないってのに、少しくすぐったいな。

「……今の俺があるのは師匠のおかげだ。彼女の教えがなければ、千のスキルを身に宿すことは叶わなかっただろう」

 ……まあ、普通の師弟関係てはなく、実際は師匠の目的のために、実験に付き合わされただけなんだな。だが、俺もひとりで生きていく力を手に入れられた。ギブアンドテイクってやつだ。

……と言ったな。もしやそのお方……ユーリ殿の師匠は森の魔女様ではないか?」
「魔女……ああ、そんな名で呼ばれているらしいな」

 実際の師匠は『魔女』なんてミステリアスなイメージじゃない。強いて言うなれば、『鬼婆』とか『怠け女』の方がしっくりくる。

 そう考えながら師匠の実験で酷い目にあわされていたときのことを脳裏に浮かべた、次の瞬間だった。

「ああ……ユーリ殿。いえ、ユーリ様。貴方様を試すような真似をして申し訳ございません。どうかご無礼をお許しくださいませ」

 急に国王が俺の前で跪き、そんな突拍子もないことを言ったのだった――

 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...