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【二章】爆・炎・王・女

18.目覚めたらそこは

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 ――――冷たい。なんだこれは、水……?

 ふと、意識が覚醒する。何か冷たいものが顔を伝っていたので指で触れてみると、それは何かしらの液体のようだった。

「……ん」

「――ケイタさんっ! よかった……目を覚ましたんですね!」

 この声……シルヴィアか?

 目を開くと、急に視力が落ちたかのように視界がぼんやりとしていた。感覚的に、今俺は仰向けになっているはずなのに、人の顔のようなものがものすごく近くにある。

 なんだ……どういう状況なんだ?

 たしか俺は魔動人形マギアドールに乗っていたはずだ。それで、急に目の前が真っ暗になって……まさか、その場で気を失ってしまったのか!?
 王女様が降参を宣言していたのは覚えている。そのあと結局どうなったんだ?
 俺が気を失ったことで向こうの勝ちになったんじゃないだろうな。

 慌てて体を起こすが、思ったように体に力が入らない。起き上がることは叶わず、わずかに浮き上がった上体を支えきれずに、一気に力が抜けて倒れ込んでてしまう。

 しかし俺の後頭部は柔らかいものに守られ、事なきを得る。

 柔らかい……そして暖かい……なんだこれ?

 俺を守ったものを確認するため、撫で回すように触れてみる。ほほう、すべすべしていながら弾力もある。それに、心なしかいい匂いがするぞ。

「ひゃん! や……あ、あのケイタさん、くすぐったいです……」

「ん……? えっ!?」

 驚いたようなシルヴィアの声に、ピタッと手を止める。

 ――まさか、これはシルヴィアのあし

 ってことは今俺は、膝枕をされている?

 あのHIZAMAKURAを!?

 いかんいかん、大変なことをしてしまった。知らなかったとはいえ、乙女の柔肌をこれでもかと堪能してしまったのだ。
 ビンタの一発や二発……いや、投獄もあるかもしれない……!

「ご、ごめんっ!」

 ぼやけていた視界も元に戻り、シルヴィアの赤くなった顔を眼前に確認した俺は、その場を飛び起きようとする。
 だが、やはりと言うか力が入らない。健闘むなしくこの世の楽園へと舞い戻ることとなった。

 ああ、心地よい。膝枕なんて小さい頃母親にしてもらった以来かな……。

「ケイタさん、無理はしないでください。目を覚ましたとはいえ、危険な状態だったんですから、しばらくはこのまま休んでいてください」

 あれ、許された?
 しかもこのまま寝てていいの?

「あ……でもくすぐったいので触ったりするのは、その……少しだけにしてくださいね?」

 えっ、少しならいいの!?
 ――って、それより危険な状態だったって言ってたけど……俺ってそんなにヤバイ感じだったのか?

「シルヴィア、俺はいったい……?」

「私たちの勝利を宣言されたあとすぐに、ケイタさんは倒れてしまったんです。魔力欠乏症に近い症状だったので、すぐにここの控え室へ運ばれたのですが、ベッドがなくて……。私の膝で申し訳ないですが我慢してくださいね」

 勝利宣言……勝ったんだな。よかった。

 そして、この部屋にベッドがなくて心底良かったと思う。神様、ありがとう。

 ――あ、よく見るとシルヴィアの目元が赤くなっている。――そうか、最初に感じた冷たさは涙だったのか。泣くほど心配してくれたなんて、不謹慎だけど嬉しいな。

 まだ頭がぼーっとするのと、体に力が入らないぐらいで他は大したことはない。なんとなくの感覚でしかないが、少なくとも死ぬことはないと思う。

「ごめんシルヴィア、もうしばらく休めば大丈夫だと思う」

 魔力欠乏症ってのがどんな症状かはわからないが、シルヴィアの様子を見るからに、死に至る可能性があったのだということは理解できた。

 魔力欠乏症……多分だけど魔力を全て使いきった時に起こる症状だろうな。

 その考えに至り、得心がいった。あの新機能『リミットブレイク』で得た膨大な魔力はどこからきたのか。

 魔動人形のエンジンはそれこそ無限に魔力を生成できるけど、あくまでも微量なものだ。あの出力を維持し続けられはしない。

 となると、供給源は一つしかない。

 魔力を持つ存在……そう、搭乗者だ。

 俺の魔力を吸収して機体に還元していたのだろう。それも最後の一滴を搾り取るまで際限無くだ。
 そう考えるとこの機能は諸刃の剣だな。使ったあと倒れてしまうのは考えものだし、しかも死に繋がる危険性があるなら尚更だ。

 後でスマホを見て詳細を確認しておこう。

「――あっ、俺のスマホは!?」

 戦闘中は魔動人形にセットしていたのだが、気を失ってしまったため行方がわからない。
 正直スマホがないとかなり不便だ。異世界に来てもスマホ依存症ってのは皮肉な話だが、事実なのでしょうがない。

「私が預かっていますよ。倒れているケイタさんの側に落ちてましたので、拾っておきました」

 よかった、シルヴィアが預かっていてくれたんだな。

「よかった~、ありがとうシルヴィア」

「いいえ、お役に立ててなによりです」

 そう言ってシルヴィアは照れくさそうに微笑む。……可愛い。天使かな?

「ふぁ~ぁ……眠くなってきた……」
 
 俺は大きなあくびをする。スマホが戻って安心したのと、小難しいことを考えて脳を使ったからなのか、眠気が一気に襲ってきたのだ。

「無理せずに休んでいてください。今クロードが馬車の中に簡易ベッドを用意してくれています。準備が整うまでは私が見ていますので安心してくださいね」

 シルヴィアもまだ膝を貸してくれるみたいだし、もう一眠りしてもいいよね。

「うん……おやすみ――」

 バタァン!

「――ふがっ!?」
 
 心地よく微睡みに落ちようかといったその瞬間、勢いよく扉が開かれ、予想外の人物がこの場に現れたのだった。
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