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私は、独り、流される
あんさつしゃ
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雨が止まない。明日はパレードの日だけれど、大丈夫なのだろうか。このまま中止になればいい。そう思うけれど、雨でもやるのだろう。これが世界が平和になった、記念すべき1歩目なのだから。
フカフカのベッドで微睡んでいると、窓が突然開いた。傍らに置いておいた杖を引き寄せる。それと同時に誰かに抑え込まれる。
「…誰?」
「主は。」
声を出したと同時にピリッとした痛みが走る。首元に突きつけられているのは小刀だろうか。近過ぎて見えない。しかし、その声を私は知っていた。
「ジル。」
「主は何処にいる。」
「…いないよ。もうどこにもいない。」
「そう、か。」
ポタリと首からベッドへ雫が伝う。それは雨だろうか、私の血だろうか、それとも、彼の涙だろうか。
しばらくの沈黙のあと、彼は私の上から退いた。
「あの時主に飛ばされた後、俺は主の魔力を追った。しかしあの地で途切れていた。」
ぽつりぽつりとこぼされる言葉は、聞いてほしいのか、喋りたいのか。私は黙って彼を見つめる。
「主の行方をお前ならば知っていると思い、噂を頼りに探した。すぐに分かるほど目立っていたぞ。たいそうな評判だった。片腕を無くした英雄、と。お前いつの間に無くしたんだ。魔王を倒した時にはあっただろう。」
皮肉げに笑うジルに、私は何も言わない。言いたい事も、言うべき事も、私にはないから。
「腕を無くしながらも立ち向かった英雄と、その身を呈して魔王を倒した勇者。村娘からずいぶん出世したな。」
腕を大きく広げ立ち上がるジルに、反射的にビクついてしまう。それを見てジルが溜め息を零す。
「…別に俺らの名がそこに無いことに怒っている訳じゃない。殺す気もない。お前も主の大切な人だからな。しかし、それでも、何故と、どうしてという気持ちが抑えられない。」
その気持ちを私は知っている。同じだ。その悲しみ。憤り。苦しみ。全て、私も持っている。だからいいよ。私にぶつけて。
「うん。」
私はジルを見つめて笑った。
「っ何故、何故お前が生きている!!!!」
可哀想なジル。名前も無かった暗殺者。
「主ではなく、どうしてお前が!!!!」
かつては番号で呼ばれていた彼に固有の名前を付けたのはヴィーだ。
「俺には主しかいなかったのに、どうして、」
ヴィーと出会って初めて世界を感情を知った彼は、まだ子供だ。
「お前が、お前が代わりに死ねば良かったのに!!!!!」
そうだね。私もそう思うよ。
「お前しか、主を助けることが出来なかったのに!!!」
「役立たず!!!!」
「主、主…!!!」
獣のような慟哭と、感情の昂りによる魔力の放出で大気が震える。
ヴィーと主従契約をしたとき、彼は後追いはしないと約束した。だからその小刀を振り下ろすことは出来ない。
窓が割れる。バタバタとドアの向こうから足音が聞こえてきた。私は彼の手から小刀を抜き取り、血を拭う。ドアが強く叩かれる。
「逃げて。」
大粒の雨が部屋を濡らす。彼をベランダへと押しやり、ドアへと向かう。
「…マリーゴールド。」
小さく聞こえた声に振り返る。
「すまなかった。」
闇の中にいる彼の顔は私には見えなかった。
「マリーゴールド様!ご無事ですか!」
彼が消えると同時に、ドアが開かれる。珍しく焦りの表情の侍女さんの瞳が、私を捉え、大きく開かれる。
私は今、どんな顔をしているのだろう。
「大丈夫です。何もありませんでした。」
「っマリーゴールド様。」
「何も、ありませんでした。」
あぁ、でも少しだけ、気分がいい。
もしかしたら私は、誰かに責められたかったのかもしれない。
ごめんね、ジル。
ごめんね、ヴィー。
フカフカのベッドで微睡んでいると、窓が突然開いた。傍らに置いておいた杖を引き寄せる。それと同時に誰かに抑え込まれる。
「…誰?」
「主は。」
声を出したと同時にピリッとした痛みが走る。首元に突きつけられているのは小刀だろうか。近過ぎて見えない。しかし、その声を私は知っていた。
「ジル。」
「主は何処にいる。」
「…いないよ。もうどこにもいない。」
「そう、か。」
ポタリと首からベッドへ雫が伝う。それは雨だろうか、私の血だろうか、それとも、彼の涙だろうか。
しばらくの沈黙のあと、彼は私の上から退いた。
「あの時主に飛ばされた後、俺は主の魔力を追った。しかしあの地で途切れていた。」
ぽつりぽつりとこぼされる言葉は、聞いてほしいのか、喋りたいのか。私は黙って彼を見つめる。
「主の行方をお前ならば知っていると思い、噂を頼りに探した。すぐに分かるほど目立っていたぞ。たいそうな評判だった。片腕を無くした英雄、と。お前いつの間に無くしたんだ。魔王を倒した時にはあっただろう。」
皮肉げに笑うジルに、私は何も言わない。言いたい事も、言うべき事も、私にはないから。
「腕を無くしながらも立ち向かった英雄と、その身を呈して魔王を倒した勇者。村娘からずいぶん出世したな。」
腕を大きく広げ立ち上がるジルに、反射的にビクついてしまう。それを見てジルが溜め息を零す。
「…別に俺らの名がそこに無いことに怒っている訳じゃない。殺す気もない。お前も主の大切な人だからな。しかし、それでも、何故と、どうしてという気持ちが抑えられない。」
その気持ちを私は知っている。同じだ。その悲しみ。憤り。苦しみ。全て、私も持っている。だからいいよ。私にぶつけて。
「うん。」
私はジルを見つめて笑った。
「っ何故、何故お前が生きている!!!!」
可哀想なジル。名前も無かった暗殺者。
「主ではなく、どうしてお前が!!!!」
かつては番号で呼ばれていた彼に固有の名前を付けたのはヴィーだ。
「俺には主しかいなかったのに、どうして、」
ヴィーと出会って初めて世界を感情を知った彼は、まだ子供だ。
「お前が、お前が代わりに死ねば良かったのに!!!!!」
そうだね。私もそう思うよ。
「お前しか、主を助けることが出来なかったのに!!!」
「役立たず!!!!」
「主、主…!!!」
獣のような慟哭と、感情の昂りによる魔力の放出で大気が震える。
ヴィーと主従契約をしたとき、彼は後追いはしないと約束した。だからその小刀を振り下ろすことは出来ない。
窓が割れる。バタバタとドアの向こうから足音が聞こえてきた。私は彼の手から小刀を抜き取り、血を拭う。ドアが強く叩かれる。
「逃げて。」
大粒の雨が部屋を濡らす。彼をベランダへと押しやり、ドアへと向かう。
「…マリーゴールド。」
小さく聞こえた声に振り返る。
「すまなかった。」
闇の中にいる彼の顔は私には見えなかった。
「マリーゴールド様!ご無事ですか!」
彼が消えると同時に、ドアが開かれる。珍しく焦りの表情の侍女さんの瞳が、私を捉え、大きく開かれる。
私は今、どんな顔をしているのだろう。
「大丈夫です。何もありませんでした。」
「っマリーゴールド様。」
「何も、ありませんでした。」
あぁ、でも少しだけ、気分がいい。
もしかしたら私は、誰かに責められたかったのかもしれない。
ごめんね、ジル。
ごめんね、ヴィー。
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