お姉様と私の婚約者が駆け落ちしたので、お姉様の代わりに辺境伯に嫁ぎます。

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執務室でジルはロイからの報告を聞いていた。

金銭を渡し、出発直前の辻馬車に押し込み、馬車が走り出すのを見送った。というがジルもロイも嫌な予感がしてならない。

報告を一緒に聞いたガイルも、素直に王都に帰るとは思えないと言った。

「カトリーヌ嬢は気が強くプライドも高いと聞いたよ。伯爵も次期当主として厳しく指導していたし、その性格は、次期当主としては良かったんだろうけれど、弟が産まれて彼女の人生は狂ったよね～。伯爵も彼女に厳しくしていたからか彼女の贅沢を出来る限り許していた様だし～。きっと自分は何をしても両親は許してくれるとか思っていたんだよねぇ～。戻れば泣いて喜ぶとね。それが、いざ戻ってみれば門は開かれない。予定外の事に焦ったんだろうね。それならばアイリス様に伯爵を説得してくれる様に頼みに来たんだろうけれど…まったく妹の婚約者と駆け落ちしたくせに、どういう神経をしているんだか。それにさぁージルに見惚れていたじゃんっ！あれは完全に惚れたねっ！きっと婚約を元に戻そうと考えて戻って来るんじゃない！？」

辺境伯になど嫁ぎたくないと言って妹の婚約者と駆け落ちする様な女だ。
何を考えているかも、アイリスに何をしてくるか分からない。
ガイルの言葉にジルは頷きロイにアイリスの護衛を強化する様に頼んだ。

「ロイ、アイリスから絶対に目を離さない様にしてくれ。あの女が王都に戻ったと確認が出来るまでアイリスにはなるべく外出は控える様に伝える。」

「了解！……カトリーヌ嬢はアイリスじゃなくてジルに接触してこないかな？美丈夫な辺境伯なんて今の彼女にしたら何がなんでも手に入れたいだろ？」

「彼女はもう平民だよ！？ジルの婚約者になれるわけないじゃん。」

「今の彼女が自分の立場を分かっていると思う？除籍された事を理解していないからアイリスに会いに此処まで来たんじゃないの？」

｢私の婚約者はアイリスだ！あんな女とは…｣

部屋の扉がノックされた。

そこに居たのは、ロイが辻馬車の後に付けさせた騎士だった。

彼はカトリーヌが乗り継ぎ場に着くと、ちょうどザイザル領に向かい出発する辻馬車に急ぎ飛び乗ったのを見ていた。

辻馬車を追い越し、報告の為に屋敷まで戻って来たのだ。

「あはは。本当に期待を裏切らないねぇ～。それでジル、どうする？」

「はぁーしょうがない。我が家の馬車で王都まで丁重に御送りするしか有るまい。いや、王都に送ってもモイス伯爵に迷惑が掛かるか……おいカトリーヌが乗った辻馬車は何時に着く？」

騎士は夕刻には到着すると告げた。
ジルは、そのままカトリーヌを見張る様に指示を出す。

急いで机に向かうとモイス伯爵に文を書いた。

それを早馬で届ける様に指示を出し、カムリにお茶を淹れて貰う。

「一体何を思い付いたのさ？なんか凄く悪い顔をしているよ。」

「カトリーヌをそのまま王都に戻しても良くないと思ってね。それならば心を入れ替える場所に送った方が丸く収まると…」

「心を入れ替える？えっ！？まさか修道院に送るの？モイス伯爵の許可もなく？」

「許可がなくとも送る事は可能だろう？例えば平民が貴族に何かしらの不躾な態度を取り不快な思いをしたならどうだ？」

「えっ？まさかアイリスに会わせるの！？」

「馬鹿を言うなっ！誰が会わせるかっ！！彼女の狙いが私なら必ず私に接触してくるはず。そうだろう？」

そう言って笑うジルを見て、ガイルとロイは、絶対にジルを怒らせてはいけないと心の中で思っていた。