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2-1 再開する
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拓斗くんの友達の春間くんと会社で偶然にも会ってしまった後すぐの週末、私は拓斗くんの住む部屋の前に立っていた。
春間くんがあの会社で働いていると知っていたら応募しなかったのに。春間くんは一時的に私が中途採用された会社に出向してきているらしかった。
私は心の中で拓斗くんに会いに行くのやっぱやめようかな、このまま引き返そうかな、なんて考えながらゆっくりと歩いたが、結局すぐに彼の住んでいる部屋のドアの前に辿り着いてしまった。
でもやっぱり、会いたいって気持ちが少しある。ちょっとだけ、また期待し出している自分がいる。
(あぁダメだダメだ!)
私はふぅ、と一息ついて、ズタボロにされた期待が膨らみかけたのを止め、覚悟を決めてインターフォンを睨みつけながらボタンを鳴らした。
……反応がないけど、外に出てて不在にしてるだけなんじゃないのかな?
それでももし1人倒れていたりしたらと心配になり、一応預かった合鍵もあるのでそれで鍵を開けて中に入る。
またドアを開けて前にいた女と一緒にいたなんてことだったら、春間くんにこの合鍵投げつけてやるんだから!そんなことを思いながら寝室へと続く部屋の中へと進む。
「………っう」
臭い!開いたドアからむわっと漂う悪臭と悪臭が混ざり合った匂いに、思わず手で口元を押さえる。
お酒の缶が床に散らばり、タバコの吸い殻の山も見えた。ゴミも放置していたみたいでそれらが混ざり合って更なる悪臭を生み出しているようだ。
「………拓斗くん?」
いつものかっこいい拓斗くんは今は見る影もなく、ベッドの外の床にだらりと身を投げ出していた。
「っ拓斗くん!」
もしかして死んでないよね?!
息をしているのか確認するためにすぐに近寄って心臓の音を確認する。最悪の事態を想像したが、それには及ばなかったようだ。
(息してる……よかった)
何日も剃っていないようでひげをはやし、顔は痩せこけて見えた。ぐしゃぐしゃな髪でくたびれたグレーのスウェットの上下を着ていた。
「うっ……さ、あや?」
かすかに開いて、充血した目がこちらを見つめる。声がかすれていていつもの落ち着いた声ではなくなっていた。
だんだんと意識がはっきりしてきたのか、うわ言のようにさあや、さあやと繰り返し口にする声もしっかりしてきた。顔に生気が出て私の顔を見て、ほっとため息をついた。
「さあや……本当に彩綾なのか?……」
「うん……、そうだよ」
「彩綾戻ってきてくれたんだ…………。嬉しい。ねぇ、彩綾、もうどこにも行かないで。今度は本当に彩綾のこと大事にするから……お願い、もう一度だけチャンスが欲しいっ……」
「……拓斗くん…………」
本当に私が居なくなって彼はこんな姿になってしまったの?
目の当たりにしても信じられない。
春間くんがあの会社で働いていると知っていたら応募しなかったのに。春間くんは一時的に私が中途採用された会社に出向してきているらしかった。
私は心の中で拓斗くんに会いに行くのやっぱやめようかな、このまま引き返そうかな、なんて考えながらゆっくりと歩いたが、結局すぐに彼の住んでいる部屋のドアの前に辿り着いてしまった。
でもやっぱり、会いたいって気持ちが少しある。ちょっとだけ、また期待し出している自分がいる。
(あぁダメだダメだ!)
私はふぅ、と一息ついて、ズタボロにされた期待が膨らみかけたのを止め、覚悟を決めてインターフォンを睨みつけながらボタンを鳴らした。
……反応がないけど、外に出てて不在にしてるだけなんじゃないのかな?
それでももし1人倒れていたりしたらと心配になり、一応預かった合鍵もあるのでそれで鍵を開けて中に入る。
またドアを開けて前にいた女と一緒にいたなんてことだったら、春間くんにこの合鍵投げつけてやるんだから!そんなことを思いながら寝室へと続く部屋の中へと進む。
「………っう」
臭い!開いたドアからむわっと漂う悪臭と悪臭が混ざり合った匂いに、思わず手で口元を押さえる。
お酒の缶が床に散らばり、タバコの吸い殻の山も見えた。ゴミも放置していたみたいでそれらが混ざり合って更なる悪臭を生み出しているようだ。
「………拓斗くん?」
いつものかっこいい拓斗くんは今は見る影もなく、ベッドの外の床にだらりと身を投げ出していた。
「っ拓斗くん!」
もしかして死んでないよね?!
息をしているのか確認するためにすぐに近寄って心臓の音を確認する。最悪の事態を想像したが、それには及ばなかったようだ。
(息してる……よかった)
何日も剃っていないようでひげをはやし、顔は痩せこけて見えた。ぐしゃぐしゃな髪でくたびれたグレーのスウェットの上下を着ていた。
「うっ……さ、あや?」
かすかに開いて、充血した目がこちらを見つめる。声がかすれていていつもの落ち着いた声ではなくなっていた。
だんだんと意識がはっきりしてきたのか、うわ言のようにさあや、さあやと繰り返し口にする声もしっかりしてきた。顔に生気が出て私の顔を見て、ほっとため息をついた。
「さあや……本当に彩綾なのか?……」
「うん……、そうだよ」
「彩綾戻ってきてくれたんだ…………。嬉しい。ねぇ、彩綾、もうどこにも行かないで。今度は本当に彩綾のこと大事にするから……お願い、もう一度だけチャンスが欲しいっ……」
「……拓斗くん…………」
本当に私が居なくなって彼はこんな姿になってしまったの?
目の当たりにしても信じられない。
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