めぐる風の星唄

風結

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炎の凪唄

ベルニナ・ユル・ビュジエ 10

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 父様っ!
 母様っ!
 凍えていた心が、恐怖で染め上がった瞬間、あたしは駆け出していた。
 あたしが助かったって、二人が死んでしまったら、意味がない!
 ーー本当に、そうかしら?
「っ!」
 あたしの内の、何かだれかが、勝手に問い掛けてくる。
 ーー自分だけが助かることを、喜んだでしょう?
「やめてっ、やめてっ!」
 聞きたくないっ、聞きたくないっ!
 ーー何一つ、犠牲にすることなく、願いが叶うとでも思ったの?
 ああっ、あたしは、何て愚かだったの!
 あの男の、顔が浮かぶ。
 あたしは、必死で遺産を解放しようとしていた。
「そんなことっ、何も意味がなかった!」
 すべて、あの男の、手のひらの上だった。
 もてあそばばれていただけ。
 あたしが何をしようと、関係ない。
 ぜんぶぜんぶ、あの男の意思で決められた。
 あの男が、父様と母様を助けてくれた。
 無様にも、あのとき、叫んでいた。
 二人を助けて欲しいと、懇願していた。
「ああ……」
 ……あの男は、あたしのことなんて、見てもいなかった。
 あたしが入り込む余地なんて、始めからなかった。
 旅をしたことも、魔法を学んだこともーー。
「あたしが、生まれてきたことも……」
 ……体から、力が抜ける。
 もう、何も感じなくなったから。
 感じたくなかったから。
 そのまま、消えてしまえばいい。
「……きゃっ!?」
「ぐっ……」
 ……な、何?
「……?」
 よくわからないけれど、あたしは、酷く安心できる温かさにいだかれていた。
 ーーもしかして、あたしは、もう死んでしまって、アウマクアの御許に送られたのかしら?
「せめて、前を見て走ってくれ。樹にぶつかるところだったぞ」
「え……?」
 え?
 ……と、え?
 有り得ない状況に、頭が上手く機能してくれない。
 あたしの前に、男がいて、男は、樹を背中に、立っていた。
「…………」
 ……密着している。
 ーー抱擁?
 異性で、父様以外に、こんなにくっついたのは、初めてーー。
「ぃっ!?」
 ななななっ、何っ、なんなのっ!?
 何であたしは、頭を撫でられているの??
 そ、それよりもっ、すごく安らげて、心地好いみたいな感じがするからって、どうして無防備に撫でられたままでいるのよ!!
「ーー?」
 勝手に、涙が流れてきた。
 わかる。
 これは、悔しさだ。
 怒りの、向けどころがわからない。
「何か、あったのか?」
「あなたには! あなたなんかにはっ、わからない!!」
 一瞬で、猛った。
「何でもできるっ、あんな強大な魔法をっ、魔法陣なんてわけのわからないものをっ、魔雄であるかどうかなんて関係ないっ、滑稽よねっ、あたしなんてっ……」
 撫でていた手が、頭の後ろにいったと思ったら、引き寄せられる。
 その事実を認識した、瞬間、体が炎に包まれたげんかいとっぱ
「ああ、すまん、軽率だったな。兎も角、自分を貶めるようなことは、言わないでくれ」
「ーー自分? ……自分なんてっ、あたしのっ、こんな体! 欲しければ上げるわ!」
 何だか、もう、訳がわからなくなった、あたしは、男の言葉に、反発することしかできなくなって。
 勢いのままに、服に手を掛けて、破って、胸を露出させる。
 本当の自分じゃない、この体を、いくら凌辱されたところで、あたしが何かを感じるはずがない。
 ーーあとは、勝手にして。
 もう、どうでもよくなって、体から力を抜いたのだけれどーー。
「……?」
 何もしてこないので、不思議になって、見上げると。
 男が、あたしを、見ていなかった。
 真っ直ぐに、あたしを見たまま、目を閉じていた。
 矛盾したような言い方だけれど、それ以外に、どう表現したらいいのかわからない。
「見損なってくれるな。俺は、俺が好きな奴が、俺を好きでない限り、何もする気はないし、何もさせる気はない」
 普段なら、男の言葉を、好ましいものだと、思ったかもしれない。
 でも、あたしの、女の部分が、それを受け容れなかった。
「……あたしなんて、抱く価値もないってことね」
「そうじゃない」
「……え?」
「お前は、美しい」
「ーーっ!?」
 アンリさんに言われたときは、何も感じなかった。
 ーーそういった言葉は、誰に言われたのか、が重要だと思う。
 そんな風に、考えていたけれど。
「ぁう……」
 冷静さを装おうとしたけれど、こんなのっ、無理よ!
 どうしていいかわからず、あたしは、否定することしかできなかった。
「こんなっ、容姿なんて! どうせ、あたしなんて、偽物……」
「勘違いするな。俺は、人形に恋する趣味はない。人の容姿には、どうやったところで、その人物の、本性が、表れる」
「…………」
「お前の、内に秘めた、純然たる炎が、輝かせる姿。もう一度、言おう。ーーお前は、美しい」
「ぅあ……」
 ちょ、わ、もう、わからない、こ、これは、口説かれているの??
 た、確かにっ、好みとか、そんなこと思っていたし、心臓の鼓動が勝手にがなってしまっているけれど。
「まだ、名乗っていなかったな。俺はーー、ラクンだ」
「あ、あたしは、ベルニナ……え? 可愛い、兎さん……?」
「……何の話だ?」
 え……、え?
 同名?
 でも、アンリさんは、「神才」と言っていたし、この男ーー「ラクンちゃん」より才能がある人なんてーー。
「あ、こちらにいましたか。ラクン・ノウさん、捜しましたよ」
「っ!!」
 みっ、見られた!?
 あ、え、あ、ふゆふゆ~~っ!!
「おっとーー」
 限界の限界を突破しまくった、あたしは、「ラクンちゃん」の温もりと匂いを薙ぎ払うために、ふあふあの妄想ネーラさんを求めて、女の腕とは違う、たくましい腕から抜け出したのだった。
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