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【無視できない招待状】

良い経験

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「はぇー……もう何が起きても驚かんと思っとったんやけどなぁ。いやはや、『天与』ってのはつくづく規格外やな」

 鉱石から金属を抽出するような魔法は存在しない。
 もし魔法を用いて同じことをしようとするのであれば、ゼロから新たに魔法を作り出す必要があり、どれだけの時間と労力が掛かるのかわからない。つまりは現実的ではないのだ。
 しかしアース自身はそんな大層な事をした自覚も無く、ついでとばかりに次々と鉱石を精錬していく。

「――ふう、さすがに初めて触る金属の解析は骨が折れるな……しかし勉強になる。殆どが本で読んだことがあるだけで、実物を見ることができたのは良い経験だった」

 ある程度の量の精錬を終えたアースは、その場に座り込み母から受け継いだレシピ帳を開き、今回得た情報を書き記していく。
 夢中で書き記すその顔は、新しいおもちゃを与えられた子供のようにも見えた。

 アースの所属していた魔王軍では、希少な金属を扱うような仕事は無かったので、錬金術師としてのアースにとっては、未知の物に触れるのはかなり新鮮な体験であった。
 触れた金属の情報を解析できるアースにとって、今回の経験は、錬金術師としてのレベルを数段上げたと言えるだろう。

「はは……どんな金属だろうとおかまいなしやな。まあウチとしては助かるわ。……実はな、鍛冶の腕を見込まれてここの責任者やらせてもらうことになったんや」

「おお、そうなのか。コハクが責任者ならば頼もしい。俺も武具を作ることはあるんだが、どれも粗末なものでな……ひとつぐらいは業物と呼べる物を持ちたいと思ってるんだ。そのときは頼りにしてるぞ、コハク」

「おう! 生産力ではあんちゃんに全然敵わんけどな、ウチにはじいちゃんから受け継いだ技術がある! とびっきりの作ったるわ!」

 アースの『天与』で作り出した武具は、鍛冶の技術を持たないアースが見よう見まねで作り出したものだ。
 なまくらというほど粗末でもないが、名匠が鍛え上げた武具とでは比ぶべくもない。

 鉄塊から武器を生成し、その武器種を自在に切り替えながら戦うのがアースの基本的な戦闘スタイルである。
 しかし、今回は周囲の環境に助けられ押し切れたものの、次にメタルイーターのような防御力を持った相手と戦う場合は、その相手に通用する一振りを持っていた方がいいだろうと考えていた。
 
「それに、作るのは武具だけやないで。日用品から魔道具までなんでもござれって感じや!」

「ほう……! 魔道具か! コハクは魔道具も作れるのか?」

「あー、忘れとったけどそういやあんちゃん前に魔道具に興味持っとったな。一応基礎的な部分だけやけどウチも作れるで。最先端の技術を学びたいなら帝都の研究所に行くしかないけどなぁ」
 
 魔道具とは、魔力を動力源とする道具の総称である。
 魔力の補充さえできれば誰にでも扱える画期的な道具で、ここ数年で飛躍的に技術が進歩し、帝都などの発展した都市では人々の生活に欠かせない物になりつつある。
 アースは錬金術師として是が非でも作成技術を習得しておきたいと考えている。
 
「俺は初心者だから基礎で大丈夫だ。今度魔道具を作るときは是非見学させて欲しい」

「ええけど、あんちゃんが魔道具作り覚えたらなんか大変なことになりそうな気しかせぇへんな……」

 コハクはどこか確信めいた予感を感じていた。
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