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3話 入学式で

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 ホール。
 この学校にはホールという建物が大小合わせ十ほどあるらしい。
 その中でもこのホールは一番大きい。というか、どちらかといえば劇場である。一番前にはステージがあり、そこから手前側にずらっとイスが設けられている。
 ここまで大きすぎるとちらっと見ただけでは収容人数が把握できない。だいたい五千人分くらいかな、多分。
 とりあえず適当なところへ腰をかける。今回は入学式なので生徒と親が席を埋めていく。
 子供にとっては一大イベントだし、親が来ることもあるよね……。自分みたいに親が来ない人なんているのだろうか。
 いた。しかも僕の後から僕の隣りに座ってきた少女だ。会場の大きさに驚いているのか、はたまた人の多さに驚いているのかはわからないが、テンパっていることはしっかりと伝わってきた。
 だって彼女、隣りに座ってきたときに「お隣よろs、ですか?」って思いっきり噛んでたからね。
 彼女は緊張でイスに座って固まってしまっている。これはどうすればいいのだろうか。
 とりあえず僕のコミュニケーションスキル詐欺の交渉技能を見せてやる!ちょっとルビこっち来い。
 ともかく、緊張でカチコチになっている彼女に話しかけてみることにした。

「君、名前はなんていうの?」

「ひゃ、ひゃい!?私、ですか?わ、私の名前は、ユナ」

 これアプローチすっごいまずかったよな、ナンパのやり方じゃないか。そりゃあこういう反応になるでしょ。むしろ名前教えてくれただけでもこの子いい子だ。

「ユナさんは、どの学科に行くんですか?」

「……言語学科、です」

 自分と同じだ。これなら話が広げられそう。

「……でも」

 でも?

「試験受けた時、前の人がすごい速さで問題をといていたので私なんかが受かって大丈夫かなって……」

 あ、それ僕だ。と、流石に言えるわけないが、日本の義務教育を受ければ難なく解ける問題だった。
 申し訳ないことをしてしまったが、あの時の自分はこの国トップの学校と聞いて身構えていたから仕方がない。

「そういう人だってこの先君と同じように苦労することがあるだろうから、気にする必要はないんじゃないかな?」

 実際、全てがカタカナ語の本を読んでこれは苦労するだろうな、と思っていた自分の本音が少し出た。でも、彼女にとっては励ましの言葉と捉えてくれていたらしい。

「ありがとうございます、……どなたですっけ?お名前」

「あ、すいません。シュンっていいます。以後お見知りおきを……」

「シュンさん、これからよろしくおねがいします」

 ユナがそう言うと、入学式の始まりの言葉が聞こえてきた。
 心機一転。式典で話される先生の言葉は上手に聞き流すものだ。
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