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二十三話 「身の上話」

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『本当にすみませんでした!』


ダンジョンから帰って後、アレッサは目覚めると開口一番地面に擦り付ける勢いで頭を下げ謝罪してきた
心を乱し冷静さを欠いて魔法の乱発、挙句魔力枯渇を起こして仲間に迷惑をかけてしまうという失態を思い返して自己嫌悪に苛まれていた
それに対しアッシュは責めるつもりはなかった


『まぁあれだけの数が一斉に襲ってきたら取り乱しても仕方ないですよ。次からは別のルートを選んでやりすごしましょう。遠回りにはなりますがあそこを突破するよりはマシですからね』

『・・・怒らないんですか?』

『怒る?なんでですか?』


パーティを危険な目に遭わせておいて当の本人は呑気に気を失っていたなんて怒られて当たり前、パーティから外されても文句は言えない
そう叱責されると思っていたようでアッシュの予想外の反応にアレッサは戸惑っていた


『だってあんな事で取り乱して・・・だからきっと凄い怒っているんだろうなって』

『ん~・・・まぁ僕自身も失敗ばかりだったので人の事をとやかく言えないと言いますか。こうして何事もなく帰ってこれたわけですし何よりアレッサさん自身がちゃんと反省してる。だからこの失敗を次に活かせるよう頑張りましょう』


アッシュの言葉に罪悪感を抱いていたアレッサは少しだけ気持ちが楽になったのか表情が和らいだ
失敗を反省するのは大切な事だがだからといっていつまでも引きずっていては却ってパーティに迷惑がかかってしまうことがある
成功も失敗も自身の糧にして次へ進まなくてはいけない。生きていれば次があるのだから


『ありがとうございますアッシュさん。私次はちゃんとしますから!』

『まぁ恐らく僕の方が色々やらかしちゃうと思うんで先に謝っておきます。すみません』

『ふふっ・・・それにしても時間ができちゃいましたね』


時刻はまだ昼を過ぎた位、今日は一日ダンジョンに潜るはずで予定を空けていたのでかなりの時間を持て余してしまっている
アイテムもそこまで消費していないので買い出しの必要もない
やる事といえば装備の手入れ位なものだが、それもすぐ終わってしまうだろう


『アッシュさん、私はもう一人でも平気ですから出かけてきて大丈夫ですよ』

『いえ、僕も特にやることないんですよね・・・そうだ、パーティを組んでからそこそこ経っているのに僕まだアレッサさんの事あまり知らないんですよね。この機会に色々話を聞かせてくれませんか?』

『そういえばお互いそういう話ってしていませんでしたね。じゃあまず何から話しましょうか』


仲間の個性を知っておくのも必要な事。空いた時間を使ってアッシュとアレッサはお互いの事を色々と話した
自分の好きなものや嫌いなもの、得意なことや苦手なこと。そして本当に今更だが年齢も教えてもらった
アレッサはアッシュよりも一つ下の十五歳。同年代とは思っていたがまさか歳下とは思っていなかったので驚かされた
アレッサの恩恵ギフトについても聞くことが出来た
彼女の恩恵は"魔法効果上昇"
使用する魔法の効果を上げるという魔導士にとってうってつけの恩恵、初級魔法であれだけの威力を出していたのも頷ける
色々話をしているうちに今度は互いの故郷の話題に切り替わった


『僕はこの町から一週間程歩いた場所にあるリエス村というところで十五まで暮らしていたんです。これといって何かある村ではないんですけどのどかでいい村なんですよ』

『へぇ~、今度行ってみたいですね。ご家族は何をされているんですか?』

『あぁ、僕両親がいないんですよ。なんでも赤子だった僕は村の教会の前に捨てられていたみたいなので本当の親の顔はおろか生きているのかも分からなくて。強いて言えばシスターが僕の母親ですかね』


アッシュは生まれて間もなくして天涯孤独の身となった
教会での生活は決して裕福な生活とはいえなかったが、冒険者になった後ひもじい生活に耐えることができたのは似たような生活を小さい頃から送ってきたお陰もあるのかもしれない
親はいなかったがだからといって決して不幸だったわけではない
教会のシスター達はとても優しかったしアッシュと似た境遇の他の子供もいたので寂しいと思ったことは一度もなかった


『そうだったんですか・・・大変だったんですね』

『まぁいい思い出もたくさんありますからね。そうそう、家族といえば僕よりも歳上でお姉さんみたいな存在の人がいたんですがその人も冒険者になったんですよね。僕がこの町に来た時にはもういなかったので既に次のダンジョンに向かっていると思いますが。会いたかったなぁ』

『じゃあいつか再会する為に頑張らなきゃですね』

『はい!それでアレッサさんはどこの出身なんですか?遠い所から来たというのは以前聞きましたが』


アッシュが尋ねると今度はアレッサが自身の故郷を話し始めた
アレッサはルグニア大陸にあるバレンツォというところで生まれ育ったらしい
アッシュ達が現在いる大陸はアストラ大陸、ルグニア大陸とは海を挟んだ場所に位置している
バレンツォはそのルグニア大陸の中でも三大都市に入る大都市だ
ここからバレンツォに向かうには陸路、海路を使って二ヶ月近くはかかるはず。そんな遠い場所から一人で来たなんてよく親御さんが了承したものだ
大陸間の移動だとそれこそ大金が必要となってくるのだが、アレッサの家はそんな大金をポンと出せるような裕福な家庭なのだろうか
アレッサはその事についても軽く話してくれた


『私の家は代々魔導士の家系で兄と妹がいるんですがその中でも私は一番の出来損ないで・・・実は家族の中ではおちこぼれと呼ばれていたんです』

『えっ!?アレッサさんがですか?そうは思えませんが・・・』

『私なんかより兄や妹の方がずっと優秀なんですよ。両親も兄や妹に劣る私を疎ましく思っていたでしょうね。冒険者になると言ったらすんなり渡航費を出してくれました。厄介払いをするのに丁度よかったんでしょう』


家族がいても必ずしも幸せ、ということではないんだろうか
自分と境遇は異なるがアレッサが同じようにおちこぼれと呼ばれていたなんて想像がつかなかった
アッシュの中での彼女は強力な魔法を使う頼れる仲間、身内で少し劣っているからといって貶すのは納得がいかなかった


『だったらダンジョンを攻略していってその人達を見返してやりましょう!微力ですけど僕とクウもいます!』

『アッシュさん・・・ありがとうございます。これからも力を合わせて頑張っていきましょうね』

『はい!』


時間が空いたお陰で色々と互いの事を知れて距離も縮まったような気がした
これからも時間が空いた時にこうして話をするのもいいかもしれない
身の上話をしているうちにすっかり日も暮れいい時間になり、アレッサの体調もすっかり元通りになったので夕食を食べに町へと消えた


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