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終章 光の勇者と神緑の魔術師

第五話 勇者の愛*

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 滾る欲望のまま彼に触れてはいけないと思う。これまで苦労してきたニコだからこそ、ハロルドは彼に気持ちがよくて温かいものだけを与えたかった。
 ニコの薄い唇に食むように口づけて、それからゆっくりとその輪郭を辿っていく。細い首筋、浮いた鎖骨、それから薄くて白い胸にたどり着く。ニコの肌は元々雪のように白かった。

 その白い肌には、右半身に広がる大きな火傷の痕がある。黒焔に炙られ、呪いを受けた皮膚は引き攣れてぼこぼことしていた。けれど、ニコの身体の傷は火傷の痕だけではない。全身に切り傷や矢傷といった戦いで負った様々な傷痕があった。

 それをニコ自身はひどく醜いと思っているらしい。しかし、ハロルドは逆だと思うのだ。
 ニコの傷は、彼がこれまで戦場で守り続けていた人々の数そのものだ。強く美しく、それでいて誰よりも優しいニコの生き方そのもの。
 ハロルドはそんな傷跡に感謝するように、ひとつひとつ恭しく口づけていく。

「ん、ッあ、あ、ぁぐッ」

 傷の部分は皮膚が薄く、触れるとくすぐったいとニコは言う。
 擽ったいということは感覚が鋭敏だということだ。触れれば、ニコの身体は面白いくらい大きな反応を返してくれる。今だってニコは堪えきれない嬌声を何とか飲み込もうと、左手の甲を口に当てて耐えている。
 ニコは美しい。ハロルドにとってこの世界の誰よりも綺麗で愛おしい人だ。
 胸の傷を舐めて、ゆっくりと傷の隣にある小さな突起に吸い付いた。その瞬間、ニコの細い腰が面白いくらい跳ねた。

「あ……ッ」

 これはニコとこうして触れ合うようになってから初めて知ったことだが、どうやらニコは胸で感じる才能があるらしい。吸ったり舐めたりするとひどく反応するのだ。同時に硬く閉じていた蕾も緩んでくるから、ハロルドはいつも嬉々としてニコの胸に吸い付いてしまう。

「ふはっ」
「なに?」

 淡く色づいた乳暈を舐めていると、頭上で軽い笑い声が聞こえた。
 見上げれば、ニコがハロルドを見てくつくつと笑っている。

「なんか、赤ん坊みたいだと思って」

 ハロルドが胸を愛撫する様子が、必死に乳を吸う赤ん坊に似ているとニコは言う。その言い草にハロルドはむ、と口を尖らせる。ここまできてまだ子ども扱いをするのか、と思うと少しだけ腹立たしい。

「赤ん坊かどうか、試してみる?」
「へ? あ、ちょっと、ハロルドッ、ンん、……ッ」

 ニコの余裕が悔しくて、ハロルドは強くニコの胸の飾りを吸った。同時にまだ触れていなかった陰茎にそっと触れる。亀頭のくびれを掴んで、ゆっくりとした動きで扱き上げた。
 赤ん坊はこんなことしないだろう。そんな気持ちを込めてハロルドはニコの感じる部分を刺激する。乳首への刺激だけで十分に先走りを零していたニコの先端は、擦るたびにちゅこちゅこと卑猥な音をたてた。
 それがニコの羞恥を煽ったのだろう。真っ赤な顔で声を殺すニコの様子が堪らなくて、つい手にも唇にも力がこもってしまった。

「は、あ、だめ、だめだ、ハロルド」

 だめ、だめ、とニコが何度も首を横に振った。敷布の上でニコの青い髪が揺れる。
 こんなに気持ちよさそうなのにどうして止めるのだろう、と首を傾げて、ああ、とハロルドはそのことに思い至る。

「イキそう?」

 唇を離して訊ねると、ニコはがくがくと頷いた。

「離してくれ、このままじゃ挿れる前にいっちゃうから」

 そう息も絶え絶えに言ったニコは、僅かな力で何とかハロルドの頭を引き離そうとする。
 魔力が極端に少ないニコは体力がない。そのため、一度達するとそれだけで全ての体力を使い果たしてしまうらしく、すぐに寝てしまうのだ。
 今回はお互いをただ気持ちよくするだけが目的ではない。いつもの触れ合いよりもさらに深く繋がることが目標なのだ。

 せっかく気持ちがよさそうなのに、と残念ではあったが、ニコの言うことはもっともだった。
 快楽で震える細い身体から名残惜しげに離れ、ハロルドは寝台の横にある棚から小さな壺を取り出した。手のひらに乗る大きさのそれは、開けるとふわりと爽やかな匂いがする。ニコが肌の保湿に使っているシアの葉の軟膏だ。
 シアの葉は北部の森に自生する植物で、火傷や傷といった小さな外傷の治療に使われる薬草だった。ニコはそれを軟膏に加工して、自分の火傷痕に塗っているのだ。

 それがなんと、交合のときの潤滑剤にちょうどよかった。触れ合い始めた当初、ニコの後ろを慣らすためにハロルドはいろいろな潤滑剤を試してみた。その結果、これが一番具合がよかったのだ。
 手のひらで温めるととろりと溶ける油脂と殺菌と消毒の効果のある薬草は、粘膜に使っても問題はなく、元々が傷薬だから少々肌が傷ついても安心だった。もちろん、ニコを傷つけるようなへまは決してしないけれど。
 軟膏をたっぷり指にとって、ハロルドはニコの太腿の間に身体を割り込ませた。細い足がまるでハロルドを招き入れるかのように大人しく開いた。

 ニコのほとんど肉のない双丘を開いて、さらにその奥に隠された秘所を晒す。さすがにそこは傷痕はなく、薄っすらと色づいた慎ましく閉じた蕾だけがあった。
 ハロルドは慎重にその蕾に軟膏を塗りつけた。まだ硬い筋肉を揉み解すように、指の腹で軟膏を塗り込んでいく。同時にニコの下半身に顔を近づけ、ぱくり、と陰茎を咥えた。

「んぁ!? は、ハロルド!?」

 驚愕したニコの戸惑う声がする。それにハロルドは分かっているから、と咥えたままで頷いて、そのまま唾液を絡めてじゅるじゅると吸った。

「ァあッ」

 途端に頭上であえかな声が響いた。
 ハロルドはせっかく触れ合うのだから、ニコにも気持ちよくなって欲しかった。まだいかせることは出来ないが、それでも気持ちいいと思って欲しい。
 それに後孔を解すときは、他にも「気持ちがいい」場所があった方がいい。慣れた陰茎への刺激を同時に与えることで、ニコの身体も後ろを弄ることも気持ちがいいものだ、と覚えてくれるはずだ。

 ゆるゆると陰茎を舐めながら、ハロルドはニコの後孔を拡げることに専念した。
 軟膏を中の粘膜に塗り込みながら溶かしていく。最近こうやって定期的に拡げているからか、ニコの後ろはすぐにハロルドの指に馴染んでくる。中指を根元まで入れて、ゆっくりと引き抜く。その動きを繰り返すたびに、ニコの中がハロルドの指を歓迎するように蠕動した。

「指、増やすよ」
「ん……」

 ハロルドはニコに断ってから、人差し指と中指をまとめて中に押し込んだ。
 二本の指をばらばらと動かして、より雄膣を拡げるような動きをする。そうするとその動きに合わせてニコがふうふうと長く息を吐いてくれるのだ。
 中が緩んできたのを確認して、ハロルドはそろそろいいかな、とニコの腹側の粘膜を探り始める。陰茎の裏、柔らかい腸壁の向こうに触ると少し感触の違う場所がある。何度も触れたそれをハロルドは指の腹でぎゅうぎゅうと優しく押しつぶした。

「あっ、あ、ひッ」

 途端にニコの声が変わった。陰茎を咥えたときよりもさらに切羽詰まった、今にも泣き出しそうな声だ。あまり強く押すと感じすぎて苦しい、と言われるので、ここも刺激しすぎないようにする。ここに触れるとニコは激しく乱れてしまうからだ。
 前立腺だ、と教えられたそこは、男が中で感じる場所のひとつらしい。

 解剖学の本を片手にニコに指導されたときは何と色気のないことだろう、と思ったハロルドだったが、その効果は覿面だった。最初は違和感しかない、と言っていたニコも回数を重ねるごとに快感を拾うようになったらしく、今ではひどく気持ちがよさそうだ。
 具合を確かめながら、ハロルドは何度も軟膏を塗り足した。そうして指が三本入ったあたりで、ニコが「もういいから」と息も絶え絶えに言った。

「でも……」

 まだ早いのではないか、と躊躇うハロルドにニコは苦笑する。もどかしい、と言って目を細めた彼は息を飲むほど妖艶だった。

「そこまで解れたら、大丈夫だろ。後はお前のこれで解して」

 自由に動く左足の甲でニコがハロルドの下肢を撫でた。ニコの痴態に興奮して、そこはもうがちがちに硬くなっている。それにニコはとうに気づいていたらしい。
 ニコに促されて、ハロルドはボトムの腰ひもを緩めた。革のボトムとその下に履いている下履きを取り去ると、解放されたハロルドの雄がぶるんと飛び出してくる。その勢いの良さにニコは声を出して笑う。

「いいよ、おいで」

 脚を広げて、ニコがハロルドを誘う。それに導かれて、ハロルドは腰を進めた。
 挿入前に陰茎に軟膏を塗ることは忘れなかった。ニコの後孔はもうすでにニコ自身の先走りや塗り込めた軟膏でたっぷり濡れているけれど、少しでも負担を軽減したかった。

 軽く扱いて先端を蕾に宛がい、ゆっくりとハロルドは中に自らを押し込んでいく。それに合わせて、ニコが眉を寄せて軽くいきんでくれた。
 亀頭部分の一番太い部分がぐぐっとニコの中に飲み込まれた。同時に温かくぬかるんだ中に受け止められて、ハロルドはあまりの気持ちよさに唸り声を上げる。

「は、ぁッ、ああ」

 ニコの呼吸に合わせて、ハロルドは少しずつ彼の中を犯していく。


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