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6、鹿肉

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 イルの息子に、アリスが薬をあげてから一週間が経った。

 アリスの家のドアを誰かがノックしている。
「はい、どちら様ですか?」
「イルです。息子が元気になりました。お礼を持ってきたのですが、開けて頂けますか?」
「え? お礼なんて、良かったのに」

 そう言いながらアリスが玄関のドアを開けると、イルとその息子がにっこりと笑っていた。「こんにちは。森の魔女様」
「こんにちは。あの、私はアリスって呼んで下さいって言いましたよね?」

「ああ、そうでした。アリス様、おかげさまで息子がこんなに元気になりました」
 イルは、息子の頭を乱暴に撫でた。
「お姉さん、ありがとう! ジュース美味しかったよ」
「良かった。元気になって」

「それで、これをお礼に持ってきました」
 イルは背中に担いでいた、鹿肉の塊をアリスに差し出した。
「どうぞ、お納め下さい」
「何て立派なお肉……いいんですか?」

 アリスは両手で鹿肉をうけとったが、その重さによろけてしまった。
「村では、お医者さんに見てもらえなかったんです」
「まあ、そうでしたか」
「森の魔女様……いえ、アリス様が来て下さったから、町の者も喜んでいるんですよ」
 イルはそう言って、頭を下げた。

「私はおばあさまのように、色々なことは出来ませんが少しでもお役に立てたなら嬉しいです」
 アリスはイルに頭を上げるように言って、微笑んだ。

「町でもうわさになっていますよ。森がよみがえってきたって」
「私みたいな草花と話をする人間が、怖くないのですか?」
「まさか!! いのちの恩人ですよ? 悪く言うわけがありません」
 イルは目を見開いて、手を横に振った。

「それでは、今日はこれで失礼します」
「立派なお肉、ありがとうございます。帰って申し訳無いです」
 アリスが恐縮していると、イルは笑った。
「謙遜することはありません。あなたは息子の恩人ですから」

「それじゃ、お姉さん、またね!」
「うん!」
 イル達が帰ると、アリスは貰った肉を台所で塩漬けにしたり、干し肉用に切り分けたりした。そして残った肉は、夕飯用に料理することにした。
「お肉、久しぶりだな。自分じゃ怖くて狩りなんて出来ないし」
 アリスはイルに感謝しながら、大きな鍋で野菜たっぷりのポトフを作った。

 その日から時々町の人が、アリスに薬の調合を依頼するため、アリスの屋敷を訪ねてくるようになった。
 アリスは町人の依頼に応えるため、草花の声に耳を澄ませたり祖母のノートを見て勉強を重ねた。そして、簡単な風邪薬や火傷の薬が作れるようになっていった。

 アリスは人から必要とされることが何よりも嬉しかった。
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