60 / 71
第四章 魔人襲撃
50.真相に気が付く器用貧乏
しおりを挟む
「へ、陛下!? いったい何を……!?」
一国の王が一介の旅人に跪くなど前代未聞だ。
そばにいたセインとアリューゼの狼狽えっぷりがそれを証明している。
かくいう俺も、その様子を表情を崩さすに見ていたが、その実、内心ではかなり動揺していた。
「貴方様の話を聞いたときから、もしやと思っておりましたが、先程のお言葉を聞いて確信致しました。
貴方様が、森の魔女様が遣わした使者であるということを」
「いやいや、待ってくれ。話がまったく見えないんだが……説明してくれないか」
急に使者って言われてもな……。確かに俺は『魔女』と呼ばれている師匠のとこで過ごしていたが、そんな大層な役目を任された覚えはないぞ。
「わかりました……これは各国の王たちだけに伝えられている、一般には知らされていないことなのですが……魔人の襲来という緊急事態です。お話しましょう」
国王は背後の騎士団員たちを一瞬だけ見たあと、ゆっくりと語り始めた。
「この世界が平和だったのは、魔女様のおかげなのです。暗黒竜や魔物の大群……国を滅ぼしかねない驚異が現れたとき、それを人知れずに撃退し、秩序を保ってくれておりました。
実際、我が国も先々代が健在だった頃に魔物のスタンピードが起きたときに、魔女様が鎮めてくれたと記録が残されております」
そうだったのか……確かに、俺と生活していたときも、急に丸一日以上いなくなることが何回かあったな。
何をしているのか尋ねてもはぐらかされてしまっていたんだが、まさか世界の平和を守っていたのか……?
「ですが一年ほど前に、魔女様は『じきにこの世界を去らねばならなくなった』とおっしゃられました。
そして、自分がいなくなったあと、国で対応できない事態が起きた場合、貴方様を頼れ……とも」
「俺を……?」
「はい。その者は千の技を操る魔女の意志を継ぎし者……魔女様曰く、『千技の魔剣士』ならば、必ずや期待に応えるであろう……と」
「――――は?」
――――はぁぁぁ!?
千技の魔剣士だぁ!?
あのバカ師匠……適当な異名をつけやがって。それになんだ、『この世界を去らねばならなくなった』って。
お前ただ別の世界に遊びに行っただけだろうが!!
――――ああはいはい、いま納得した。俺が【次元魔法】を習得してすぐに別次元へと旅立たなかったのは、俺に厄介事を押し付けるつもりだったんだな。
俺がひとりでも生きていけるよう、力をつけてくれているもんだと勝手に思っていたけど、そういう裏があったのか……。
「……ああ、くそっ。なーにが『旅をしろ』だ。要するに各地を巡り問題がないか見て回れってことだろ!?
行く宛もない俺にとりあえずの目的を示してくれたんじゃなくて、ほとんど自分の都合を押し付けただけじゃないか……!」
「あ、あの……ユーリ様?」
イライラのあまり頭をかきむしりながら怒声をあげる俺を、王様はおずおずと手を伸ばしながら心配していた。
……いかんいかん。つい師匠を相手にしてる感じで独り言を言ってしまった。
「ああいや、すまない……こっちの話だ」
「そ、そうですか」
王様はひどく申し訳なさそうな表情で俯いた。
それにしても……なんか凄い違和感あるな。王様なんだから俺相手にそんな下手に出ずにもっと偉そうにしてて欲しい。
「なあ王様……確かに俺は森の魔女……師匠に力をつけてもらった。でも、さっきそこの団長さんが言ったとおり、元々はしがない男爵家の次男坊。それも家を追放された出来損ないだ。
師匠がどれだけ偉かったかはよく知らないけど、俺相手にへりくだる必要はない。今まで通り、王様らしく接してくれ。そんな態度をとられるとこそばゆくて仕方ないんだ」
「う…………む。了解した」
王様は渋々といった感じで俺の言い分を汲み取り、言葉遣いや表情を引き締めた。この切り替えの速さはさすがと言うべきだろう。
まあ、そうでなくては困る。俺がこそばゆいだけならともかく、ここにいる騎士団員……友人関係にあるアニエスですら、俺をどう扱ったらいいかわからずに、ぽかんとしているからな。
――こうして、師匠の思惑に気付くことができた俺だったが、やはりやめるなどとは言えずに、魔人討伐戦の参加を決めた。
そんな回りくどい根回しをしなくても、直接俺に言えばいいのに――――なんて、嫉妬のような拗ねているような、自分でもよくわからない感情を抱えながら。
一国の王が一介の旅人に跪くなど前代未聞だ。
そばにいたセインとアリューゼの狼狽えっぷりがそれを証明している。
かくいう俺も、その様子を表情を崩さすに見ていたが、その実、内心ではかなり動揺していた。
「貴方様の話を聞いたときから、もしやと思っておりましたが、先程のお言葉を聞いて確信致しました。
貴方様が、森の魔女様が遣わした使者であるということを」
「いやいや、待ってくれ。話がまったく見えないんだが……説明してくれないか」
急に使者って言われてもな……。確かに俺は『魔女』と呼ばれている師匠のとこで過ごしていたが、そんな大層な役目を任された覚えはないぞ。
「わかりました……これは各国の王たちだけに伝えられている、一般には知らされていないことなのですが……魔人の襲来という緊急事態です。お話しましょう」
国王は背後の騎士団員たちを一瞬だけ見たあと、ゆっくりと語り始めた。
「この世界が平和だったのは、魔女様のおかげなのです。暗黒竜や魔物の大群……国を滅ぼしかねない驚異が現れたとき、それを人知れずに撃退し、秩序を保ってくれておりました。
実際、我が国も先々代が健在だった頃に魔物のスタンピードが起きたときに、魔女様が鎮めてくれたと記録が残されております」
そうだったのか……確かに、俺と生活していたときも、急に丸一日以上いなくなることが何回かあったな。
何をしているのか尋ねてもはぐらかされてしまっていたんだが、まさか世界の平和を守っていたのか……?
「ですが一年ほど前に、魔女様は『じきにこの世界を去らねばならなくなった』とおっしゃられました。
そして、自分がいなくなったあと、国で対応できない事態が起きた場合、貴方様を頼れ……とも」
「俺を……?」
「はい。その者は千の技を操る魔女の意志を継ぎし者……魔女様曰く、『千技の魔剣士』ならば、必ずや期待に応えるであろう……と」
「――――は?」
――――はぁぁぁ!?
千技の魔剣士だぁ!?
あのバカ師匠……適当な異名をつけやがって。それになんだ、『この世界を去らねばならなくなった』って。
お前ただ別の世界に遊びに行っただけだろうが!!
――――ああはいはい、いま納得した。俺が【次元魔法】を習得してすぐに別次元へと旅立たなかったのは、俺に厄介事を押し付けるつもりだったんだな。
俺がひとりでも生きていけるよう、力をつけてくれているもんだと勝手に思っていたけど、そういう裏があったのか……。
「……ああ、くそっ。なーにが『旅をしろ』だ。要するに各地を巡り問題がないか見て回れってことだろ!?
行く宛もない俺にとりあえずの目的を示してくれたんじゃなくて、ほとんど自分の都合を押し付けただけじゃないか……!」
「あ、あの……ユーリ様?」
イライラのあまり頭をかきむしりながら怒声をあげる俺を、王様はおずおずと手を伸ばしながら心配していた。
……いかんいかん。つい師匠を相手にしてる感じで独り言を言ってしまった。
「ああいや、すまない……こっちの話だ」
「そ、そうですか」
王様はひどく申し訳なさそうな表情で俯いた。
それにしても……なんか凄い違和感あるな。王様なんだから俺相手にそんな下手に出ずにもっと偉そうにしてて欲しい。
「なあ王様……確かに俺は森の魔女……師匠に力をつけてもらった。でも、さっきそこの団長さんが言ったとおり、元々はしがない男爵家の次男坊。それも家を追放された出来損ないだ。
師匠がどれだけ偉かったかはよく知らないけど、俺相手にへりくだる必要はない。今まで通り、王様らしく接してくれ。そんな態度をとられるとこそばゆくて仕方ないんだ」
「う…………む。了解した」
王様は渋々といった感じで俺の言い分を汲み取り、言葉遣いや表情を引き締めた。この切り替えの速さはさすがと言うべきだろう。
まあ、そうでなくては困る。俺がこそばゆいだけならともかく、ここにいる騎士団員……友人関係にあるアニエスですら、俺をどう扱ったらいいかわからずに、ぽかんとしているからな。
――こうして、師匠の思惑に気付くことができた俺だったが、やはりやめるなどとは言えずに、魔人討伐戦の参加を決めた。
そんな回りくどい根回しをしなくても、直接俺に言えばいいのに――――なんて、嫉妬のような拗ねているような、自分でもよくわからない感情を抱えながら。
85
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる