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第7章 リアリスティック・ドリームワールド
28 選べっこない
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否定や拒絶を許さないホワイトの物言い。
私の意志が自身に沿わないのなら、変えさせてしまおうという豪胆さ。
それができるのは、よっぽど自分の正義に自信があるからなんだろう。
彼女は今、この世界で増やした同志を戦いに駆り出すと言った。
レイくんからさっき聞いた、魔法使いへの戦いにだ。
つまりこれは、戦力の増強を目的にしたものだったということ。
魔法使いに対抗するため、少しでも頭数を増やそうとしているんだ。
その為に彼女は、今のこちらの世界の状況を利用して、『魔女ウィルス』を活性化させた。
それによって適性に乏しい人が死んでしまうことも厭わずに。
この世界で生きる何の罪もない人たちを、何にも関係のない人たちを。
ホワイトは自身の正義の為にと、自分勝手に死に曝したんだ。
そして今、それを盾にして誤魔化すことなく私を脅してきている。
犠牲者を増やしたくなければ、自らの意志で快く力を貸せたと。
それを真顔で、なんの躊躇いもなく口にできるホワイトが、私は恐ろしかった。
「アンタ、自分の言っている意味がわかってんの!? ふざけないでよ!」
真っ先に食ってかかったのは善子さんだった。
私を支えてくれていた手を放し、目の前まで歩み寄ってきていたホワイトに飛びかかる。
けれど即座にホワイトが魔法でその動きを制止して、善子さんは見えない壁に阻まれたようにがくっとよろめいた。
「よく、わかっております。わたくしはただ、お伺いを立てているだけです。姫殿下は、どうなさるのかと」
「そんなこと、よく言えるよ。あからさまに脅してるくせに……!」
やれやれと肩を落とすホワイトに、脚を踏ん張りながら善子さんは怒鳴った。
「やっぱりアンタは、私の知ってる真奈実なんかじゃ、ない。私の大好きな親友なんかじゃない……アンタは、ちっとも正しくなんかない!!!」
「わたくしはわたくしでございます。ただ、物の見方が変わっただけのこと。貴女が何と言おうと、わたくしは常にどんな時も正しい。わたくしの意見に反する思想こそが、間違っているのです」
「そんなこと、あるかッッッ!!!」
善子さんの叫びは、悲鳴だった。
心が泣き叫んでいて、涙が止めどなく流れている。
けれどその悲しみは怒りに混ざって熱く燃え、その心を奮い立たせている。
完全に限界を迎えた善子さんが、その拳に光をまとって振りかぶった。
昼間の日光すら塗り潰す閃光が瞬き、エネルギーが収束する。
その拳は、私が止める間も無くホワイト目掛けて撃ち抜かれた。
「────っと危ない。流石にそれは見越せないよ」
そう思った時、その拳はレイくんによって押し留められていた。
間の私を瞬時に通り抜けて、善子さんの拳を抱き締めるように押さえ込んでいる。
「レイ! 放して!」
「悪いがそれはできないよ。君の気持ちはわかるけれど、大事なリーダーに手出しはさせられない」
喚く善子さんに、レイくんは冷静に首を横に振った。
善子さんの拳はガッチリとホールドされていて、いくらもがいても抜け出せずにいた。
「ありがとうございます、レイさん。ですがあなたも、そちら側のお考えなのではないですか?」
「確かに、今の君のやり方には賛成しかねる。けれど僕と君の仲じゃないか。この志は同じ。僕は君を裏切ったりしないよ。大切な僕らのリーダーだからね」
善子さんを押さえながら、レイくんは振り向きざまに爽やかな笑みを向ける。
訝しげな表情を浮かべていたホワイトは、それを受けてやや雰囲気を落ち着けた。
「だからこそ、僕は君ともっと方針をすり合わせたいと思っている。君は確かに常に正しいけれど、僕の意見も少しくらい取り入れて欲しいんだよね」
「勿論、ずっと伺って参りましたとも。ですがその結果が今なのです。あなたの言う通り手をこまねき続けていれば、出遅れる可能性がある。ですのでわたくしは、自身の思う道をそのまま歩むと決めたのです」
二人の会話は一見穏やかで、けれどどうしようもなく平行線だった。
原因はわからないけれど、確かに二人の意見は完全に逸れてしまっているように見える。
ずっと目的を同じくしてきたレイくんでも、その言葉を聞き入れさせるのは至難の技のようだった。
それでも、なんとかホワイトを止めようと会話を続けようと口を開くレイくん。
しかしその気がないホワイトは、すぐに私へと視線を戻した。
「さて、どうなさるのかお伺いしても? 勿論、貴女様が意見を変えないと仰せならば致し方ありませんが……」
「ッ…………」
ホワイトのねっとりとした視線が私を舐め回す。
全ては私の言葉次第だと、私に委ねることでその責までも負わせようとしてきている。
ここで口先だけでも頷いたら、後々何を強いられるかわからない。
ワルプルギスが私の力をどう利用しようとしているかわからないけど、付いて行ってしまえば私に自由はないかもしれない。
彼女が私の抵抗を予期していないとは思えない。そうされてもどうにかなる何かを持っているんだ。
それを思えば、安易には頷けない。
けれどここで拒み続ければ、ホワイトはその乱暴な方針を推し進める。
この世界の人たちは次々と『魔女ウィルス』に感染させられて、多くの魔女は魔法使いとの戦いに投入される。
勝ち目の薄い、圧倒的に不利な相手と戦わされる。
死者と犠牲者はどんどん増えて、混沌とした状況になるのは明白だ。
「私、は……私は…………!」
彼女が振りかざす人質は、私には抱え切れないほどに大きい。
魔法使いを滅亡させる手伝いをさせられるか、はたまた『魔女ウィルス』での多くの犠牲者と、無謀な戦いに挑む魔女を見過ごすか。
そんなの、選べっこないのに……!
「アリスちゃん、あの子の言うことなんて聞く必要ない! 大人しくしてる必要なんてない! こんな馬鹿はやっぱりぶっ飛ばすしかないんだよ!!!」
戸惑う私に、善子さんが叫ぶ。
未だレイくん腕を押さえられたまま、踠きながら。
泣き腫らした真っ赤な目でホワイトを睨み、歯を食いしばりながら。
「真奈実! アンタのそれが本当に正義だって言うのなら、その正義は私がへし折る! アンタの思い通りになんて、させるもんか! 私が、私の責任を持って、アンタを止めてやる!!!」
空いた片手を真っ直ぐ伸ばし、ホワイト目掛けて閃光を放とうとする善子さん。
しかしそれもまたレイくんによって阻まれて、二人の視線が至近距離で交差する。
「どうぞ、お好きになさってください。貴女がなんと言おうとも、わたくしの正義は揺るがない。正義は必ず勝つのですから」
善子さんとレイくんの揉み合いを眺めながら、ホワイトは溜息交じりにそう言った。
それはもはや自信を通り越して、確信を持った言葉。
ホワイトは、決して揺るがない。
「…………」
その鋭い瞳が私に突き刺さる。
有無を言わせない強烈な威圧に飲み込まれそうになる。
彼女の意志と言葉に押し負けてしまいそうになる。
でも、それじゃダメだ。ここでへこたれてなんていられない。
彼女についていくことはできないし、だからといって多くの犠牲を見過ごすこともできない。
ならば残された選択肢は一つだけ。今この場で、ホワイトを止めること。
揺らいだ心は、善子さんの強い意志に支えられて固まった。
善子さんがホワイトを前にして、徹底的に抗う姿勢を見せてくれてた。
変わり果てた親友に、正面からぶつかる覚悟を見せてくれた。
ならば私も、その道を共に歩もう。
「私の心は、変わらない……」
鋭い眼光を真っ直ぐ見返して、私は言葉に力を込めた。
「あなたに力は貸さないし、こんなめちゃくちゃも続けさせない。ワルプルギスのリーダー・ホワイト。あなたはここで、私が止める!!!」
ワルプルギスと争いたいわけじゃない。この組織は、レイくんが魔女を救うために作ったものだから。
でもそれを率いているホワイトを受け入れられないから、ぶつかるしかない。
私は自分の責任の元、私の願いの元、私の心の元、彼女を止めないといけないんだ。
臆することなく、負けない姿勢で叫ぶ。
そんな私に、ホワイトはあからさまに落胆の表情を向けた。
「あぁ、なんと嘆かわしい。姫殿下は、その若さ故にわたくしの正義が理解できない。始祖様を抱き、その力を受け継ぐお方だというのに……」
そう、わざとらしく項垂れるホワイト。
墨のように黒い髪が垂れ下がり、その美貌と純白の着物を覆う様は、闇が光を埋め尽くすようだった。
その墨汁の川のような黒々とした長髪の隙間から、ホワイトの妖しく揺らめく瞳が覗いた。
「致し方ありません。今の姫殿下にはまだ理解できぬというのなら、教えて差し上げる他ないでしょう。不本意ではありますが、もはや手段を選んでいる場合ではないのですから」
そう呟くように口にすると、ホワイトは勢い良く頭を上げた。
足元まで届く闇のような長髪が、絹のように滑らかに舞い、乱れることなく整う。
そこにはもう落胆の色はなく、強く暗く煌く瞳と、それに相応しい冷淡な顔があった。
「少々手荒になりますが、致し方ありません。わたくしの正しさを、その身を持ってご理解頂きましょう」
「待つんだホワイト! アリスちゃんを傷つけちゃダメだ! 彼女の機嫌を損なう……!」
「心配ご無用。問題はございません」
善子さんを押さえながら、レイくんが必死の形相で叫ぶ。
しかしホワイトは妖しく緩やかな笑みでそれを否定する。
「『始まりの魔女』であらせられる始祖様は、必ずや我らの理想をご理解くださる。我らの信仰を、我らの想いを受け入れてくださる。これは全て、始祖様の為なのですから」
ホワイトの手が真っ直ぐ伸び、その白鍵のように艶やかな細い指が私に向けられる。
その瞳もまた私を捉えて放さず、しかしその意識は私にというよりも、もっと奥に向けられているようだった。
もはやホワイトに私は見えていない。
彼女の目に映るのは、もっと先にある自身の理想。
目の前のことになど眼中になく、彼女は自身が掲げる正義しか見えていない。
故に、誰の制止も通用せず、誰の言葉も届かない。
ホワイトの動きは刹那。躊躇いもなく行われた。
善子さんを放して飛び出したレイくんが間に合う隙もなく。
また、自由になった善子さんが私を庇おうと身を翻す時間もなく。
ホワイトの指先が煌めいて、眩い極光が放たれた。
あまりにも躊躇なく、瞬く間に行われた攻撃。
眼前で向かい合っていた私も、それに対する反応が間に合わなくて。
瞬きよりも速い閃光を、私はどうすることもできずに受け入れるしかなかった。
────そう、思った瞬間。
ホワイトの極光が私を飲み込まんとしたコンマ一秒手前で、私の胸元から赤い光が爆発した。
炸裂した赤い閃光がホワイトの白光を一瞬押し留め、そして。
滾るような胸の熱さと共に、赤い光の中から大きな炎が飛び出した。
それは人の形を成し、白光を吹き飛ばしホワイトに飛びかかった。
私の意志が自身に沿わないのなら、変えさせてしまおうという豪胆さ。
それができるのは、よっぽど自分の正義に自信があるからなんだろう。
彼女は今、この世界で増やした同志を戦いに駆り出すと言った。
レイくんからさっき聞いた、魔法使いへの戦いにだ。
つまりこれは、戦力の増強を目的にしたものだったということ。
魔法使いに対抗するため、少しでも頭数を増やそうとしているんだ。
その為に彼女は、今のこちらの世界の状況を利用して、『魔女ウィルス』を活性化させた。
それによって適性に乏しい人が死んでしまうことも厭わずに。
この世界で生きる何の罪もない人たちを、何にも関係のない人たちを。
ホワイトは自身の正義の為にと、自分勝手に死に曝したんだ。
そして今、それを盾にして誤魔化すことなく私を脅してきている。
犠牲者を増やしたくなければ、自らの意志で快く力を貸せたと。
それを真顔で、なんの躊躇いもなく口にできるホワイトが、私は恐ろしかった。
「アンタ、自分の言っている意味がわかってんの!? ふざけないでよ!」
真っ先に食ってかかったのは善子さんだった。
私を支えてくれていた手を放し、目の前まで歩み寄ってきていたホワイトに飛びかかる。
けれど即座にホワイトが魔法でその動きを制止して、善子さんは見えない壁に阻まれたようにがくっとよろめいた。
「よく、わかっております。わたくしはただ、お伺いを立てているだけです。姫殿下は、どうなさるのかと」
「そんなこと、よく言えるよ。あからさまに脅してるくせに……!」
やれやれと肩を落とすホワイトに、脚を踏ん張りながら善子さんは怒鳴った。
「やっぱりアンタは、私の知ってる真奈実なんかじゃ、ない。私の大好きな親友なんかじゃない……アンタは、ちっとも正しくなんかない!!!」
「わたくしはわたくしでございます。ただ、物の見方が変わっただけのこと。貴女が何と言おうと、わたくしは常にどんな時も正しい。わたくしの意見に反する思想こそが、間違っているのです」
「そんなこと、あるかッッッ!!!」
善子さんの叫びは、悲鳴だった。
心が泣き叫んでいて、涙が止めどなく流れている。
けれどその悲しみは怒りに混ざって熱く燃え、その心を奮い立たせている。
完全に限界を迎えた善子さんが、その拳に光をまとって振りかぶった。
昼間の日光すら塗り潰す閃光が瞬き、エネルギーが収束する。
その拳は、私が止める間も無くホワイト目掛けて撃ち抜かれた。
「────っと危ない。流石にそれは見越せないよ」
そう思った時、その拳はレイくんによって押し留められていた。
間の私を瞬時に通り抜けて、善子さんの拳を抱き締めるように押さえ込んでいる。
「レイ! 放して!」
「悪いがそれはできないよ。君の気持ちはわかるけれど、大事なリーダーに手出しはさせられない」
喚く善子さんに、レイくんは冷静に首を横に振った。
善子さんの拳はガッチリとホールドされていて、いくらもがいても抜け出せずにいた。
「ありがとうございます、レイさん。ですがあなたも、そちら側のお考えなのではないですか?」
「確かに、今の君のやり方には賛成しかねる。けれど僕と君の仲じゃないか。この志は同じ。僕は君を裏切ったりしないよ。大切な僕らのリーダーだからね」
善子さんを押さえながら、レイくんは振り向きざまに爽やかな笑みを向ける。
訝しげな表情を浮かべていたホワイトは、それを受けてやや雰囲気を落ち着けた。
「だからこそ、僕は君ともっと方針をすり合わせたいと思っている。君は確かに常に正しいけれど、僕の意見も少しくらい取り入れて欲しいんだよね」
「勿論、ずっと伺って参りましたとも。ですがその結果が今なのです。あなたの言う通り手をこまねき続けていれば、出遅れる可能性がある。ですのでわたくしは、自身の思う道をそのまま歩むと決めたのです」
二人の会話は一見穏やかで、けれどどうしようもなく平行線だった。
原因はわからないけれど、確かに二人の意見は完全に逸れてしまっているように見える。
ずっと目的を同じくしてきたレイくんでも、その言葉を聞き入れさせるのは至難の技のようだった。
それでも、なんとかホワイトを止めようと会話を続けようと口を開くレイくん。
しかしその気がないホワイトは、すぐに私へと視線を戻した。
「さて、どうなさるのかお伺いしても? 勿論、貴女様が意見を変えないと仰せならば致し方ありませんが……」
「ッ…………」
ホワイトのねっとりとした視線が私を舐め回す。
全ては私の言葉次第だと、私に委ねることでその責までも負わせようとしてきている。
ここで口先だけでも頷いたら、後々何を強いられるかわからない。
ワルプルギスが私の力をどう利用しようとしているかわからないけど、付いて行ってしまえば私に自由はないかもしれない。
彼女が私の抵抗を予期していないとは思えない。そうされてもどうにかなる何かを持っているんだ。
それを思えば、安易には頷けない。
けれどここで拒み続ければ、ホワイトはその乱暴な方針を推し進める。
この世界の人たちは次々と『魔女ウィルス』に感染させられて、多くの魔女は魔法使いとの戦いに投入される。
勝ち目の薄い、圧倒的に不利な相手と戦わされる。
死者と犠牲者はどんどん増えて、混沌とした状況になるのは明白だ。
「私、は……私は…………!」
彼女が振りかざす人質は、私には抱え切れないほどに大きい。
魔法使いを滅亡させる手伝いをさせられるか、はたまた『魔女ウィルス』での多くの犠牲者と、無謀な戦いに挑む魔女を見過ごすか。
そんなの、選べっこないのに……!
「アリスちゃん、あの子の言うことなんて聞く必要ない! 大人しくしてる必要なんてない! こんな馬鹿はやっぱりぶっ飛ばすしかないんだよ!!!」
戸惑う私に、善子さんが叫ぶ。
未だレイくん腕を押さえられたまま、踠きながら。
泣き腫らした真っ赤な目でホワイトを睨み、歯を食いしばりながら。
「真奈実! アンタのそれが本当に正義だって言うのなら、その正義は私がへし折る! アンタの思い通りになんて、させるもんか! 私が、私の責任を持って、アンタを止めてやる!!!」
空いた片手を真っ直ぐ伸ばし、ホワイト目掛けて閃光を放とうとする善子さん。
しかしそれもまたレイくんによって阻まれて、二人の視線が至近距離で交差する。
「どうぞ、お好きになさってください。貴女がなんと言おうとも、わたくしの正義は揺るがない。正義は必ず勝つのですから」
善子さんとレイくんの揉み合いを眺めながら、ホワイトは溜息交じりにそう言った。
それはもはや自信を通り越して、確信を持った言葉。
ホワイトは、決して揺るがない。
「…………」
その鋭い瞳が私に突き刺さる。
有無を言わせない強烈な威圧に飲み込まれそうになる。
彼女の意志と言葉に押し負けてしまいそうになる。
でも、それじゃダメだ。ここでへこたれてなんていられない。
彼女についていくことはできないし、だからといって多くの犠牲を見過ごすこともできない。
ならば残された選択肢は一つだけ。今この場で、ホワイトを止めること。
揺らいだ心は、善子さんの強い意志に支えられて固まった。
善子さんがホワイトを前にして、徹底的に抗う姿勢を見せてくれてた。
変わり果てた親友に、正面からぶつかる覚悟を見せてくれた。
ならば私も、その道を共に歩もう。
「私の心は、変わらない……」
鋭い眼光を真っ直ぐ見返して、私は言葉に力を込めた。
「あなたに力は貸さないし、こんなめちゃくちゃも続けさせない。ワルプルギスのリーダー・ホワイト。あなたはここで、私が止める!!!」
ワルプルギスと争いたいわけじゃない。この組織は、レイくんが魔女を救うために作ったものだから。
でもそれを率いているホワイトを受け入れられないから、ぶつかるしかない。
私は自分の責任の元、私の願いの元、私の心の元、彼女を止めないといけないんだ。
臆することなく、負けない姿勢で叫ぶ。
そんな私に、ホワイトはあからさまに落胆の表情を向けた。
「あぁ、なんと嘆かわしい。姫殿下は、その若さ故にわたくしの正義が理解できない。始祖様を抱き、その力を受け継ぐお方だというのに……」
そう、わざとらしく項垂れるホワイト。
墨のように黒い髪が垂れ下がり、その美貌と純白の着物を覆う様は、闇が光を埋め尽くすようだった。
その墨汁の川のような黒々とした長髪の隙間から、ホワイトの妖しく揺らめく瞳が覗いた。
「致し方ありません。今の姫殿下にはまだ理解できぬというのなら、教えて差し上げる他ないでしょう。不本意ではありますが、もはや手段を選んでいる場合ではないのですから」
そう呟くように口にすると、ホワイトは勢い良く頭を上げた。
足元まで届く闇のような長髪が、絹のように滑らかに舞い、乱れることなく整う。
そこにはもう落胆の色はなく、強く暗く煌く瞳と、それに相応しい冷淡な顔があった。
「少々手荒になりますが、致し方ありません。わたくしの正しさを、その身を持ってご理解頂きましょう」
「待つんだホワイト! アリスちゃんを傷つけちゃダメだ! 彼女の機嫌を損なう……!」
「心配ご無用。問題はございません」
善子さんを押さえながら、レイくんが必死の形相で叫ぶ。
しかしホワイトは妖しく緩やかな笑みでそれを否定する。
「『始まりの魔女』であらせられる始祖様は、必ずや我らの理想をご理解くださる。我らの信仰を、我らの想いを受け入れてくださる。これは全て、始祖様の為なのですから」
ホワイトの手が真っ直ぐ伸び、その白鍵のように艶やかな細い指が私に向けられる。
その瞳もまた私を捉えて放さず、しかしその意識は私にというよりも、もっと奥に向けられているようだった。
もはやホワイトに私は見えていない。
彼女の目に映るのは、もっと先にある自身の理想。
目の前のことになど眼中になく、彼女は自身が掲げる正義しか見えていない。
故に、誰の制止も通用せず、誰の言葉も届かない。
ホワイトの動きは刹那。躊躇いもなく行われた。
善子さんを放して飛び出したレイくんが間に合う隙もなく。
また、自由になった善子さんが私を庇おうと身を翻す時間もなく。
ホワイトの指先が煌めいて、眩い極光が放たれた。
あまりにも躊躇なく、瞬く間に行われた攻撃。
眼前で向かい合っていた私も、それに対する反応が間に合わなくて。
瞬きよりも速い閃光を、私はどうすることもできずに受け入れるしかなかった。
────そう、思った瞬間。
ホワイトの極光が私を飲み込まんとしたコンマ一秒手前で、私の胸元から赤い光が爆発した。
炸裂した赤い閃光がホワイトの白光を一瞬押し留め、そして。
滾るような胸の熱さと共に、赤い光の中から大きな炎が飛び出した。
それは人の形を成し、白光を吹き飛ばしホワイトに飛びかかった。
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