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その騒動から2週間後の今日。
ザイザル辺境伯様に嫁ぐ事を決心したと思われていたお姉様は、私の婚約者のアルベルトと駆け落ちしたのだ。
なぜ今日なのかって?
それは昨日、ザイザル辺境伯様より来週には、辺境伯領地から迎えの馬車を送ると手紙が届いたから。
まだ先だと思っていたお姉様は、お父様の言葉に身体を震わせていた。
貴族令嬢として当主であるお父様の言葉は絶対だ。
お姉様も、諦めて準備をすると言っていたのに…。
まさか駆け落ちの準備だったとは。
私は、幼馴染みのアルベルトが好きだった。
婚約者になれた時、とても嬉しくて嬉しくて泣いた。
アルベルトは、私の初恋の人だったから。
アルベルトは、お姉様に好意を持っていたが、お姉様は伯爵家の跡取り。
アルベルトも、コルドム子爵家の跡取り。
どんなにアルベルトがお姉様と婚約したくても、両家当主が認めない。
まあそれ以前に、お姉様がアルベルトは眼中に無かったのだけれど。
お姉様と伯爵家の三男との婚約が決まった時は、アルベルトは涙を堪え悲しそうな顔をしていたのを覚えている。
しかし1年後に私との婚約が決まると「必ず幸せにする」とアルベルトは約束してくれた。
そう…アルベルトは、私に約束してくれたのだ。
だから、お姉様の事は吹っ切れたのだと勘違いしていた。
アルベルトのお姉様への想いは消えていなかった。
ザイザル辺境伯様に嫁ぐ事を拒んだお姉様と駆け落ちしてしまうほど、彼の気持ちはお姉様にあったのだろう。
私との婚約は、少しでもお姉様と繋がっていたいからだったからなの?
私の事は、少しも好きでは無かったの?
私はアルベルトにゴミを捨てる様に簡単に捨てられる存在だったのだ…。
私は泣いた。
いくら泣いても涙は止まる事はなかった。
どれだけ経ったのだろう…?
アンナが濡れたタオルを持って部屋に来てくれた。
「アイリスお嬢様。旦那様が落ち着いたら応接室へ来て欲しいとの事です」
こんな目が腫れた顔で、部屋から出るのも嫌だが、お父様がお呼びという事は、お姉様とアルベルトの行方が分かったのかも知れない。
気分を落ち着かせ、目の腫れが少し引いた頃に応接室へと向かう。
そこにはアルベルトの両親のコルドム子爵夫妻も居た。
「アイリス嬢。大丈夫…じゃないね。アルベルトが本当にすまない事をした」
土下座をして謝るコルドム子爵に「大丈夫です」と言えたなら良いのだけれど、今の私には返す言葉が出ない。
お父様からソファーに座る様に言われて、お母様の横に座る事にした。
「アイリス。お前とアルベルトの婚約は白紙に戻した。カトリーヌとアルベルトだが、それぞれの家から勘当し除籍する事が決まった。それでだ、お前には、カトリーヌの代わりとしてザイザル辺境伯へ嫁いで貰う事になる。ザイザル卿には先程早馬を出した。こちらからの申し入れなのだ、こちらから断わる事が出来ない。」
「えっ?私がですか?…ザイザル辺境伯様は私でも良いのでしょうか?」
「ザイザル卿の返事次第だが問題ないだろう。今のお前には、王都の地は嫌でも心無い言葉が耳に入り傷付くだろう。だが辺境伯領地までは遠い。緑の多い豊かな地は、傷付いたお前の心も癒してくれるだろう」
それは私がお姉様に言った言葉…。
こんな時に、その言葉が返ってくるなんて皮肉なものね…。
「畏まりました。では早急に荷物を纏め、準備を致します」
アルベルトが居なくなった今、誰と婚約しても同じだ。
だけれどザイザル辺境伯様は、本当に良いのだろうか?
姉のカトリーヌと婚約する筈だったのだ。
もし私を受け入れてくれなかったら…私は、ここには戻らず修道院に入ろう。
そう心に決めた。
ザイザル辺境伯様に嫁ぐ事を決心したと思われていたお姉様は、私の婚約者のアルベルトと駆け落ちしたのだ。
なぜ今日なのかって?
それは昨日、ザイザル辺境伯様より来週には、辺境伯領地から迎えの馬車を送ると手紙が届いたから。
まだ先だと思っていたお姉様は、お父様の言葉に身体を震わせていた。
貴族令嬢として当主であるお父様の言葉は絶対だ。
お姉様も、諦めて準備をすると言っていたのに…。
まさか駆け落ちの準備だったとは。
私は、幼馴染みのアルベルトが好きだった。
婚約者になれた時、とても嬉しくて嬉しくて泣いた。
アルベルトは、私の初恋の人だったから。
アルベルトは、お姉様に好意を持っていたが、お姉様は伯爵家の跡取り。
アルベルトも、コルドム子爵家の跡取り。
どんなにアルベルトがお姉様と婚約したくても、両家当主が認めない。
まあそれ以前に、お姉様がアルベルトは眼中に無かったのだけれど。
お姉様と伯爵家の三男との婚約が決まった時は、アルベルトは涙を堪え悲しそうな顔をしていたのを覚えている。
しかし1年後に私との婚約が決まると「必ず幸せにする」とアルベルトは約束してくれた。
そう…アルベルトは、私に約束してくれたのだ。
だから、お姉様の事は吹っ切れたのだと勘違いしていた。
アルベルトのお姉様への想いは消えていなかった。
ザイザル辺境伯様に嫁ぐ事を拒んだお姉様と駆け落ちしてしまうほど、彼の気持ちはお姉様にあったのだろう。
私との婚約は、少しでもお姉様と繋がっていたいからだったからなの?
私の事は、少しも好きでは無かったの?
私はアルベルトにゴミを捨てる様に簡単に捨てられる存在だったのだ…。
私は泣いた。
いくら泣いても涙は止まる事はなかった。
どれだけ経ったのだろう…?
アンナが濡れたタオルを持って部屋に来てくれた。
「アイリスお嬢様。旦那様が落ち着いたら応接室へ来て欲しいとの事です」
こんな目が腫れた顔で、部屋から出るのも嫌だが、お父様がお呼びという事は、お姉様とアルベルトの行方が分かったのかも知れない。
気分を落ち着かせ、目の腫れが少し引いた頃に応接室へと向かう。
そこにはアルベルトの両親のコルドム子爵夫妻も居た。
「アイリス嬢。大丈夫…じゃないね。アルベルトが本当にすまない事をした」
土下座をして謝るコルドム子爵に「大丈夫です」と言えたなら良いのだけれど、今の私には返す言葉が出ない。
お父様からソファーに座る様に言われて、お母様の横に座る事にした。
「アイリス。お前とアルベルトの婚約は白紙に戻した。カトリーヌとアルベルトだが、それぞれの家から勘当し除籍する事が決まった。それでだ、お前には、カトリーヌの代わりとしてザイザル辺境伯へ嫁いで貰う事になる。ザイザル卿には先程早馬を出した。こちらからの申し入れなのだ、こちらから断わる事が出来ない。」
「えっ?私がですか?…ザイザル辺境伯様は私でも良いのでしょうか?」
「ザイザル卿の返事次第だが問題ないだろう。今のお前には、王都の地は嫌でも心無い言葉が耳に入り傷付くだろう。だが辺境伯領地までは遠い。緑の多い豊かな地は、傷付いたお前の心も癒してくれるだろう」
それは私がお姉様に言った言葉…。
こんな時に、その言葉が返ってくるなんて皮肉なものね…。
「畏まりました。では早急に荷物を纏め、準備を致します」
アルベルトが居なくなった今、誰と婚約しても同じだ。
だけれどザイザル辺境伯様は、本当に良いのだろうか?
姉のカトリーヌと婚約する筈だったのだ。
もし私を受け入れてくれなかったら…私は、ここには戻らず修道院に入ろう。
そう心に決めた。
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