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中途採用で今の会社の総務課に配属されて2週間ほど経った。
「大健おおだてさん仕事覚えるの早くて助かってるよ」
総務課長がにこにこと暖かな笑みを浮かべて私に言った。
「いえ、まだまだ覚えることがたくさんあって、ご迷惑おかけしてます」
「いやいや、本当に助かってるよ。入ってきたばっかりでまだ肩の力が抜けないと思うけど、ゆっくりやっていこうね」
リラックス~と言いながら笑いかけてくる課長。菩薩のようだ。癒しの後光が見えて来る。
覚えることはたくさんあるが、だんだんと慣れてきて、同じ部署の人たちは穏やかな人が多くて落ち着いて仕事が出来ている。仕事は忙しくて残業も多い部署だけど、むしろ残業があって助かっている。残業手当も付くし、忙しく仕事をしていると彼のことを考えなくてもいいからすごく気持ちが楽だ。
大健おおだてさん覚えが早いから今日は新しい仕事を覚えようね、と上司から営業部への簡単な仕事を頼まれた。
営業部へ渡す書類を両手に抱え込み、別フロアのエレベーターを押す。
営業部のフロアへ到着し、お目当ての職員のデスクを探し出して書類を渡し、営業部から総務への書類を受け取ってこれで終了だ。
総務へ戻ろうとと廊下を出ると、どんっと営業部の職員とぶつかってしまった。
「うわっ」
「あっ、すみません」
その拍子に床に落としてしまった書類を拾い上げる。ぶつかった男性職員も拾うのを手伝ってくれた。
「ごめん、俺も前を見て、なく、て……ぇ」
書類を渡してくれた際に相手を確認すると、それはあまり会いたくない人であった。元カレ楠木拓斗と特に仲の良い春間はるまくんだった。
どうして彼がここに?彼は別の会社で働いていたはずなのに…。
びっくりしながら、彼を見ていると、春間くんも私の方を凝視してきて、驚きを隠せていない。
「……大健おおだて彩綾さあやちゃん?だよね?俺、拓斗の友達の春間なんだけどわかるかな?」
「えと、は、い……」
「ごめん、ここではちょっとあれだから、あっちのソファーで話そう」
そう言って廊下の先にある自動販売機の前のソファーにぐいぐい手を取られて連れて行かれた。
「お願い!拓斗に会いに行ってほしい!」
この通り!とソファーの隣に座っている春間くんはそのまま私に向かって深く頭を下げた。
「あ、の?……どういうこと?」
「ごめん、出会い頭にこんなこと頼んで……でも、彩綾ちゃんにしか頼めないんだ」
「?……」
「実は、拓斗なんだけど……今あいつ仕事に行ってないんだ。もう2ヶ月くらいかな……。拓斗の会社には家族だって言って俺が電話して、病気でしばらく出勤できないって誤魔化したんだけど……。もう有休は使い果たしてるし、このまま休み続けてたらあいつ会社クビになる」
「でも、私彼とはもう別れてるし……」
「信じられないと思うけど、拓斗はずっと彩綾ちゃんを探してた…。最初の頃は夜な夜な彩綾ちゃんがいそうな場所を走り回ってたみたいなんだよ。今はもうずっとご飯も睡眠も取ってないみたいで……」
「私が行ったところでどうにも出来ないよ」
「お願い、ただ会うだけでいいから。このままだと本当に死んじゃうかもしれない。あんな姿の拓斗、初めてなんだ」
死んでしまう、という言葉にドキリと動揺した。
「でも、私は……」
ぎゅっと唇を噛み締める。
「あいつの彩綾ちゃんに対する扱いは本当に酷いものだったと思うし、どうしようもないやつで……。でも、もうあいつのあんな姿見ていられない……。都合の良いこといってるってわかってる!けどあいつこと少しでも、……情でもいいからあるなら会ってやって欲しい」
こんなに友達に思われる拓斗くんはすごく人が良かった。友達思いで、面倒見が良くて。私以外の相手に適用されていたその優しさ。思い出すと苦い気持ちになって、胸が苦しくなってきた。
彼に不幸になって欲しい訳ではない。
私が口籠もっていると、春間くんが預かっているという合鍵を半ば強引に押しつけられて、拓斗くんの部屋に様子を見にいくことになってしまった。
「大健おおだてさん仕事覚えるの早くて助かってるよ」
総務課長がにこにこと暖かな笑みを浮かべて私に言った。
「いえ、まだまだ覚えることがたくさんあって、ご迷惑おかけしてます」
「いやいや、本当に助かってるよ。入ってきたばっかりでまだ肩の力が抜けないと思うけど、ゆっくりやっていこうね」
リラックス~と言いながら笑いかけてくる課長。菩薩のようだ。癒しの後光が見えて来る。
覚えることはたくさんあるが、だんだんと慣れてきて、同じ部署の人たちは穏やかな人が多くて落ち着いて仕事が出来ている。仕事は忙しくて残業も多い部署だけど、むしろ残業があって助かっている。残業手当も付くし、忙しく仕事をしていると彼のことを考えなくてもいいからすごく気持ちが楽だ。
大健おおだてさん覚えが早いから今日は新しい仕事を覚えようね、と上司から営業部への簡単な仕事を頼まれた。
営業部へ渡す書類を両手に抱え込み、別フロアのエレベーターを押す。
営業部のフロアへ到着し、お目当ての職員のデスクを探し出して書類を渡し、営業部から総務への書類を受け取ってこれで終了だ。
総務へ戻ろうとと廊下を出ると、どんっと営業部の職員とぶつかってしまった。
「うわっ」
「あっ、すみません」
その拍子に床に落としてしまった書類を拾い上げる。ぶつかった男性職員も拾うのを手伝ってくれた。
「ごめん、俺も前を見て、なく、て……ぇ」
書類を渡してくれた際に相手を確認すると、それはあまり会いたくない人であった。元カレ楠木拓斗と特に仲の良い春間はるまくんだった。
どうして彼がここに?彼は別の会社で働いていたはずなのに…。
びっくりしながら、彼を見ていると、春間くんも私の方を凝視してきて、驚きを隠せていない。
「……大健おおだて彩綾さあやちゃん?だよね?俺、拓斗の友達の春間なんだけどわかるかな?」
「えと、は、い……」
「ごめん、ここではちょっとあれだから、あっちのソファーで話そう」
そう言って廊下の先にある自動販売機の前のソファーにぐいぐい手を取られて連れて行かれた。
「お願い!拓斗に会いに行ってほしい!」
この通り!とソファーの隣に座っている春間くんはそのまま私に向かって深く頭を下げた。
「あ、の?……どういうこと?」
「ごめん、出会い頭にこんなこと頼んで……でも、彩綾ちゃんにしか頼めないんだ」
「?……」
「実は、拓斗なんだけど……今あいつ仕事に行ってないんだ。もう2ヶ月くらいかな……。拓斗の会社には家族だって言って俺が電話して、病気でしばらく出勤できないって誤魔化したんだけど……。もう有休は使い果たしてるし、このまま休み続けてたらあいつ会社クビになる」
「でも、私彼とはもう別れてるし……」
「信じられないと思うけど、拓斗はずっと彩綾ちゃんを探してた…。最初の頃は夜な夜な彩綾ちゃんがいそうな場所を走り回ってたみたいなんだよ。今はもうずっとご飯も睡眠も取ってないみたいで……」
「私が行ったところでどうにも出来ないよ」
「お願い、ただ会うだけでいいから。このままだと本当に死んじゃうかもしれない。あんな姿の拓斗、初めてなんだ」
死んでしまう、という言葉にドキリと動揺した。
「でも、私は……」
ぎゅっと唇を噛み締める。
「あいつの彩綾ちゃんに対する扱いは本当に酷いものだったと思うし、どうしようもないやつで……。でも、もうあいつのあんな姿見ていられない……。都合の良いこといってるってわかってる!けどあいつこと少しでも、……情でもいいからあるなら会ってやって欲しい」
こんなに友達に思われる拓斗くんはすごく人が良かった。友達思いで、面倒見が良くて。私以外の相手に適用されていたその優しさ。思い出すと苦い気持ちになって、胸が苦しくなってきた。
彼に不幸になって欲しい訳ではない。
私が口籠もっていると、春間くんが預かっているという合鍵を半ば強引に押しつけられて、拓斗くんの部屋に様子を見にいくことになってしまった。
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