めぐる風の星唄

風結

文字の大きさ
16 / 49
炎の凪唄

休憩時間

しおりを挟む
「ーー九十八、九十九、百っ!」
 大きな歩幅で百歩、目的地である山に向かって歩く。
 距離を稼ぐべく、跳ねるように大股で駆けたいが、それだと体力が持たない。
「やぁっ!」
 オルタンスは、正面から打ち込んでくる。
 魔法剣を使わないとき、彼女は、長剣を用いる。
 実力差がある、俺が相手だからなのか、真っ向勝負。
 絶雄直伝の、王者の剣で叩きのめされる。
 長剣の、重たい一撃を流し損ね、反応が遅れる。
 犬人ウンターのーー人種アオスタを超えた獣種の膂力りょりょくによる、必殺の打ち下ろしが、俺を真っ二つにーーしなかった。
「……はぁ~」
 アルの風の絨毯なのか、俺の体に施された魔法が、彼女の剣を受け止めてくれる。
 もう、何十回目なのかはわからないが、一つ、はっきりしていることがある。
 ーー全敗。
 だが、嘆いている暇などない。
 これから、また百歩、移動しないといけないのだ。
「は~い、昼餉の時間ですよ~」
 現金なものだ。
 ぐぅ~、とお腹の虫が怒りを爆発させ、オルタンスだけでなく、やってきたアルとボルネアも俺を見る。
 昨日の、アルの夕飯が豪華だったお陰で、ここまで持ったが、それも限界。
 俺は、その場に倒れ、全身から力を抜く。
 体力のある獣種でもきつかったようで、オルタンスも、くたり、としゃがみ込む。
 俺の上に、ふよふよ~とパンが漂ってくる。
 パンには、たくさんの具材が挟まれているが、確認する暇もあればこそ、無意識に口に運んでいた。
「うわ……、何か練り込んでいるのか? パンまで美味いぞ」
 疲れてはいるが、無言で食べるだけなのは味気ないので、話し掛けることにする。
「ボルネアは、何をしていたんだ?」
 彼女は、精神的に疲労しているようだったので、アルに尋ねる。
「歩きながら、呪文を唱えていました」
「歩きながら? ーーそうか、普通は、集中するためなのか、止まって魔法を使っているが、そんな決まり事なんてないんだな」
「はい。ここまでは、歩きながら初級魔法を行使しました。ここからは、十種の魔法を成功させることが、クリアの条件です」
 パンに齧りついたまま、ボルネアの頭が、がくりと下がる。
 複数の物事を同時にーーというのは、そこまで難しくないような気もするが、魔法が使えない、門外漢の俺は、論評を控えておいた。
 何より、当然、二人おれたちの食欲を減退させる内容も発表するのだろうから、身構えておく必要がある。
「ボルネア。ここまで、ラクンさんと闘っていましたね」
「え、あ…、はい、アル様」
「それでは、闘う以外に、何かしましたか?」
「…………」
「ラクンさん。わかりますか?」
 オルタンスが、いじけた目で見てくるが、俺にはどうすることもできない。
 唯々諾々と、アルの求めに応じる。
「そうだな。この鍛錬は、俺よりも、オルタンスに比重が置かれている。闘ってみてわかったが、アルは、剣でもオルタンスより上だ。まず、目的の一つは、自分よりも弱い相手と闘うこと、だな」
「正解です。オルタンスは、強い相手と闘うことに慣れてしまっています。自分より弱い相手とも、全力で闘ってしまうのです。言い方は悪いですが、手抜きや、手加減といったものを、覚える必要があります」
「んで、目的の二つ目は。教わる側、じゃなくて、教える側?」
「はい。オルタンスはこれまで、ずっと、カステルから、教わる側でした。少し、きつい言い方をすると。ーーただ、言われた通りにするだけでは、やるだけ無駄です。僕は、人形が欲しいわけではありません。ーーこのままでは、僕は、二人を好きになることが、できません」
「……っ!?」
「ーーっ!!」
 アルの本心なのだろうが、本当に容赦がない。
 だが、これが二人が求めた結果なのだ。
 魔雄という、ことわりから外れたような存在と絆を深めるのなら、自ら、そのげんかいを破らなければならない。
 などと、現実おれが偉そうに言えた義理ではないが、幻想まぶしいものに手を伸ばし続けた苦悩は、知っているつもりだ。
「というわけで、オルタンスは、頂上に着くまでに、ラクンさんを強くして下さい。その上で、全勝して下さい。逆に、ラクンさんは、一勝で良いので、して下さい」
 一度も負けてはならない、という精神的圧迫プレッシャー
 それと、俺への指導という、未体験の事柄が二つ。
 アルが残念そうな顔をしているのは、今日も二人の頭を撫でることができないと、半ば確信しているのだろう。
 オルタンスの剣技は、美しい。
 同時に、それだけのものなのだ。
 絶雄の剣技、そのもの。
 だが、彼女は、絶雄ではない。
 ーー本当に、徹底的に、アルは、俺を利用する気、満々。
 オルタンスが、俺を強くすることができれば、きっと、俺は勝てるだろう。
 そして、そのあやに気づけないだろうオルタンスと、俺の関係は、いっそう拗れることになる。
 明日には、ボルネアの魔法の標的にでも、させられるのかもしれない。
「……はぁ~」
 俺は一旦、頭を空に。
 唯一の楽しみとも言える、美味しい食事を、じっくりと味わうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...