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本編
日常
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壮太から一回電話がかかってきた。出られなかった。今はまだ壮太の声を聞く元気がない。
「おはよう智花ちゃん」
「おはようございます」
マスターに挨拶して事務所に入る。そこには既にヨーコさんとキミちゃんがいて、二人の鋭い視線が同時にギッとこちらを向いた。
「あ、興味なさそうな顔して一番のイケメンお持ち帰りした智花さんだ」
「どうだったの?激しかったのあの子のセッ……!」
「何も!何もないです!」
とんでもないことを口走ろうとしたヨーコさんの言葉を遮って必死で弁解する。何もなかったのは本当だし、そもそもお持ち帰りじゃないし。
「えっ、一緒に帰ったのに何もなかったの?」
「据え膳食わぬは乙女の恥よ!」
「そんなことわざ聞いたことないです。……何もないですよ。ただ家まで送ってくれただけです」
ヨーコさんとキミちゃんは絶句している。そんなに驚くことなのか。
「智花ちゃんって性欲あるの?」
「はっ?」
突拍子もないことを言われて固まる。性欲?そりゃあ性欲はないとは言えない。だって壮太に会えば触れてほしいと思うし触れたいと思うし……、て、何真剣に考えてるの、私!
「いや、そんなこと言われても、」
「あの」
事務所に突然3人以外の声が響いて全員の目がドアの方に向く。そこにいたのは思いがけない人物で。
「成島くん?なんで……」
「成島くんじゃない!また作品持ってきてくれたの?」
作品?作品て何のこと?
「ああ、智花さんは店で会ってないですね。新商品の木彫りの猫の雑貨、彼が持ってきたんですよ」
キミちゃんが教えてくれた。木彫りの猫……ああ、昨日マスターに新しい商品を教えてもらった。そういえばマスター、『大きい男の子』って言ってた。
「イケメンだからヨーコさんが声かけて、それで昨日の合コン」
まさか昨日の合コンは成島くんが男の子を集めてたとは。……ていうか、さすがヨーコさん。展開が早い。出会ったその日に合コンを開催するとは。
「あ、いえ、今日は違います。あの、大丈夫ですか?」
成島くんのまっすぐな目が私に向く。え、私?同時にヨーコさんとキミちゃんの目も。
「え……」
「泣いてたから」
「……!」
どうしてか頭から抜けていた。私は昨日成島くんの前で泣いてしまったのだ。まさかそれを心配してわざわざ職場に来てくれたの?……でも、できれば2人がいる前では言わないでほしかった……!
「え、泣いてたの?」
「泣いてたんですか?」
当然泣いていた理由を聞かれることになる。そうすると壮太のこともバレて……無理!
「いや、私酔っ払うとすぐ泣いちゃうんです」
あはははと誤魔化して更衣室に入った。壮太の話はしたくない。セフレなんて、と怒られるのも嫌だしそれに、今は壮太の話をすると泣いてしまうから。
そのまま私は仕事に入り、いつのまにか成島くんは帰っていた。2人も仕事はちゃんとする人なので仕事中に色々聞かれることはなかったし、ひたすら仕事に集中することにした。
夜。ヨーコさんとキミちゃんはシフトの関係で帰ってしまっていて、お店にいるのはマスターともう1人の従業員、崇尚さんと私だけになった。閉店後のお店は静かで、少し暗い。そんな中、ドアが開く音がした。閉店後に自分の作品を持ち込む人も珍しくないので気にも留めなかった。
「智花ちゃん」
まさか自分が呼ばれるとは思わなくて一瞬驚いて顔を上げる。呼んだのは崇尚さんで、ドアのほうを指差して『お客さん』と言った。私にお客さん?不思議に思いながら入り口に向かう。そしてドアを開けた。
「よっ」
「!壮太……」
顔を見たくなかったような、でも恋しさに負けてやっぱり見たかったような。複雑な心境で立ち竦む。私が困っていることに気付いたように、壮太は口を開いて言葉を紡いだ。
「職場まで来てごめん。電話繋がらなかったから。いや、あのさ、今日いつもなら会う曜日だからさ。会うかなぁと思って、近くまで来たから迎えに来たんだけど、」
「壮太」
切れ間なく喋っていた壮太が黙る。シンとした沈黙。私は口を開いた。
「もうすぐ終わるから、前のカフェで待っててくれる?」
壮太は安心したように微笑んで頷いた。
「おはよう智花ちゃん」
「おはようございます」
マスターに挨拶して事務所に入る。そこには既にヨーコさんとキミちゃんがいて、二人の鋭い視線が同時にギッとこちらを向いた。
「あ、興味なさそうな顔して一番のイケメンお持ち帰りした智花さんだ」
「どうだったの?激しかったのあの子のセッ……!」
「何も!何もないです!」
とんでもないことを口走ろうとしたヨーコさんの言葉を遮って必死で弁解する。何もなかったのは本当だし、そもそもお持ち帰りじゃないし。
「えっ、一緒に帰ったのに何もなかったの?」
「据え膳食わぬは乙女の恥よ!」
「そんなことわざ聞いたことないです。……何もないですよ。ただ家まで送ってくれただけです」
ヨーコさんとキミちゃんは絶句している。そんなに驚くことなのか。
「智花ちゃんって性欲あるの?」
「はっ?」
突拍子もないことを言われて固まる。性欲?そりゃあ性欲はないとは言えない。だって壮太に会えば触れてほしいと思うし触れたいと思うし……、て、何真剣に考えてるの、私!
「いや、そんなこと言われても、」
「あの」
事務所に突然3人以外の声が響いて全員の目がドアの方に向く。そこにいたのは思いがけない人物で。
「成島くん?なんで……」
「成島くんじゃない!また作品持ってきてくれたの?」
作品?作品て何のこと?
「ああ、智花さんは店で会ってないですね。新商品の木彫りの猫の雑貨、彼が持ってきたんですよ」
キミちゃんが教えてくれた。木彫りの猫……ああ、昨日マスターに新しい商品を教えてもらった。そういえばマスター、『大きい男の子』って言ってた。
「イケメンだからヨーコさんが声かけて、それで昨日の合コン」
まさか昨日の合コンは成島くんが男の子を集めてたとは。……ていうか、さすがヨーコさん。展開が早い。出会ったその日に合コンを開催するとは。
「あ、いえ、今日は違います。あの、大丈夫ですか?」
成島くんのまっすぐな目が私に向く。え、私?同時にヨーコさんとキミちゃんの目も。
「え……」
「泣いてたから」
「……!」
どうしてか頭から抜けていた。私は昨日成島くんの前で泣いてしまったのだ。まさかそれを心配してわざわざ職場に来てくれたの?……でも、できれば2人がいる前では言わないでほしかった……!
「え、泣いてたの?」
「泣いてたんですか?」
当然泣いていた理由を聞かれることになる。そうすると壮太のこともバレて……無理!
「いや、私酔っ払うとすぐ泣いちゃうんです」
あはははと誤魔化して更衣室に入った。壮太の話はしたくない。セフレなんて、と怒られるのも嫌だしそれに、今は壮太の話をすると泣いてしまうから。
そのまま私は仕事に入り、いつのまにか成島くんは帰っていた。2人も仕事はちゃんとする人なので仕事中に色々聞かれることはなかったし、ひたすら仕事に集中することにした。
夜。ヨーコさんとキミちゃんはシフトの関係で帰ってしまっていて、お店にいるのはマスターともう1人の従業員、崇尚さんと私だけになった。閉店後のお店は静かで、少し暗い。そんな中、ドアが開く音がした。閉店後に自分の作品を持ち込む人も珍しくないので気にも留めなかった。
「智花ちゃん」
まさか自分が呼ばれるとは思わなくて一瞬驚いて顔を上げる。呼んだのは崇尚さんで、ドアのほうを指差して『お客さん』と言った。私にお客さん?不思議に思いながら入り口に向かう。そしてドアを開けた。
「よっ」
「!壮太……」
顔を見たくなかったような、でも恋しさに負けてやっぱり見たかったような。複雑な心境で立ち竦む。私が困っていることに気付いたように、壮太は口を開いて言葉を紡いだ。
「職場まで来てごめん。電話繋がらなかったから。いや、あのさ、今日いつもなら会う曜日だからさ。会うかなぁと思って、近くまで来たから迎えに来たんだけど、」
「壮太」
切れ間なく喋っていた壮太が黙る。シンとした沈黙。私は口を開いた。
「もうすぐ終わるから、前のカフェで待っててくれる?」
壮太は安心したように微笑んで頷いた。
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