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5章: 力なき王族

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 目を凝らすと、数騎の影が街道をこちらへ近づいてくる。
 一騎が遥か先を先行し、残りがまとまってそれを追いかけてくる。
 どうやら先頭を走る者を後続が追いかけているらしかった。
「何だ、あれは?」
 馬の駆り方を見ても穏やかな状況ではない。
 それを察知したフェリスが剣を抜く。
「密入国、でしょうか? 後ろはヒンデスの兵士のようですが」
「でも先頭を走るのは貴族の娘みたいだよ?」
「いくら貧しいからって、貴族の娘まで出稼ぎに来るものなのか?」
「いや、それにあれはヒンデスの兵士でも国境警備の下っ端じゃない。もっと上の近衛兵じゃないかな?」
「それがわざわざここへ何をしに?」
 すでに馬はレムダ達の下へ近づいている。
 事情は何であれ、どちらかの味方をしなければならなかった。
「あの子を助けよう!」
 直感的に、レムダは決断した。
「ああ、もう。そっちですか。間違ったら承知しませんよ」
 フェリスが先行して先頭の馬をやり過ごす。
「助けて下さい。追われているんです!」
 馬に乗っていた貴族の娘が甲高い声で叫んだ。
「ということですが? 失礼。こちらは帝国の国境警備隊です」
「我々はヒンデス国の王宮警護を務めている。その娘の身柄をこちらへ引き渡せ!」
「ちなみに王室警護の方がどういったご用件でこの地に?」
「言う必要はなかろう! 早く渡せと言っているのだ! 大事になるぞ?」
「こちらとて、事情を聴取しなければ判断のしようがありません。あなた方の身分の証明もありませんし」
「無礼な! 我々を愚弄するのか!」
「身分を明かすものをお尋ねしているだけです。何をさっきからそんなにいら立っているのですか?」
「ええい! 退けと言っているだろうが!」
 兵士の一人が馬上から剣を抜いた。
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