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【領主の帰還】

魔王軍のその後②

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 フレアルドは激怒した。

 戦争開始当初は連戦連勝であった魔王軍は徐々に勢いを失い、今では前線の後退を余儀なくされているほど帝国軍に押し込まれていた。
 それも自分が指揮する陸軍のみが敗戦を続けているともなれば、その怒りにも熱がこもる。

「クソがァ! どうして負ける! 役に立たない雑兵共が……!」

 フレアルドは険しい表情でギリギリと激しく歯ぎしりをし、その口の隙間からは炎が漏れ出していた。

 フレアルドの『天与ギフト』『火竜の暴炎サラマンダー』によりその体は熱に対して高い耐性を持ち、炎を自在に放ち操ることができる。

 その口から溢れる炎は、怒りを抑えられずにいるフレアルドの感情そのものだった。

「クソォ……このままでは次期魔王どころか敗戦の将として笑い者にされてしまう……!」

 ガルダリィの指揮する空軍、ミストリカの指揮する海軍は海や空から攻撃を仕掛け、次々と戦果をあげながら敵軍の要所を制圧していた。

 数では陸軍に劣りはするが、地の利を活かした巧みな戦術で部隊を勝利へと導く二人の将軍の武勇は魔王軍内にも広がっていて、その噂を耳にしたフレアルドの焦りが助長される結果となっている。
 
「おい! 陸軍の連中は何故負けているんだ! それを調べるのがお前の仕事だろう!」

 フレアルドは控えていた秘書官の女性へと怒鳴りつける。

 秘書官は焦っていた。今は条約が適応されており、魔王軍の進行は軍事施設のみにとどまっている。
 だがこのまま敗北が重なればフレアルドはいずれなりふり構わず卑劣な手に出るのではないかと危惧していた。

 フレアルドの性格をよく知る秘書官だからこそ、その行動原理を理解していた。

 彼女も魔王と同じく平和を望んでいたので、そういった展開にぬらぬよう最善を尽くしている。
 今回も事前に他部隊への聞き込み調査を行っていた。
 
「は、はい。聞き込みを行ったところ、装備の不足が深刻化していることが大きな要因ではないかと考えられます」

「あァ? 装備だァ!?」

「度重なる戦闘により装備を破損してしまった者が非常に多いです。手配はしているのですが間に合っていなのが現状です」

 魔法や特殊能力を持たない種族にとって装備は非常に重要である。

 人間族に比べ腕力に優れるので戦闘力は高いが、普通の鉄製の武器などはすぐ駄目にしてしまうなど弊害が多かった。
 帝都に近付くにつれ帝国軍は優秀な武装を持つ軍勢が増えてきたので、身体能力に差があってもなまくらの武装では優位性を保てなくなってきていたのだ。

 魔王軍は鍛冶の技術が帝国軍に比べかなり低いので、武装による差が大きく、地の利を活かせる空軍・海軍しか勝てなくなってきている。

「そこで間に合わせのため訓練用の武器を研ぎなおして使ってみたところ、予想外なことに非常に優秀な武器となりました。この武器を装備した部隊は局地的にですが勝利を収めています。そこでご提案なのですが、訓練所にあったものと同じ装備をご用意願えませんでしょうか?」

「あァん!? んなこと俺様に言われたって――」

 何も知らない、と言いかけたフレアルドはふと思い出す。
 陸軍の訓練用の装備補充はあのことに。

 実際アースが作った訓練用の武器は、とにかく壊れないようにとアースの能力によって念入りに強化されており、頑丈さだけで言えばその性能は帝国軍の最新鋭装備をも上回っていた。

 しかしフレアルドは面倒な雑務を押し付けていただけであり、武器の出所は知らずにいた。

「クソ……またあいつか……クソッ――」

「――フレアルド様?」

 歯切れの悪いフレアルドを心配した秘書官は、フレアルドの顔を覗き込む。

「うるさい! 装備は相手から奪えばいいだろう! 俺様の手を煩わせるんじゃねェ!」

「キャッ!」

 フレアルドが近寄る秘書官を乱暴にはねのけ、その勢いで秘書官はバランスを崩し倒れてしまう。

 打ち所が悪かったのか、気を失ってしまったようだった。

 しかし多少暴力を振るった程度ではフレアルドの怒りは収まらない。

 フレアルドの炎は収まることなく燃え続けていた。
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