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ジル様は、私との婚約を領民に発表すると空いた時間に領地を周り、私の顔見せと領地の説明をしてくれた。
私が挨拶すると、領民が私を見る目は冷たく態度も悪い。
ジル様に対する態度は好意的で民もジル様を慕っているのが分かる。
不思議に思っていると、ジル様がすまなそうな顔をして話してくれた。
ザイザル領の領民達は、領主ジル様を心から慕っていた。領主の婚約も心から祝福していた。
しかし、婚約者として王都からやって来た貴族令嬢は、ど田舎なザイザル領を見ると嫌悪感を露にし、歓迎する領民を馬鹿にする暴言を吐き、泣き喚き「王都に帰りたい」と言っていたそうだ。ジル様が婚約解消を告げると喜んで王都に帰って行ったという。
そんな貴族令嬢達に領民は憤慨していたのだ。
そんな事が何回も有れば「また今回も…」と思い、期待もせず、私に冷たく接するのも分かる気がする。
「アイリス。その、すまない…」
「ジル様が謝る事ではないわ。領民の方達はジル様を、とても慕っているのね。私も、いつかは受け入れられて、そうなれると良いのだけれど…。ここは本当に緑が多くて空気も清んでいて、とても気持ちが良いわ。それに領民も生き生きとして幸せにしているわ」
ジルは、驚いた。
今までの令嬢達は、領地を案内すると「本当に田舎で何も無い」「お洒落なブティックは?カフェテリアは?」「領民が貴族に話し掛けるなんて馴れ馴れし過ぎるのでは?」「どこも同じ様な景色でつまらない。もう王都に戻りたい」と文句を言うばかり。
5日間保てば良い方で、中には1日で帰った令嬢もいた。
アイリスは、今までの令嬢と違うのかもしれない。
「どうかしたの?もしかして私、何か変な事を言ったとか?」
「いや、君が我が領地を気に入ってくれた事が嬉しくてね。アイリス、我がザイザル領へようこそ」
「ええ、とても素敵で気に入ったわ。実は私…屋敷に籠ってお茶を飲んだり、刺繍をしているよりも、緑の中を走り回る方が好きなの。幼少の頃に淑女らしからぬ!と止めさせられてしまったけれど。あっ、幻滅されたかしら?」
「いや、私も屋敷に籠る女性より外に出る女性の方が良い」
この人なら…と、お互いが心に思ったが、声には出さない。
声に出して、婚約が解消された時の悲しさを分かっている2人だから。
領地を何日か掛けて周り終える頃には、2人の距離は縮まっていた。
アイリスがザイザル領に来て3ヶ月が過ぎていた。
執務室で仕事をするジルに、幼馴染みで側近のガイルは書類を渡しながら、アイリスの姉カトリーヌが王都のモルト伯爵家に現れた事を報告した。
「駆け落ちしたモルト伯爵家元令嬢カトリーヌとコルドム子爵家元子息が生家に戻って来たそうだよ。持って出た金や貴金属類が底を付いたみたいだね。自分達で平民になると決めたのに、彼女も彼も贅沢な生活を止められなかった様だ。まぁ両家共に除籍されてるから、今更戻ったところで屋敷には入れて貰えず、 2人共、途方にくれて何処かへ行ったみたいだね。2人は喧嘩別れした様だよ。計画的な物かと思ったけれど、考えなしの行動だったみたいだね」
「そうか…まぁこちらにはもう関係の無い事だ」
「そうだと良いけれど、今のあの2人にはアイリス様しか頼るところが無いじゃない。普通なら裏切ったアイリス様に会おうなんて思わないと思うけれど…。しかし今度の婚約者がアイリス様で良かったよね。カトリーヌだったら、また婚約解消だったんじゃない?」
「そうだな…アイリスで良かった」
そう言うジルは、顔が少し赤い。
ガイルは、そんな顔をするジルに驚く。
「ジルさぁー、早くアイリス様に結婚を申し込みなよ」
「な、何を…」
「アイリス様が好きなんだろう?あんまり焦らすと王都に帰っちゃうかもよぉー」
「だが俺はアイリスよりも14歳も年上だ。田舎の辺境伯よりも若い子息の方が彼女には…」
ガイルは、ジルの言葉に呆れ、腹が立った。
「ジル!お前は本当にそう思ってるのかっ!?じゃあ今すぐ婚約解消して彼女を王都に帰してやれよっ!!」
「…………」
「ジル…アイリス様に自分の気持ちを告げてみなよ。彼女が結婚に難色を示したら王都に帰してやれば良いじゃないか?」
「…そうだな。今晩アイリスに話をしてみる」
ジルは、アイリスに夕食後に少し話をしたいと言った。
ジルが、お茶を淹れさせると使用人達を部屋から退出させた。
その様子から、アイリスは婚約を解消されるのではと不安になる。
「…アイリス……そ、その…」
ジル様が言葉に詰まっている。
やはり婚約解消なのだ。
何を言われても受け入れようとアイリスは、心に決めた。
「そのー…結婚しないか?」
「畏まりました。今までお世話…えっ?今、何て?」
「アイリス・モイス嬢。私ジルフィード・ザイザルと結婚して欲しい!…嫌か?」
「いいえ、いいえ。ジル様、本当に、本当に私で良いのですか?婚約者に駆け落ちされた女ですよ?後悔しませんか?」
「それならば、俺も婚約者に駆け落ちされた男だ。俺は、生涯を共にするならばアイリスが良い。アイリス以外に考えられない。アイリスこそ、本当に俺で良いのか?14も歳の離れたジジイだぞ?」
「私もジル様が良いです!」
涙を流すアイリスの頬を優しくジルが拭う。
やっと2人の心が通じあった。
私が挨拶すると、領民が私を見る目は冷たく態度も悪い。
ジル様に対する態度は好意的で民もジル様を慕っているのが分かる。
不思議に思っていると、ジル様がすまなそうな顔をして話してくれた。
ザイザル領の領民達は、領主ジル様を心から慕っていた。領主の婚約も心から祝福していた。
しかし、婚約者として王都からやって来た貴族令嬢は、ど田舎なザイザル領を見ると嫌悪感を露にし、歓迎する領民を馬鹿にする暴言を吐き、泣き喚き「王都に帰りたい」と言っていたそうだ。ジル様が婚約解消を告げると喜んで王都に帰って行ったという。
そんな貴族令嬢達に領民は憤慨していたのだ。
そんな事が何回も有れば「また今回も…」と思い、期待もせず、私に冷たく接するのも分かる気がする。
「アイリス。その、すまない…」
「ジル様が謝る事ではないわ。領民の方達はジル様を、とても慕っているのね。私も、いつかは受け入れられて、そうなれると良いのだけれど…。ここは本当に緑が多くて空気も清んでいて、とても気持ちが良いわ。それに領民も生き生きとして幸せにしているわ」
ジルは、驚いた。
今までの令嬢達は、領地を案内すると「本当に田舎で何も無い」「お洒落なブティックは?カフェテリアは?」「領民が貴族に話し掛けるなんて馴れ馴れし過ぎるのでは?」「どこも同じ様な景色でつまらない。もう王都に戻りたい」と文句を言うばかり。
5日間保てば良い方で、中には1日で帰った令嬢もいた。
アイリスは、今までの令嬢と違うのかもしれない。
「どうかしたの?もしかして私、何か変な事を言ったとか?」
「いや、君が我が領地を気に入ってくれた事が嬉しくてね。アイリス、我がザイザル領へようこそ」
「ええ、とても素敵で気に入ったわ。実は私…屋敷に籠ってお茶を飲んだり、刺繍をしているよりも、緑の中を走り回る方が好きなの。幼少の頃に淑女らしからぬ!と止めさせられてしまったけれど。あっ、幻滅されたかしら?」
「いや、私も屋敷に籠る女性より外に出る女性の方が良い」
この人なら…と、お互いが心に思ったが、声には出さない。
声に出して、婚約が解消された時の悲しさを分かっている2人だから。
領地を何日か掛けて周り終える頃には、2人の距離は縮まっていた。
アイリスがザイザル領に来て3ヶ月が過ぎていた。
執務室で仕事をするジルに、幼馴染みで側近のガイルは書類を渡しながら、アイリスの姉カトリーヌが王都のモルト伯爵家に現れた事を報告した。
「駆け落ちしたモルト伯爵家元令嬢カトリーヌとコルドム子爵家元子息が生家に戻って来たそうだよ。持って出た金や貴金属類が底を付いたみたいだね。自分達で平民になると決めたのに、彼女も彼も贅沢な生活を止められなかった様だ。まぁ両家共に除籍されてるから、今更戻ったところで屋敷には入れて貰えず、 2人共、途方にくれて何処かへ行ったみたいだね。2人は喧嘩別れした様だよ。計画的な物かと思ったけれど、考えなしの行動だったみたいだね」
「そうか…まぁこちらにはもう関係の無い事だ」
「そうだと良いけれど、今のあの2人にはアイリス様しか頼るところが無いじゃない。普通なら裏切ったアイリス様に会おうなんて思わないと思うけれど…。しかし今度の婚約者がアイリス様で良かったよね。カトリーヌだったら、また婚約解消だったんじゃない?」
「そうだな…アイリスで良かった」
そう言うジルは、顔が少し赤い。
ガイルは、そんな顔をするジルに驚く。
「ジルさぁー、早くアイリス様に結婚を申し込みなよ」
「な、何を…」
「アイリス様が好きなんだろう?あんまり焦らすと王都に帰っちゃうかもよぉー」
「だが俺はアイリスよりも14歳も年上だ。田舎の辺境伯よりも若い子息の方が彼女には…」
ガイルは、ジルの言葉に呆れ、腹が立った。
「ジル!お前は本当にそう思ってるのかっ!?じゃあ今すぐ婚約解消して彼女を王都に帰してやれよっ!!」
「…………」
「ジル…アイリス様に自分の気持ちを告げてみなよ。彼女が結婚に難色を示したら王都に帰してやれば良いじゃないか?」
「…そうだな。今晩アイリスに話をしてみる」
ジルは、アイリスに夕食後に少し話をしたいと言った。
ジルが、お茶を淹れさせると使用人達を部屋から退出させた。
その様子から、アイリスは婚約を解消されるのではと不安になる。
「…アイリス……そ、その…」
ジル様が言葉に詰まっている。
やはり婚約解消なのだ。
何を言われても受け入れようとアイリスは、心に決めた。
「そのー…結婚しないか?」
「畏まりました。今までお世話…えっ?今、何て?」
「アイリス・モイス嬢。私ジルフィード・ザイザルと結婚して欲しい!…嫌か?」
「いいえ、いいえ。ジル様、本当に、本当に私で良いのですか?婚約者に駆け落ちされた女ですよ?後悔しませんか?」
「それならば、俺も婚約者に駆け落ちされた男だ。俺は、生涯を共にするならばアイリスが良い。アイリス以外に考えられない。アイリスこそ、本当に俺で良いのか?14も歳の離れたジジイだぞ?」
「私もジル様が良いです!」
涙を流すアイリスの頬を優しくジルが拭う。
やっと2人の心が通じあった。
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