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16日目①
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.。*゚+.*.。 16日目 ゚+..。*゚+
「君に聞きたいことがある」
「なぁに、レオナード。先日みたいに八つ裂きにされるっていうくだらない質問なら、答える前にあなたを窮地に追い込むわよ」
「いや、今日は至極真面目な質問だ。それに、先日の質問には、それなりの理由があったんだ。いやその前にだな────」
「グダグダ前置きが長いわね。で、聞きたいことって何?」
「………………なぜこれを付き返した?」
「ちょっと待って、レオナード。あなた大丈夫?」
「ああ、体調はすこぶる良い」
「そうじゃないわ。私はあなたの記憶力を心配して大丈夫かって聞いてるのよ」
「………………………………………」
これと言ったレオナードの手のひらには、昨日私が身に付けていた宝石があった。一つはネックレス。もう一つは、髪飾り。
陽の光を浴びて、2つとも昨日の夜会の時と同様にキラキラと光り輝いている。でも、私にはその下に見える。彼の剣だこの方がよっぽど綺麗に見えてしまう。
「昨日のやりとりは覚えている。ミリア嬢、君が私の手にこれを無理やりねじ込んで、さっさと帰宅したことをな」
「人聞きが悪い言い方をしないで、レオナード」
うっとりと剣だこを見入っていたのに、それを遮断された私はついつい苛立った声を出してしまう。
いや、正直に言うと、かなり前から私はそこそこの苛立ちを覚えていたのだ。
一晩経った私達は、久方ぶりに東屋でお茶を飲んでいる。馴染みのあるここで過ごすと、平和な日常に戻ったことを実感する。
けれど、私の服装は昨日のドレスとは程遠いもの。控え目に言って地味だし、はっきり言ってしまうと小汚い恰好をしているのだ。
偽装婚約の期間も半ばになり、夜会という一仕事も終えて気が抜けたか?などとは思わないで欲しい。これには事情がある。
今朝がたレオナードの使者が突如、我が家に訪問したのだ。幸い兄二人は裏庭で稽古中だったので、見つかることはなかった。けれど出迎えたのは、運悪く侍女のリジーだった。
今朝がたといっても、早朝と呼べる時刻。そんな時間に我が家を訪れるものは、馴染みの果物屋か、八百屋か、はたまた兄達をリスペクトしている市井の子供達くらい。そんなこともあり、リジーは特に警戒することなく扉を開けてしまったのだ。
その後どうなったかと言えば、ご想像にお任せする。けれど、こうして私が小汚い部屋着でここにいるのは、一秒でも早くレオナードを使者を追い出すためだったということだけは伝えておきたい。
という朝の一件があり、私は少々不機嫌だった。そして、今、あんな言い方をされ、私の不機嫌さは更に増す。けれど、テーブルを挟んで腕を組みながら私を見つめるレオナードはもっと不機嫌そうだった。
「私は事実を述べただけだ。これに関しては、誰かに聞かれたって構わないし、悪評が立とうが一向に構わない。それとも何か?これを受け取れない事情でもあるのか?」
夜会の次の日から、こんなくだらないことで喧嘩なんかしたくなかった。………………でも、この言い方はさすがに、イラッとする。
「事情も何も、私には過ぎたるものって、ちゃんと返品する時に言ったじゃない。それに、ドレスやら何やらはありがたく頂いたわ。難癖つけて突っ返した訳じゃないんだから、そんな言い方をしないでっ」
ついつい尖った言い方をしてしまったけれど、すぐに後悔してしまう。
今日は、昨日の健闘を互いに称え合いながらゆっくりこの木苺のパイを食べたかったの言うのに。
ちなみにこの木苺のパイは、芸術的にも素晴らい一品だった。普通、パイというのは、上から棒状のパイ生地をクロスせさながら被せて焼くものだ。けれど、このパイの上部はレース模様になっている。
そんな見た目も漂う香りも美味しそうなパイを、レオナードと一緒に食したいので、私はナイフを入れずに待っているというのに。
じゅるり…………パイを食い入るように見つめていたら、思わず涎が出てしまった。
ここはレオナードの不機嫌さが一気に吹き飛ぶブラックジョークでもかまして、仲直りの方向へ持っていくべきだろうか。
という本題から少々ズレた思考で頭がいっぱいになった私に、レオナードは感情を抑えた声で淡々と不思議なことを言い放った。
「ミリア嬢、君は勘違いをしている」
「はぁ?」
一瞬で頭が真っ白になって、首を傾げることしかできない私に、レオナードはすっと目を細めて、静かな口調でこう言った。
「これは慰謝料だ」
………………ちょっと何言ってるか分からない。
「君に聞きたいことがある」
「なぁに、レオナード。先日みたいに八つ裂きにされるっていうくだらない質問なら、答える前にあなたを窮地に追い込むわよ」
「いや、今日は至極真面目な質問だ。それに、先日の質問には、それなりの理由があったんだ。いやその前にだな────」
「グダグダ前置きが長いわね。で、聞きたいことって何?」
「………………なぜこれを付き返した?」
「ちょっと待って、レオナード。あなた大丈夫?」
「ああ、体調はすこぶる良い」
「そうじゃないわ。私はあなたの記憶力を心配して大丈夫かって聞いてるのよ」
「………………………………………」
これと言ったレオナードの手のひらには、昨日私が身に付けていた宝石があった。一つはネックレス。もう一つは、髪飾り。
陽の光を浴びて、2つとも昨日の夜会の時と同様にキラキラと光り輝いている。でも、私にはその下に見える。彼の剣だこの方がよっぽど綺麗に見えてしまう。
「昨日のやりとりは覚えている。ミリア嬢、君が私の手にこれを無理やりねじ込んで、さっさと帰宅したことをな」
「人聞きが悪い言い方をしないで、レオナード」
うっとりと剣だこを見入っていたのに、それを遮断された私はついつい苛立った声を出してしまう。
いや、正直に言うと、かなり前から私はそこそこの苛立ちを覚えていたのだ。
一晩経った私達は、久方ぶりに東屋でお茶を飲んでいる。馴染みのあるここで過ごすと、平和な日常に戻ったことを実感する。
けれど、私の服装は昨日のドレスとは程遠いもの。控え目に言って地味だし、はっきり言ってしまうと小汚い恰好をしているのだ。
偽装婚約の期間も半ばになり、夜会という一仕事も終えて気が抜けたか?などとは思わないで欲しい。これには事情がある。
今朝がたレオナードの使者が突如、我が家に訪問したのだ。幸い兄二人は裏庭で稽古中だったので、見つかることはなかった。けれど出迎えたのは、運悪く侍女のリジーだった。
今朝がたといっても、早朝と呼べる時刻。そんな時間に我が家を訪れるものは、馴染みの果物屋か、八百屋か、はたまた兄達をリスペクトしている市井の子供達くらい。そんなこともあり、リジーは特に警戒することなく扉を開けてしまったのだ。
その後どうなったかと言えば、ご想像にお任せする。けれど、こうして私が小汚い部屋着でここにいるのは、一秒でも早くレオナードを使者を追い出すためだったということだけは伝えておきたい。
という朝の一件があり、私は少々不機嫌だった。そして、今、あんな言い方をされ、私の不機嫌さは更に増す。けれど、テーブルを挟んで腕を組みながら私を見つめるレオナードはもっと不機嫌そうだった。
「私は事実を述べただけだ。これに関しては、誰かに聞かれたって構わないし、悪評が立とうが一向に構わない。それとも何か?これを受け取れない事情でもあるのか?」
夜会の次の日から、こんなくだらないことで喧嘩なんかしたくなかった。………………でも、この言い方はさすがに、イラッとする。
「事情も何も、私には過ぎたるものって、ちゃんと返品する時に言ったじゃない。それに、ドレスやら何やらはありがたく頂いたわ。難癖つけて突っ返した訳じゃないんだから、そんな言い方をしないでっ」
ついつい尖った言い方をしてしまったけれど、すぐに後悔してしまう。
今日は、昨日の健闘を互いに称え合いながらゆっくりこの木苺のパイを食べたかったの言うのに。
ちなみにこの木苺のパイは、芸術的にも素晴らい一品だった。普通、パイというのは、上から棒状のパイ生地をクロスせさながら被せて焼くものだ。けれど、このパイの上部はレース模様になっている。
そんな見た目も漂う香りも美味しそうなパイを、レオナードと一緒に食したいので、私はナイフを入れずに待っているというのに。
じゅるり…………パイを食い入るように見つめていたら、思わず涎が出てしまった。
ここはレオナードの不機嫌さが一気に吹き飛ぶブラックジョークでもかまして、仲直りの方向へ持っていくべきだろうか。
という本題から少々ズレた思考で頭がいっぱいになった私に、レオナードは感情を抑えた声で淡々と不思議なことを言い放った。
「ミリア嬢、君は勘違いをしている」
「はぁ?」
一瞬で頭が真っ白になって、首を傾げることしかできない私に、レオナードはすっと目を細めて、静かな口調でこう言った。
「これは慰謝料だ」
………………ちょっと何言ってるか分からない。
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