お姉様と私の婚約者が駆け落ちしたので、お姉様の代わりに辺境伯に嫁ぎます。

山葵

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辺境伯領は、ドレスよりも動きやすいワンピースの方が良いだろうとワンピースを多めに持つ事にした。
それに、もしもザイザル辺境伯様が、私を受け入れなかった時は修道院に入る予定だ。
かさばるドレスなど必要がない。

アンナは、最初は何か言いたそうにしていたが、私が持っていく物を選び出すと、黙って私の指示に従い、次々と鞄に詰めて荷造りしてくれている。

「これ位で良いかしら…。アンナ、もう終わりにしましょう。必要な物が有ったら、手紙で知らせるから、後日送ってくれれば良いわ」

「畏まりました。その様に手配します」

夕食の時間は、とても静かだった…。

姉が妹の婚約者と駆け落ちし、駆け落ちされた妹は、姉の婚約者に代わりとして嫁ぐ。

ほんと、まるで喜劇みたいで笑ってしまうわ。

「アイリス…お前には本当にすまないと思っている。だが、辺境伯との婚姻を此方から解消する訳には行かないのだ。堪えてくれ」

「大丈夫ですわ。お父様の言う通り、この地に留まり笑い者になるよりも、ザイザル辺境伯様の所に嫁いだ方が きっと幸せですわ。どうかお父様、お母様も、そんなに心配なさらないで下さい。私は大丈夫です」

憔悴しているお父様を責める事など出来ない。
今にも倒れそうな顔をしているお母様にすがって泣く事も…。



翌週、ザイザル辺境伯が迎えに寄越した従者が、モイス伯爵家にやって来た。

「ザイザル辺境伯の命により、モイス伯爵家ご令嬢を御迎えに上がりました。私は、ザイザル辺境伯の側近で、キリス子爵家三男ロイと申します」

「キリス子爵家三男ロイ様…」

「モイス伯爵ご令嬢、どうかロイとお呼び下さい」

「ではロイ様、父から聞いたと思いますが、ザイザル辺境伯様の元に向かうのがカトリーヌから、わたくしアイリスに変わりました。その旨、ザイザル辺境伯様には手紙を出しております」

「伺っております。モイス伯爵家ご令嬢」

「ロイ様、どうかわたくしの事もアイリスとお呼び下さい。道中どうぞ宜しくお願い致します」

「畏まりました、アイリス様」

私の荷物を積み込んで貰っている間に、私は家族と使用人達に挨拶を済ませる。

「お父様、お母様どうかお元気で。皆、お父様とお母様を宜しく頼むわね」

馬車に乗り込むと、何故か一緒にアンナも乗り込んできた。

私はザイザル辺境伯の元には、侍女は付けずに行くと決めていた。

ましてアンナは、まだ若い。
此方に居た方が良いに決まっている。

「私は、アイリスお嬢様とご一緒します。旦那様にも許可は頂きました。ロイ様にも了承済みです」

「アンナ、本当に良いの?もうモイス伯爵家には戻って来れないかもしれないのよ?私の為に無理をしないで…」

しかしアンナの決意は固く、私は1人で嫁がずに済んだ事に安堵する。

「アンナ、ありがとう」

ザイザル辺境伯領地までは、馬車で1週間は掛かる。
1人で馬車の中で過ごせば余計な事を考えて気分が滅入ってしまう。
話し相手としてもアンナが居てくれ本当に嬉しかった。
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