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第三部 命花の呪い 編
一章 命花の呪い 01
しおりを挟む「あの、神官さん。今日はどうしてワンピースなんですか?」
風呂に入った後、結衣は着替えの仕度をしてくれた女性神官に問いかけた。
いつもは聖竜教会を守る衛兵の制服を改造した、白い上着と黒いズボンという服装なのに、今回は黄色のワンピースにブーツという格好だったのだ。
友人の結婚式ぐらいでしかスカートを履かない結衣としては、パンツスタイルの方が嬉しい。
「あら、今の時期に男装なんて野暮ですわ、ユイ様」
「そうですよ。せっかくなので、おめかしして下さい。いついらしても良いように、こちらにもお着替えを保管していて良かったわ」
女性神官の二人は、熱を込めて頷き合う。白い帽子とローブという服装をした彼女達は、気合を入れて袖をまくっている。
「今の時期? せっかく?」
戸惑う結衣に、髪をブラシで丁寧に梳いていた赤毛の神官が、鏡越しににっこり笑いかけた。
「ええ、春の恒例行事、宮廷舞踏会のシーズンですの」
「王城には、各地から貴族達が集まっていますわ。領主達が勢ぞろいする滅多にない機会ですのよ」
金髪の神官が横から顔を出して言った。結衣は軽く手を挙げて質問する。
「宮廷舞踏会ってなんですか? 前にあったパーティーとは違うのかな」
「前の……というと、聖竜様が成体になられた時の祝勝会のことでしょうか? あちらは急遽開催されるもので、参加は自由なんです。領地が遠い方もいらっしゃいますから。でも宮廷舞踏会は、出来るだけ参加するのが慣例です。成人した貴族の子息子女のお披露目パーティーですから!」
金髪の神官は楽しげに言った。赤毛の神官も頷く。
「王に紹介するための、大切な社交界デビューの場ですの。そして、結婚相手を探すためのものでもありますわ。わたくし達には縁がない行事ですが、それでも着飾った人々が出入りなさいますから、華やかでこちらも心が躍りますのよ」
聖竜教会は、双子の女神シャリアとセレナリアに身を捧げるということで、重要な場所は、男性は立ち入り禁止である。神官は女性ばかりだ。男性に触れると世俗の穢れがうつると信じている神官もいるので、男性への風当たりは強い。
へえ、と感嘆の声を零す結衣に、赤毛の神官が声をかける。
「さ、ユイ様、出来ましたわ。お可愛らしいですわよ」
結衣の髪に、青色の飾り紐を付け終えると、彼女は満足げに笑った。飾り紐の真ん中にある金属製の飾りが、キラリと光を弾く。
「わあ、すごーい。ありがとうございます」
「どういたしまして」
化粧や髪の整え方など、結衣が自分でするよりずっと上手なので、結衣は感動の声を上げた。赤毛の神官は嬉しそうにする。
「今年のデビューの方々は羨ましいですわ。陛下だけでなく、ドラゴンの導き手様にもお祝い頂けるんですもの」
「ね、良いわよね。最高の思い出になりますわよ。ユイ様、しっかり陛下のお心を掴んでおいて下さいね。夢見る女性達には気を付けないと」
「あら、ヨハンナったら、大丈夫よ。ご婚約の証のある方に色目を使うのはマナー違反ですもの」
結衣は髪に結んでもらったばかりの飾り紐を見つめる。これはアレクがくれた飾り紐で、守護の魔法が込められた品であり、婚約の証でもある。
(へえ、虫避けの意味もあるのねえ。日本でいうところの、婚約指輪みたいな感じなのね)
指輪よりも目立つから、パーティーでは区別がついて便利かもしれない。
「つまり、これを付けているとナンパされないってこと?」
「いいえ、そうではありません。飾り紐は、女性が付ける色と男性が付ける色が決まっていますの。男性は青と緑と紫で、女性は赤やオレンジ、黄色です。異性が付けるべき色の飾り紐を付けている場合は、約束があるというサインなんです」
「あ、そっか。だからアメリアさんは赤色の飾り紐なのね」
結衣についてくれている専属侍女アメリアの顔を思い浮かべ、結衣は呟いた。
「あら? でも、ニナ、陛下は飾り紐を付けておいででは無いわよね」
ふと思い出した様子で、赤毛の神官が、金髪の神官に問う。二人して顔を見合わせた。
「え? まずいんですか?」
結衣の問いに、二人は大きく頷いた。
「ええ。本来、男女で付けている飾り紐を交換するのです」
「付けていない場合は、約束が無いという意味になりますのよ」
結衣は目を丸くした。
フリーだと宣言して歩いているようなものらしい。
「え? どうしたらいいですか? 私は飾り紐なんて持ってないので、アレクにプレゼント出来ません」
「異世界からのお客様ですもの、仕方ありませんわ。では、ご自分で何かご用意してみるのはいかがでしょう?」
「用意……」
城下町に買いに行くという意味だろうか。
結衣は首を傾げ、真剣に考える。
(色々ともらってばっかりだから、たまにはお返しもしたいのよね)
結衣が飾り紐をお返ししたら、アレクは喜んでくれるだろうか。
「うん、用意してみます! ありがとうございます、神官さん達」
「はい! どういたしまして」
「頑張って下さいませ、ユイ様。応援しております」
声を弾ませる二人に笑い返しながら、結衣は後でアメリアに相談してみようと心の中で呟いた。
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