赤ちゃん竜のお世話係に任命されました

草野瀬津璃

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第三部 命花の呪い 編

終章 01

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 それからしばらくして、森の火を消し終えたソラが戻ってきた。

『山火事は用心が必要だからな、しばらく様子見しよう。だが、今日はひとまずリヴィドールに帰ろう』

 上空で漂いながらソラがそんなことを言うので、結衣は首を傾げた。

「消火したんじゃないの?」
『表面は。しかし、地面の中に火がくすぶっていると、数日後に勢いよく燃えだすことがある。山火事の怖いところだな。これから数日は我が出向いて、雨を降らせるつもりだ』

 結衣は森のほうを見る。黒々とした煙がたなびく地獄絵図だったのが、今では薄い煙が漂っているだけだ。
 その時、結衣の膝枕で眠っていたアレクが身じろぎした。結衣とソラのしゃべり声で目が覚めたようだ。

「ん……?」
「アレク、大丈夫? ソラが帰ろうって」
「分かりました。ええ、大丈夫です」

 結衣はアレクに手を貸して、起こしてあげる。口では平気だと言うが、アレクはちょっとふらついた。結衣はアレクの腕を担ぐようにして支え、共にゆっくり立ち上がった。

「グルル」

 オニキスがソラに向けて鳴き、ソラはオニキスの様子に気付いたようだ。

『なんだ、そなた、また怪我をしているのか? そら、治してやろう』

 ソラがそう返すと、オニキスの体が一瞬だけ光に包みこまれた。光が消えると、オニキスは恐る恐る翼を広げ、軽く羽ばたく。

「グル!」
「ありがとう、ソラ」

 ソラの手助けに、結衣はオニキスとともに礼を言う。上空でオニキスが微笑ましげに目を細めた。

『よしよし、飛べるな。二人を乗せてついてこい』

 ソラの指示に従い、結衣とアレクはオニキスの背に乗る。ソラが先導をして、皆でリヴィドールへ戻った。


 リヴィドールの城に戻った日の翌朝。

「ユイ様には呆れました。あなたの行動力と体力を甘く見すぎていましたよ。まさか登山を強行突破なさるとは! もし登山中に事故にあったり遭難していたりしたら、どうなさるんですか、まったく!」

 部屋の向かいにある談話室で、結衣はオスカーから説教を受けていた。昨日はあからさまに疲れている結衣とアレクの様子を見て、説教は目こぼししてくれたが、一晩ぐっすり眠って回復してからは容赦が無い。
 長椅子の上で、結衣は首をすくめて縮こまる。

「ごめんなさい」
「ええ、本当に! 陛下の呪いが解けたから良かったものの……。あなたが頑張らなくても、こちらで対応するつもりだったんですよ! せめて相談を……って、ああ、そうでした」

 オスカーは額に手を当てて、深々と溜息を吐く。

「我々がユイ様を遠ざけていたから、あんな真似をしたんですよね。その点は申し訳ありませんでした。私は話すべきだと思っていたんですが……」
「アレクの命令だったんでしょ? でも、お話はちゃんと聞きます。本当にすみませんでした」

 それだけでなく、アレクが死にかけたことで、結衣も精神的にかなりこたえた。下手な説教よりずっと身にしみている。

「朝のうちに、陛下からおおよそはお伺いしております。充分ご理解いただけていると思いますが……これからは気を付けて下さい。無茶はしないこと。特に、ドラゴンに乗って勝手に飛びだす真似はおやめ下さい。本っっっ当に、お願いしますよ」
「……はい」

 ものすごく念押しされ、結衣は膝を見つめて頷く。
 更に注意が続くかと身構えたが、オスカーの声は静かに思案するトーンになった。

「魔族の恐ろしさが身にしみたことと思います。……しかし、あちらの王太子が、ここまでユイ様に本気とは。守りを強化せねばなりませんね。そういえば、ユイ様。ディランとは話しました? ちゃんと謝ってフォローしてあげてくださいよ。自分が国境についてきちんと教えなかったからだと、激しく落ち込んでいましたからね」

「でも、朝はいなかったんです」
「ああ、そうでした。自分から懲罰牢ちょうばつろうに入って出てこないんです。責任もって、ユイ様が説得して下さい」
「はいっ」

 結衣は即答したものの、ディランの行動に頭を抱えた。朝はアメリアに説教され、ディランからもと覚悟していたのに、まさか自罰じばつを選んでいるとは思いもしない。

(そういえば前も、嫌いなトカゲをポケットに入れておくっていう罰を自主的に受けていたっけ……)

 真面目すぎるディランに、結衣だけでなくオスカーも手を焼いているようだ。眉間に皺がくっきり見える。

「それから、緩衝地帯の森に入って、野良ドラゴンに襲われて負傷した者も出ています。騎士団にも見舞いに行って下さい。他にも、竜舎の飼育員にも謝罪するように」
「はい、もちろんです。謝ってきます! でも、怪我って……」
「幸い、逃げる時にころんだ程度ですよ。ドラゴンの子育てシーズンに、森に深入りするのは、本当に危険なんです。さすがはドラゴンの導き手というか……。まさかドラゴンに助けられて、山頂まで送ってもらえたとは。生きる伝説みたいな人ですね」

 オスカーはまじまじと結衣を眺め、呆れの混じった簡単を呟く。

(生きる伝説って……)

 なんて大袈裟なと、結衣はたじろいだ。返事は無難なことを口にした。

「運が良かったんですよ」
「運でどうこうなるものではありません。やはり、ドラゴンの導き手は、聖竜様だけでなく、他のドラゴンにも好かれやすい何かがあるんでしょうかねえ。いやあ、興味深い。とりあえず記録は付けておきますよ」
「はあ……」

 結衣はあいまいに頷く。
 オスカーは聖竜のことが好きで、ドラゴンの導き手についても詳しい。彼にしてみれば、目の前でお伽噺の存在が歩いているわけだ。

「もしかして日記に付けて?」
「いえ、記録ですよ。いずれ本にまとめる予定です」
「本ですか!?」
「もちろん、聖竜教会の貴重資料にしますよ。魔族につけいれられるわけにはまいりませんから、大々的に広めるつもりはありません」

 そう言って、オスカーは無表情のまま、にやりと口端を上げて笑う。

「そ、そうですか」

 その顔はどう見ても悪い人にしか見えず、結衣は反応に困って、誤魔化し笑いを浮かべた。

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