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本編
私じゃダメだった
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壮太とゆっくり話しながら食事をするのはすごく楽しかった。高校時代の思い出話や最近の仕事の話。話題は尽きない。
食事が終わると壮太の家に行った。そして一緒にお風呂に入った。何度も一緒に入ったことがあるので特に恥ずかしくもない。体を洗っていると、浴槽に浸かっている壮太が私を見てきた。
「ともの体は綺麗だなぁ」
「何、しみじみと。恥ずかしいから変態親父みたいな言い方されたほうがマシ」
「ぐへへ、そのエロい体をワシが触ってやろう」
「やっぱりキモいから嫌!」
「ワシが洗ってやろうか?」
「いやー!!!」
「そんな嫌がる?」
壮太が笑ったから私も笑った。昔から、こうやってくだらないことで馬鹿みたいに笑って。壮太といると楽しくて仕方なかった。
「とも」
お風呂から上がって髪を乾かして寝る準備をした後、2人でベッドに入る。壮太は私の名前を呼んでぎゅうっと抱き締めた。
「今日はしないの?」
「うん」
「どうして?」
「今日はしなくていいの」
壮太はそれきり黙ってしまった。セックスがなければ私といる価値がないだろうに。もういらないってこと?何となく予感はしていた。最後はいつかは来るのだ。それが、近いこと。
「壮太、昨日……」
「もう終わりにしよう」
とうとう言われてしまった。頭が真っ白になって一瞬心臓が止まる。そして激しく動き出す。昨日あの子といた?そう私から聞こうとしたのを遮った壮太は、私を抱き締めたまま離さない。
「明日の朝ちゃんと話すから」
私には、最後まで話を聞く強さはなかった。
***
カチャンと鍵を閉めてその鍵をポストに入れる。壮太はまだ眠ったままだ。早朝。こんなに早くに自分一人で準備して外にいることに驚いている。まあ、起きられたんじゃなくて、眠れなかったんだから。私の中ではあまり次の日になったという感覚はない。
『もう終わりにしよう』
壮太の言葉が頭の中で何度も回って頭が痛くなる。終わりが来ることは分かっていたし、それが近いことも分かっていた。でも昨日の楽しかった時間から突然崖の下まで突き落とされたような、そんな感じがしている。私はそのまま職場へ向かった。
「なんか顔色悪いね」
早番で既にいた崇尚さんにそう言われた。私はヘラっと笑って、
「時間まで少し仮眠します」
と言った。少し眠ったら気分も少しは上向くかもしれない。
そう思ったのに仮眠は出来なかった。頭が痛いし、目を瞑っていると更に壮太のことを考えてしまうし、その上さっきから何度も電話が鳴る。もちろん壮太だ。電源を切ってしまいたかったけれどそうすると目覚ましがなくなるので起きられない。壮太からの電話はひっきりなしにかかってきて、更に追い討ちをかける気なのかとげんなりした。
「あら、智花ちゃんいたの。まあ、ひっどい顔!」
時間になって仕方なく更衣室に行くとヨーコさんがいた。鏡を見ると確かに酷すぎる顔。私今日店出ない方がいいかもしれない。事務作業をさせてもらうことにしよう。着替え終わって更衣室を出る。
「おはようございます。……顔色悪いですよ」
「あ、成島くん。おはよう。ちょっと頭痛くて」
事務所に用事があるらしい成島くんと出会った。成島くんは怪訝そうな顔になって、次に心配そうな顔になった。意外と表情がよく変わる。
「智花さん」
「何?」
「今日は休ませてもらった方が」
「平気平気、ただ眠れなかっただけだから」
「あの人ですか?」
よく覚えているなぁと感心した。マンションで壮太と一緒にいるところを見られて、壮太が他の女の子といるのを見て泣いたのを見られて。そう考えると成島くんから見ると私は酷い男に振り回される女に見えるかも。
「ふふ」
「智花さん?」
「壮太が酷いんじゃない。私の諦めが悪いだけ」
頭の中がひっくり返ったみたいな変な感覚がした。気持ち悪い。立っていられなくて何かにもたれる。
「智花さん?!」
「ごめ、きもちわる……」
そこで意識が途切れた。
食事が終わると壮太の家に行った。そして一緒にお風呂に入った。何度も一緒に入ったことがあるので特に恥ずかしくもない。体を洗っていると、浴槽に浸かっている壮太が私を見てきた。
「ともの体は綺麗だなぁ」
「何、しみじみと。恥ずかしいから変態親父みたいな言い方されたほうがマシ」
「ぐへへ、そのエロい体をワシが触ってやろう」
「やっぱりキモいから嫌!」
「ワシが洗ってやろうか?」
「いやー!!!」
「そんな嫌がる?」
壮太が笑ったから私も笑った。昔から、こうやってくだらないことで馬鹿みたいに笑って。壮太といると楽しくて仕方なかった。
「とも」
お風呂から上がって髪を乾かして寝る準備をした後、2人でベッドに入る。壮太は私の名前を呼んでぎゅうっと抱き締めた。
「今日はしないの?」
「うん」
「どうして?」
「今日はしなくていいの」
壮太はそれきり黙ってしまった。セックスがなければ私といる価値がないだろうに。もういらないってこと?何となく予感はしていた。最後はいつかは来るのだ。それが、近いこと。
「壮太、昨日……」
「もう終わりにしよう」
とうとう言われてしまった。頭が真っ白になって一瞬心臓が止まる。そして激しく動き出す。昨日あの子といた?そう私から聞こうとしたのを遮った壮太は、私を抱き締めたまま離さない。
「明日の朝ちゃんと話すから」
私には、最後まで話を聞く強さはなかった。
***
カチャンと鍵を閉めてその鍵をポストに入れる。壮太はまだ眠ったままだ。早朝。こんなに早くに自分一人で準備して外にいることに驚いている。まあ、起きられたんじゃなくて、眠れなかったんだから。私の中ではあまり次の日になったという感覚はない。
『もう終わりにしよう』
壮太の言葉が頭の中で何度も回って頭が痛くなる。終わりが来ることは分かっていたし、それが近いことも分かっていた。でも昨日の楽しかった時間から突然崖の下まで突き落とされたような、そんな感じがしている。私はそのまま職場へ向かった。
「なんか顔色悪いね」
早番で既にいた崇尚さんにそう言われた。私はヘラっと笑って、
「時間まで少し仮眠します」
と言った。少し眠ったら気分も少しは上向くかもしれない。
そう思ったのに仮眠は出来なかった。頭が痛いし、目を瞑っていると更に壮太のことを考えてしまうし、その上さっきから何度も電話が鳴る。もちろん壮太だ。電源を切ってしまいたかったけれどそうすると目覚ましがなくなるので起きられない。壮太からの電話はひっきりなしにかかってきて、更に追い討ちをかける気なのかとげんなりした。
「あら、智花ちゃんいたの。まあ、ひっどい顔!」
時間になって仕方なく更衣室に行くとヨーコさんがいた。鏡を見ると確かに酷すぎる顔。私今日店出ない方がいいかもしれない。事務作業をさせてもらうことにしよう。着替え終わって更衣室を出る。
「おはようございます。……顔色悪いですよ」
「あ、成島くん。おはよう。ちょっと頭痛くて」
事務所に用事があるらしい成島くんと出会った。成島くんは怪訝そうな顔になって、次に心配そうな顔になった。意外と表情がよく変わる。
「智花さん」
「何?」
「今日は休ませてもらった方が」
「平気平気、ただ眠れなかっただけだから」
「あの人ですか?」
よく覚えているなぁと感心した。マンションで壮太と一緒にいるところを見られて、壮太が他の女の子といるのを見て泣いたのを見られて。そう考えると成島くんから見ると私は酷い男に振り回される女に見えるかも。
「ふふ」
「智花さん?」
「壮太が酷いんじゃない。私の諦めが悪いだけ」
頭の中がひっくり返ったみたいな変な感覚がした。気持ち悪い。立っていられなくて何かにもたれる。
「智花さん?!」
「ごめ、きもちわる……」
そこで意識が途切れた。
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