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第一章
第12話 不遇の中身
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「私のジョブはいかがでしょうか?」
「フレイズのジョブは初めて見るものだから、この先覚えるスキルまでは分からないけど、今覚えている【属性付与】はいいスキルだと思うよ。物に属性を付与できるから、武器に付与すれば追加ダメージを与えられる」
それを聞いてフレイズは喜んだが、クレアがむくれた。
「えーずるい。みんな不遇職なんじゃないの?」
「人の社会だったら不遇だろうな。武器に属性付与なんて魔法が使えれば必要ないから」
俺は収納空間からダガーを取り出して魔法で炎を纏わせた。
「おぉ!」
「かっけぇ……」
声に出して反応したのはクレアとコハクだ。
こういうのが好きとは、コハクは分かりやすいな。
「だけど少しはお役に立てそうな能力なら嬉しいです」
フレイズは自分のスキルに使い道があると聞いて満足そうだ。
実際、フレイズの力は現状で1番有用性が高い。
魔法が使えず、現状で属性攻撃を持たない精霊たちにとって、この【属性付与】が攻撃の幅を広げる重要な役割を果たすことは間違いない。
「私の力は言わずもがな、戦いには向かなそうだね」
苦笑いしながら言ったのはポーラだ。
その言葉に俺は忖度なく答える。
「たしかに戦闘に向いているジョブじゃない。それに俺がポーラに戦闘術を教えることも、やはり難しいと思う」
「だろうね」
ポーラの【自動地図】は自らが直接感知した場所の地形が地図として自らの中に記録され、それが脳内……精霊に脳はないのかもしれないが、とにかく脳内再生のようにいつでも見ることができる。
戦闘そのものには向かないスキルだし、俺の経験上、この手のジョブは成長したところで戦闘に有用なスキルは覚えない。
そういう意味では俺のジョブもそうだ。
俺はそれを武術や魔法でカバーしてきたが、小さな鼠の姿のポーラには仮に武術を教えたとしても、実戦が難しいことは火を見るよりも明らかだった。
「あんたが戦闘に参加するのは自殺行為に等しい。でもこの力は直接戦うこと以上に、みんなを守ることができる」
「みんなを守れる?」
「この力の強みは以前のデータと比べれば、森に起きている些細な変化にも気づけることだ」
前には木々が生えていたところが、草っぱらになっている。以前はなかった洞穴ができている。川幅が以前よりも狭くなっている。そういう変化は魔物の大量発生や自然災害の予兆だったりする。
「ここの結界は強力だから、大抵のことは問題ないだろう。だけど外に出るならそういうことに注意を配って、危険は回避することが大事なんだよ」
そもそも目的はこの森の覇者になることじゃない。この森で生活していくのに必要な力を身に着けることだ。そしてそれは個々ではなく、みんなで協力して成り立てばいいことで、全員が戦士になる必要はない。
ポーラ以外の精霊たちは、自分の身を守る術をある程度は身に着けてもらわなければ、結界の外には出せない。
だけどポーラは小さいままだから、俺の懐に入れてでも守ることはできる。
「でもそれじゃあお荷物じゃないのかい?」
「そうしてでも連れて歩く意義があるくらい、あんたの能力は有用ってことだ。むしろこれからは俺が狩りに出るときは毎回ついてきてもらうぞ。もう眠さはないんだろ?」
「あぁ、もう全然平気だ」
やはりいつも寝ていたのは、魂を消耗していた影響だったようだ。
「ねぇねぇ、僕の《ブッチャー》は?」
「……要検証だな」
アオバの【捌きの刃】が実は1番不遇の匂いを感じている。
でもそれはしっかり検証してから、話すことにした。
「狩りから帰ったら昼飯作るけど、今日からは一緒に作るだろ?」
「うん!」
俺の誘いにアオバは本当に嬉しそうにした。
それが地獄の特訓の始まりになるとは、夢にも思っていないのだろう。
***
「痛い!!」
昼前、アオバの悲鳴が響き渡った。
「料理ってこんなに痛いの?」
大包丁を手に涙目で訴えってくるが、俺は問いには答えず、手元に集中させた。
「今度はこの足の付け根に沿って、この角度で包丁を入れてみろ」
「うん……」
台の上にいるのは、俺が今朝狩ってきたバジャバットという蝙蝠のような翼の生えたアナグマだ。
アオバは俺の指示に従って、恐る恐る足の付け根を切った。
すると、足がすっと切れて、足が体から分かたれた。
その足を持ち上げるとアオバは満面の笑みで俺に見せてくる。
「切れたよ! 見て、きれいに切れた!」
「あぁ、本当にきれいに切れている。すごく新鮮そうだな」
口ではそう褒めながらも俺は頭を抱えた。
アオバの獲得したスキル【捌きの刃】は、対象を正しく捌くと、素材の質が上がる。だが間違った捌き方をすると、スタンを食らう、というものだった。
スタンと言うのは実質的なダメージはないが、全身に電流が走るような痛みを感じる現象のこと。
武器の追加効果や、スキルで相手に与えることはあるが、このスキルはそれがペナルティとして課せられる。
最初の悲鳴は、とりあえず好きに切ってもらったことで、スタンが発生したことが原因だったのだ。
それにしてもその対価……成功時の効果が素材の質って……
どんな原理が知らないが切られた足は、普通に切るよりも明らかに新鮮そうで、きっと食べたらおいしいのだろう。
でもだからなんだという話だ。
しかもこのスキルには2つの大きな問題があった。
1つはこれが任意で発動させるアクションスキルではなく、常時発動型のパッシブスキルであるということ。
そしてもう1つは《ブッチャー》のジョブの分類が戦士系であること。
おそらくこのスキルは、相手が生きていても効果を発揮する。
つまり動いている相手でも解体対象として捌くことが強いられるということだ。
これはなかなかに厳しいぞ、という現実をアオバにはちゃんと伝えた。
だがアオバは特に落ち込む様子もなく、台の上のバジャバッドに視線を戻した。
「頑張ればおいしい肉が手に入るってことだよね? 僕頑張るよ! 次はどこを切ればいいかな?」
むしろその目はさっきよりもキラキラしている。
その目を見て、俺は最初に祝福した村の青年を思い出した。
便利なスキルとか、恵まれたジョブとか、そんなのは他と比べた時の物差しでしかない。
今、アオバが向き合っているのは、昨日よりもできる自分だ。
ポーラは俺の本を読んで、地形や植生について勉強している。
フレイズは小枝に【属性付与】を実践している。
クレアとコハクは俺が渡した武器を手に、見様見真似で練習している。
全員が結界の中で怯えるだけの自分から踏み出そうとしているんだ。
それなら俺はまたここから始めよう。
ポーラの言う通り、諦めたなんて嘯くのはやめよう。
精霊と人の懸け橋か……悪くないじゃないか。
そのためにはまず対等になれるだけの力をつけないとな。
俺は決意を新たに、精霊たちの特訓を始めた。
「フレイズのジョブは初めて見るものだから、この先覚えるスキルまでは分からないけど、今覚えている【属性付与】はいいスキルだと思うよ。物に属性を付与できるから、武器に付与すれば追加ダメージを与えられる」
それを聞いてフレイズは喜んだが、クレアがむくれた。
「えーずるい。みんな不遇職なんじゃないの?」
「人の社会だったら不遇だろうな。武器に属性付与なんて魔法が使えれば必要ないから」
俺は収納空間からダガーを取り出して魔法で炎を纏わせた。
「おぉ!」
「かっけぇ……」
声に出して反応したのはクレアとコハクだ。
こういうのが好きとは、コハクは分かりやすいな。
「だけど少しはお役に立てそうな能力なら嬉しいです」
フレイズは自分のスキルに使い道があると聞いて満足そうだ。
実際、フレイズの力は現状で1番有用性が高い。
魔法が使えず、現状で属性攻撃を持たない精霊たちにとって、この【属性付与】が攻撃の幅を広げる重要な役割を果たすことは間違いない。
「私の力は言わずもがな、戦いには向かなそうだね」
苦笑いしながら言ったのはポーラだ。
その言葉に俺は忖度なく答える。
「たしかに戦闘に向いているジョブじゃない。それに俺がポーラに戦闘術を教えることも、やはり難しいと思う」
「だろうね」
ポーラの【自動地図】は自らが直接感知した場所の地形が地図として自らの中に記録され、それが脳内……精霊に脳はないのかもしれないが、とにかく脳内再生のようにいつでも見ることができる。
戦闘そのものには向かないスキルだし、俺の経験上、この手のジョブは成長したところで戦闘に有用なスキルは覚えない。
そういう意味では俺のジョブもそうだ。
俺はそれを武術や魔法でカバーしてきたが、小さな鼠の姿のポーラには仮に武術を教えたとしても、実戦が難しいことは火を見るよりも明らかだった。
「あんたが戦闘に参加するのは自殺行為に等しい。でもこの力は直接戦うこと以上に、みんなを守ることができる」
「みんなを守れる?」
「この力の強みは以前のデータと比べれば、森に起きている些細な変化にも気づけることだ」
前には木々が生えていたところが、草っぱらになっている。以前はなかった洞穴ができている。川幅が以前よりも狭くなっている。そういう変化は魔物の大量発生や自然災害の予兆だったりする。
「ここの結界は強力だから、大抵のことは問題ないだろう。だけど外に出るならそういうことに注意を配って、危険は回避することが大事なんだよ」
そもそも目的はこの森の覇者になることじゃない。この森で生活していくのに必要な力を身に着けることだ。そしてそれは個々ではなく、みんなで協力して成り立てばいいことで、全員が戦士になる必要はない。
ポーラ以外の精霊たちは、自分の身を守る術をある程度は身に着けてもらわなければ、結界の外には出せない。
だけどポーラは小さいままだから、俺の懐に入れてでも守ることはできる。
「でもそれじゃあお荷物じゃないのかい?」
「そうしてでも連れて歩く意義があるくらい、あんたの能力は有用ってことだ。むしろこれからは俺が狩りに出るときは毎回ついてきてもらうぞ。もう眠さはないんだろ?」
「あぁ、もう全然平気だ」
やはりいつも寝ていたのは、魂を消耗していた影響だったようだ。
「ねぇねぇ、僕の《ブッチャー》は?」
「……要検証だな」
アオバの【捌きの刃】が実は1番不遇の匂いを感じている。
でもそれはしっかり検証してから、話すことにした。
「狩りから帰ったら昼飯作るけど、今日からは一緒に作るだろ?」
「うん!」
俺の誘いにアオバは本当に嬉しそうにした。
それが地獄の特訓の始まりになるとは、夢にも思っていないのだろう。
***
「痛い!!」
昼前、アオバの悲鳴が響き渡った。
「料理ってこんなに痛いの?」
大包丁を手に涙目で訴えってくるが、俺は問いには答えず、手元に集中させた。
「今度はこの足の付け根に沿って、この角度で包丁を入れてみろ」
「うん……」
台の上にいるのは、俺が今朝狩ってきたバジャバットという蝙蝠のような翼の生えたアナグマだ。
アオバは俺の指示に従って、恐る恐る足の付け根を切った。
すると、足がすっと切れて、足が体から分かたれた。
その足を持ち上げるとアオバは満面の笑みで俺に見せてくる。
「切れたよ! 見て、きれいに切れた!」
「あぁ、本当にきれいに切れている。すごく新鮮そうだな」
口ではそう褒めながらも俺は頭を抱えた。
アオバの獲得したスキル【捌きの刃】は、対象を正しく捌くと、素材の質が上がる。だが間違った捌き方をすると、スタンを食らう、というものだった。
スタンと言うのは実質的なダメージはないが、全身に電流が走るような痛みを感じる現象のこと。
武器の追加効果や、スキルで相手に与えることはあるが、このスキルはそれがペナルティとして課せられる。
最初の悲鳴は、とりあえず好きに切ってもらったことで、スタンが発生したことが原因だったのだ。
それにしてもその対価……成功時の効果が素材の質って……
どんな原理が知らないが切られた足は、普通に切るよりも明らかに新鮮そうで、きっと食べたらおいしいのだろう。
でもだからなんだという話だ。
しかもこのスキルには2つの大きな問題があった。
1つはこれが任意で発動させるアクションスキルではなく、常時発動型のパッシブスキルであるということ。
そしてもう1つは《ブッチャー》のジョブの分類が戦士系であること。
おそらくこのスキルは、相手が生きていても効果を発揮する。
つまり動いている相手でも解体対象として捌くことが強いられるということだ。
これはなかなかに厳しいぞ、という現実をアオバにはちゃんと伝えた。
だがアオバは特に落ち込む様子もなく、台の上のバジャバッドに視線を戻した。
「頑張ればおいしい肉が手に入るってことだよね? 僕頑張るよ! 次はどこを切ればいいかな?」
むしろその目はさっきよりもキラキラしている。
その目を見て、俺は最初に祝福した村の青年を思い出した。
便利なスキルとか、恵まれたジョブとか、そんなのは他と比べた時の物差しでしかない。
今、アオバが向き合っているのは、昨日よりもできる自分だ。
ポーラは俺の本を読んで、地形や植生について勉強している。
フレイズは小枝に【属性付与】を実践している。
クレアとコハクは俺が渡した武器を手に、見様見真似で練習している。
全員が結界の中で怯えるだけの自分から踏み出そうとしているんだ。
それなら俺はまたここから始めよう。
ポーラの言う通り、諦めたなんて嘯くのはやめよう。
精霊と人の懸け橋か……悪くないじゃないか。
そのためにはまず対等になれるだけの力をつけないとな。
俺は決意を新たに、精霊たちの特訓を始めた。
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