千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第四章 魔人襲撃

50.真相に気が付く器用貧乏

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「へ、陛下!? いったい何を……!?」

 一国の王が一介の旅人に跪くなど前代未聞だ。
 そばにいたセインとアリューゼの狼狽えっぷりがそれを証明している。

 かくいう俺も、その様子を表情を崩さすに見ていたが、その実、内心ではかなり動揺していた。
 
「貴方様の話を聞いたときから、もしやと思っておりましたが、先程のお言葉を聞いて確信致しました。
 貴方様が、森の魔女様が遣わした使者であるということを」
「いやいや、待ってくれ。話がまったく見えないんだが……説明してくれないか」

 急に使者って言われてもな……。確かに俺は『魔女』と呼ばれている師匠のとこで過ごしていたが、そんな大層な役目を任された覚えはないぞ。

「わかりました……これは各国の王たちだけに伝えられている、一般には知らされていないことなのですが……魔人の襲来という緊急事態です。お話しましょう」

 国王は背後の騎士団員たちを一瞬だけ見たあと、ゆっくりと語り始めた。

「この世界が平和だったのは、魔女様のおかげなのです。暗黒竜や魔物の大群……国を滅ぼしかねない驚異が現れたとき、それを人知れずに撃退し、秩序を保ってくれておりました。
 実際、我が国も先々代が健在だった頃に魔物のスタンピードが起きたときに、魔女様が鎮めてくれたと記録が残されております」

 そうだったのか……確かに、俺と生活していたときも、急に丸一日以上いなくなることが何回かあったな。
 何をしているのか尋ねてもはぐらかされてしまっていたんだが、まさか世界の平和を守っていたのか……?

「ですが一年ほど前に、魔女様は『じきにこの世界を去らねばならなくなった』とおっしゃられました。
 そして、自分がいなくなったあと、国で対応できない事態が起きた場合、貴方様を頼れ……とも」
「俺を……?」
「はい。その者は千の技を操る魔女の意志を継ぎし者……魔女様曰く、『千技せんぎの魔剣士』ならば、必ずや期待に応えるであろう……と」
「――――は?」

 ――――はぁぁぁ!?

 千技の魔剣士だぁ!?

 あのバカ師匠……適当な異名をつけやがって。それになんだ、『この世界を去らねばならなくなった』って。
 お前ただ別の世界に遊びに行っただけだろうが!!

 ――――ああはいはい、いま納得した。俺が【次元魔法】を習得してすぐに別次元へと旅立たなかったのは、俺に厄介事を押し付けるつもりだったんだな。
 俺がひとりでも生きていけるよう、力をつけてくれているもんだと勝手に思っていたけど、そういう裏があったのか……。

「……ああ、くそっ。なーにが『旅をしろ』だ。要するに各地を巡り問題がないか見て回れってことだろ!?
 行く宛もない俺にとりあえずの目的を示してくれたんじゃなくて、ほとんど自分の都合を押し付けただけじゃないか……!」
「あ、あの……ユーリ様?」

 イライラのあまり頭をかきむしりながら怒声をあげる俺を、王様はおずおずと手を伸ばしながら心配していた。

 ……いかんいかん。つい師匠を相手にしてる感じで独り言を言ってしまった。

「ああいや、すまない……こっちの話だ」
「そ、そうですか」

 王様はひどく申し訳なさそうな表情で俯いた。
 それにしても……なんか凄い違和感あるな。王様なんだから俺相手にそんな下手に出ずにもっと偉そうにしてて欲しい。

「なあ王様……確かに俺は森の魔女……師匠に力をつけてもらった。でも、さっきそこの団長さんが言ったとおり、元々はしがない男爵家の次男坊。それも家を追放された出来損ないだ。
 師匠がどれだけ偉かったかはよく知らないけど、俺相手にへりくだる必要はない。今まで通り、王様らしく接してくれ。そんな態度をとられるとこそばゆくて仕方ないんだ」
「う…………む。了解した」

 王様は渋々といった感じで俺の言い分を汲み取り、言葉遣いや表情を引き締めた。この切り替えの速さはさすがと言うべきだろう。

 まあ、そうでなくては困る。俺がこそばゆいだけならともかく、ここにいる騎士団員……友人関係にあるアニエスですら、俺をどう扱ったらいいかわからずに、ぽかんとしているからな。


 ――こうして、師匠の思惑に気付くことができた俺だったが、やはりやめるなどとは言えずに、魔人討伐戦の参加を決めた。

 そんな回りくどい根回しをしなくても、直接俺に言えばいいのに――――なんて、嫉妬のような拗ねているような、自分でもよくわからない感情を抱えながら。
 
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