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第四章 魔人襲撃
49.千のスキルを持つ器用貧乏
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「こ、こいつのスキルを【鑑定】で覗き見たら、あまりにも多くの情報が頭の中に流れ込んできて……それを処理しきれなくて気を失ってしまったんだ。
こんなことは初めてだ。これまで多くの人間や魔物を鑑定してきたが、普通はせいぜい五、六のスキルしか所持していない。十を超えていれば多いほうだ」
エドガーはそこまで言うと、俺を指差していた腕を下ろし、俯きながら言葉を続けた。
「だというのに……こいつは異常な数のスキルを保有していた。途中で気を失ったから正確な数はわからなかったけど、最低でも百以上はあった」
「なっ、百……だと!? そんな馬鹿げた数のスキルを……!?」
エドガーの言葉を聞き、アリューゼは口を開き驚愕している。だが、それとは対照的に、セインは何かに納得しているかのように、うんうんと頷いていた。
「百以上のスキル……そんな規格外のスキル適性を持つ加護はひとつしか考えられない。
君の加護は【器用貧乏】。そうだよね? ユーリ君……いや、ユーリ・グランマード君と言ったほうがいいかな?」
「――っ」
驚いた……この男、俺の素性を知っているのか。
「ま、待ってくれ。君に対して害意があるわけじゃないんだ。だからその鋭い敵意をしまってくれないか」
「……む、すまない。つい、な」
セインの口からグランマードの名が出た瞬間、無意識のうちに警戒心が剥き出しになってしまっていた。
とっくに克服したと思っていたが、グランマードの名を聞いた途端にこれだ。俺の心の底には、まだあのときの嫌な記憶が
こびりついているらしい。
「はは……その反応は、正解ってことでいいかな?」
「まあ……そうだな」
どうやら俺が元グランマード家の者だという確証はなく、かまをかけていたようだ。
ここでしらばっくれることもできただろうが、別段隠すことでもないと判断した俺は、セインの言葉を肯定する。
「やはりそうだったか……いや実は、八年前に君に声をかけようと動いていたんだ。残念なことに会うことは叶わなかったけど……。
君の加護のことはそのときに知ったんだよ。まあ、あまりに昔のことだったから、先日改めて記録を調べさせてもらったけどね」
俺を騎士団に……か。
八年前ということは、俺がグランマード家を追放された後の話だろうな。
もしもう少し早いタイミングで騎士団が動いていたならば、俺は父……いや、ミゲル・グランマードに言われるがまま騎士団へと入団していただろう。
そうなっていたなら、今とは違う人生を歩んでいたに違いない。
「それにしても百を超えるスキルか……そこまでの数のスキルを所有している規格外な者などまずいない。それもそんな若さでだ。
魔人を単独討伐したというのも頷ける話だね。なあそうだろう? アリューゼ」
「ふん……エドガーが言うのだ。こいつが馬鹿げた数のスキルを持っているのは間違いないないんだろうよ」
態度こそ悪辣なままだったが、アリューゼはそれ以上は何も言わなかった。
反対をしないってことはつまり、俺を戦力として認めたってことか。……まあそれはいいんだが、俺のスキルについてちょっと勘違いをしているようだから、少し訂正しておくとしよう。
編成に組み込まれる以上、正確な戦力は知っておくべきだろうからな。
「あー……ひとつ訂正しておくことがある。俺のスキルが百を超えてるってのは間違いじゃないが、厳密に言うともっと多い」
「なんだって……? まさか倍……二百近くのスキルを有するというのか!?」
「いや、千を超える」
「せ、千!?」
俺の発言に、この場の誰もが言葉を失っていた。あの高圧的だったアリューゼや、常に冷静でなければならない国王でさえ、口をあんぐりと開けたまま硬直してしまっている。
「嘘だと思うなら、そこの漆黒……エドガーに再度【鑑定】してもらうといい」
「ひっ……! む、無理無理無理無理無理! 絶対に無理! どうせまた途中で気を失うだけだ!」
エドガーは首を全力で振りまくり、俺の案を否定する。その姿には部隊長としての威厳の欠片もない。
まあ、威厳はともかく、言うことはもっともだな。いくら身構えていようとも、脳の処理速度が劇的に上がるわけでもない。
しかし、そうなるとこの場で証明する方法が無いな。
「千の技……か。ときにユーリ殿、その力はいったいどこで手に入れたのだ? そのような力を手に入れるには、途方もない努力の積み重ねがあったのは間違いないだろうが……」
誰もが口をつぐむなか、国王が俺へと質問を投げ掛ける。
……というか、呼び方が変わってないか。ついさっきまでは呼び捨てだったのに、今は『ユーリ殿』と、畏まった言い方に変化している。
王様にそんな呼び方されるような身分じゃないってのに、少しくすぐったいな。
「……今の俺があるのは師匠のおかげだ。彼女の教えがなければ、千のスキルを身に宿すことは叶わなかっただろう」
……まあ、普通の師弟関係てはなく、実際は師匠の目的のために、実験に付き合わされただけなんだな。だが、俺もひとりで生きていく力を手に入れられた。ギブアンドテイクってやつだ。
「彼女……と言ったな。もしやそのお方……ユーリ殿の師匠は森の魔女様ではないか?」
「魔女……ああ、そんな名で呼ばれているらしいな」
実際の師匠は『魔女』なんてミステリアスなイメージじゃない。強いて言うなれば、『鬼婆』とか『怠け女』の方がしっくりくる。
そう考えながら師匠の実験で酷い目にあわされていたときのことを脳裏に浮かべた、次の瞬間だった。
「ああ……ユーリ殿。いえ、ユーリ様。貴方様を試すような真似をして申し訳ございません。どうかご無礼をお許しくださいませ」
急に国王が俺の前で跪き、そんな突拍子もないことを言ったのだった――
こんなことは初めてだ。これまで多くの人間や魔物を鑑定してきたが、普通はせいぜい五、六のスキルしか所持していない。十を超えていれば多いほうだ」
エドガーはそこまで言うと、俺を指差していた腕を下ろし、俯きながら言葉を続けた。
「だというのに……こいつは異常な数のスキルを保有していた。途中で気を失ったから正確な数はわからなかったけど、最低でも百以上はあった」
「なっ、百……だと!? そんな馬鹿げた数のスキルを……!?」
エドガーの言葉を聞き、アリューゼは口を開き驚愕している。だが、それとは対照的に、セインは何かに納得しているかのように、うんうんと頷いていた。
「百以上のスキル……そんな規格外のスキル適性を持つ加護はひとつしか考えられない。
君の加護は【器用貧乏】。そうだよね? ユーリ君……いや、ユーリ・グランマード君と言ったほうがいいかな?」
「――っ」
驚いた……この男、俺の素性を知っているのか。
「ま、待ってくれ。君に対して害意があるわけじゃないんだ。だからその鋭い敵意をしまってくれないか」
「……む、すまない。つい、な」
セインの口からグランマードの名が出た瞬間、無意識のうちに警戒心が剥き出しになってしまっていた。
とっくに克服したと思っていたが、グランマードの名を聞いた途端にこれだ。俺の心の底には、まだあのときの嫌な記憶が
こびりついているらしい。
「はは……その反応は、正解ってことでいいかな?」
「まあ……そうだな」
どうやら俺が元グランマード家の者だという確証はなく、かまをかけていたようだ。
ここでしらばっくれることもできただろうが、別段隠すことでもないと判断した俺は、セインの言葉を肯定する。
「やはりそうだったか……いや実は、八年前に君に声をかけようと動いていたんだ。残念なことに会うことは叶わなかったけど……。
君の加護のことはそのときに知ったんだよ。まあ、あまりに昔のことだったから、先日改めて記録を調べさせてもらったけどね」
俺を騎士団に……か。
八年前ということは、俺がグランマード家を追放された後の話だろうな。
もしもう少し早いタイミングで騎士団が動いていたならば、俺は父……いや、ミゲル・グランマードに言われるがまま騎士団へと入団していただろう。
そうなっていたなら、今とは違う人生を歩んでいたに違いない。
「それにしても百を超えるスキルか……そこまでの数のスキルを所有している規格外な者などまずいない。それもそんな若さでだ。
魔人を単独討伐したというのも頷ける話だね。なあそうだろう? アリューゼ」
「ふん……エドガーが言うのだ。こいつが馬鹿げた数のスキルを持っているのは間違いないないんだろうよ」
態度こそ悪辣なままだったが、アリューゼはそれ以上は何も言わなかった。
反対をしないってことはつまり、俺を戦力として認めたってことか。……まあそれはいいんだが、俺のスキルについてちょっと勘違いをしているようだから、少し訂正しておくとしよう。
編成に組み込まれる以上、正確な戦力は知っておくべきだろうからな。
「あー……ひとつ訂正しておくことがある。俺のスキルが百を超えてるってのは間違いじゃないが、厳密に言うともっと多い」
「なんだって……? まさか倍……二百近くのスキルを有するというのか!?」
「いや、千を超える」
「せ、千!?」
俺の発言に、この場の誰もが言葉を失っていた。あの高圧的だったアリューゼや、常に冷静でなければならない国王でさえ、口をあんぐりと開けたまま硬直してしまっている。
「嘘だと思うなら、そこの漆黒……エドガーに再度【鑑定】してもらうといい」
「ひっ……! む、無理無理無理無理無理! 絶対に無理! どうせまた途中で気を失うだけだ!」
エドガーは首を全力で振りまくり、俺の案を否定する。その姿には部隊長としての威厳の欠片もない。
まあ、威厳はともかく、言うことはもっともだな。いくら身構えていようとも、脳の処理速度が劇的に上がるわけでもない。
しかし、そうなるとこの場で証明する方法が無いな。
「千の技……か。ときにユーリ殿、その力はいったいどこで手に入れたのだ? そのような力を手に入れるには、途方もない努力の積み重ねがあったのは間違いないだろうが……」
誰もが口をつぐむなか、国王が俺へと質問を投げ掛ける。
……というか、呼び方が変わってないか。ついさっきまでは呼び捨てだったのに、今は『ユーリ殿』と、畏まった言い方に変化している。
王様にそんな呼び方されるような身分じゃないってのに、少しくすぐったいな。
「……今の俺があるのは師匠のおかげだ。彼女の教えがなければ、千のスキルを身に宿すことは叶わなかっただろう」
……まあ、普通の師弟関係てはなく、実際は師匠の目的のために、実験に付き合わされただけなんだな。だが、俺もひとりで生きていく力を手に入れられた。ギブアンドテイクってやつだ。
「彼女……と言ったな。もしやそのお方……ユーリ殿の師匠は森の魔女様ではないか?」
「魔女……ああ、そんな名で呼ばれているらしいな」
実際の師匠は『魔女』なんてミステリアスなイメージじゃない。強いて言うなれば、『鬼婆』とか『怠け女』の方がしっくりくる。
そう考えながら師匠の実験で酷い目にあわされていたときのことを脳裏に浮かべた、次の瞬間だった。
「ああ……ユーリ殿。いえ、ユーリ様。貴方様を試すような真似をして申し訳ございません。どうかご無礼をお許しくださいませ」
急に国王が俺の前で跪き、そんな突拍子もないことを言ったのだった――
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