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第二章 N+捜査官
40. 爆弾はどこにいった?
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車はすぅっと浮上すると上空を飛ぶ車の列に合流した。時間は午後1時、このぶんだとまた昼ご飯は食べ損ねるらしい。
「霧島が言うには、今朝忍び込ませたスパイウェアに反応があったって。相手は川崎瑠璃25歳、連絡して届け物を引き渡すよう話をしたが届いていないの一点張りらしい」
「それで俺たちに様子を見てくるよう連絡が来たってわけですね?」
あぁ、と返事をしたきり青砥が黙り込み、樹も黙り込んだ。青砥は決して無口ではない。その青砥が何も話さないことで車内の空気はどんどん重くなり、樹は戸惑っていた。
もしかして、なんか怒ってる……?
そう思いつつも聞けずに青砥を見ていると、はぁーっと大きく息を吐いた青砥が背もたれに完全に寄り掛かって樹を見た。
「あ、アオさん、前っ、前見ないと!!」
「完全自動運転モードにしたから大丈夫」
「そうなんすね……、で、なんですか? こっち見て」
「……ユーリさんと知り合いだったんだ?」
「あぁ、はい。まぁ、ちょっと」
あの出会いをどう説明したら良いか分からずに樹は曖昧に答えた。ユーリとは一度しか会っていない。時間も20分かそこらなのだが、共有した時間の濃度がそれ以上の感覚を樹に与えていた。
「ふぅん」
「ふぅん、って……」
「樹にとって俺はどんな存在?」
「どんな……仕事の先輩、かな」
「それだけ?」
口ごもった樹の右頬を青砥の左指が撫でて、また青砥がため息を吐いた。樹にしてみれば意味の分からない言動と行動だ。青砥が何を考えているのかが知りたくて表情を読もうとじっと見つめると、目を閉じた青砥がもう一度ため息を吐いた。
「キスしたい」
「は?」
「俺の知らない知り合いがいることに驚いたし、そんな当たり前のことに驚いている自分にも驚いたし、その知り合いがイケメンだってことにちょっと焦って、頭なんか撫でられたりして仲がいいことに嫉妬して、その全部を払拭するためにキスがしたいと思った自分に幻滅してる」
早口でまくし立てるように一気に喋り切った青砥は耳を赤く染めて口元を押さえた。それでも樹から目を逸らすことは無く、潤んだ目でしっかりと見つめてくる。
何この人……なんか可愛い……。
「ぷっ、ぷぷ、くくくくくっ」
想像もしていなかった青砥の言葉に樹はお腹を抱えて噴き出した。
そうか、俺が不安にならないようにちゃんと言葉にしてくれたのか……。青砥の真意に気が付けば途端に温かい感情があふれ出してくる。
「特別な先輩ってことにしときますよ」
樹はそう言うと青砥へと体を伸ばし首筋に口づけた。
「!!」
予期せぬ樹の行動に体を跳ねらせた青砥は首元を抑えながら恨めしそうに樹を見た。
川崎瑠璃の家は岩型の建物で、あちこちの岩の窪みから小さな木が生えていた。エレベーターの無い2階建ての小さなアパートで階段も建物の内側にあり外からは良く見えないようになっている。
「女性専用アパートって感じだな」
アパートへの入り口は一か所で、来客は用事がある部屋の部屋番号を機械に入力してその部屋の住人にアパートの入り口を開けて貰うシステムになっていた。
「すみません、警察の者ですがお話したいことがありますので中に入れて頂けないでしょうか?」
ウィーンとカメラが起動し樹に焦点があてられたのが分かった。
「えー、ちょっと今忙しいんですよね。それに、さっきの件なら警察の方にも届いてないって話したはずですけど」
「それは伺っていますが、とても重要なことですので私たちにもお話を聞かせて頂ければと思いまして」
「だから、今ちょっと時間が」
外壁を見ていた青砥が樹の肩に手を置くと「お忙しいところすみません」とカメラに向かって言った。
「川崎さんに危険が及ぶといけませんので、私たちを中に入れて貰えませんか?」
樹はムスッとクッションに座っていた。目の前にある小さなテーブルにはクッキーとチョコレートが並べられ、この部屋の住人はいそいそとお茶を淹れているところだ。
俺の時は時間が無いって言ってたのに、アオさんが顔を出した途端これだもんな。分かりやすいというかなんというか……。
「樹、仏頂面になってるぞ」
「アオさんはいつもですけどね」
「どうぞ、お花のフレーバーティです。口に合うといいけど」
瑠璃は青砥だけを見てほほ笑んだ。
霧島の情報によると川崎瑠璃は都内の化粧品会社で事務として働いているらしい。目の大きな可愛らしい女性なのだが、いわゆる裏アカSNSでは会社に対する悪口や友達に関する悪口を大量に吐き出しているとのことだった。
「SNSに「プレゼントを贈る」といった内容のメッセージが届いていませんでしたか?」
「届いてたわよ。っていうか、警察から電話があって気が付いたんだけどね」
昨日飲み会で朝まで寝てたから警察からの電話で起きたくらいよ、と言って瑠璃は笑った。
「ってかお兄さんイケメンだねー。昨日の合コン外れだと思ったらこんなところにいい男がいるなんて。ねぇ、彼女はいるの?」
「いませんけど。では、警察からの電話でメッセージを確認して玄関のドア前を確認したけどプレゼントは無かったということですね?」
「そう。じゃあ、私とさぁ、デートしない?」
「事件の関係者とデートは出来ませんね。実はこっそりプレゼントを隠し持っているなんてことは無いですよね?」
「無いわよー。じゃあさ、ご飯だけでもどう?」
青砥と瑠璃の会話を樹は冷めた目で聞いていた。と同時に、青砥にこんなにストレートに物事が言える瑠璃が爆弾を使いたいと思う程ストレスをためるものだろうかと疑問にも思っていた。
「どうして裏アカを作ってるんですか?」
「どうしてって、ストレス発散の為よ。文句や悪口は直接本人に言うべきだって人がよくいるじゃない? 陰で言うなって。でも私なら、私に気付かれないように陰で言ってて欲しい。直接言われたりしたら、メンタルが持たないもの」
「確かに俺も陰で言ってて欲しいかも……」
デショ、と頷き合う樹たちに青砥が「そうなんだ」と呟いた。
「俺は聞きたいかな。自分のどの行動が相手にどんな印象を与えたのか知りたいし、なんでそう思ったのか思考を知りたい」
「アオさんらしいっすね……」
「やっぱいいなー。益々気に入っちゃった」
「霧島が言うには、今朝忍び込ませたスパイウェアに反応があったって。相手は川崎瑠璃25歳、連絡して届け物を引き渡すよう話をしたが届いていないの一点張りらしい」
「それで俺たちに様子を見てくるよう連絡が来たってわけですね?」
あぁ、と返事をしたきり青砥が黙り込み、樹も黙り込んだ。青砥は決して無口ではない。その青砥が何も話さないことで車内の空気はどんどん重くなり、樹は戸惑っていた。
もしかして、なんか怒ってる……?
そう思いつつも聞けずに青砥を見ていると、はぁーっと大きく息を吐いた青砥が背もたれに完全に寄り掛かって樹を見た。
「あ、アオさん、前っ、前見ないと!!」
「完全自動運転モードにしたから大丈夫」
「そうなんすね……、で、なんですか? こっち見て」
「……ユーリさんと知り合いだったんだ?」
「あぁ、はい。まぁ、ちょっと」
あの出会いをどう説明したら良いか分からずに樹は曖昧に答えた。ユーリとは一度しか会っていない。時間も20分かそこらなのだが、共有した時間の濃度がそれ以上の感覚を樹に与えていた。
「ふぅん」
「ふぅん、って……」
「樹にとって俺はどんな存在?」
「どんな……仕事の先輩、かな」
「それだけ?」
口ごもった樹の右頬を青砥の左指が撫でて、また青砥がため息を吐いた。樹にしてみれば意味の分からない言動と行動だ。青砥が何を考えているのかが知りたくて表情を読もうとじっと見つめると、目を閉じた青砥がもう一度ため息を吐いた。
「キスしたい」
「は?」
「俺の知らない知り合いがいることに驚いたし、そんな当たり前のことに驚いている自分にも驚いたし、その知り合いがイケメンだってことにちょっと焦って、頭なんか撫でられたりして仲がいいことに嫉妬して、その全部を払拭するためにキスがしたいと思った自分に幻滅してる」
早口でまくし立てるように一気に喋り切った青砥は耳を赤く染めて口元を押さえた。それでも樹から目を逸らすことは無く、潤んだ目でしっかりと見つめてくる。
何この人……なんか可愛い……。
「ぷっ、ぷぷ、くくくくくっ」
想像もしていなかった青砥の言葉に樹はお腹を抱えて噴き出した。
そうか、俺が不安にならないようにちゃんと言葉にしてくれたのか……。青砥の真意に気が付けば途端に温かい感情があふれ出してくる。
「特別な先輩ってことにしときますよ」
樹はそう言うと青砥へと体を伸ばし首筋に口づけた。
「!!」
予期せぬ樹の行動に体を跳ねらせた青砥は首元を抑えながら恨めしそうに樹を見た。
川崎瑠璃の家は岩型の建物で、あちこちの岩の窪みから小さな木が生えていた。エレベーターの無い2階建ての小さなアパートで階段も建物の内側にあり外からは良く見えないようになっている。
「女性専用アパートって感じだな」
アパートへの入り口は一か所で、来客は用事がある部屋の部屋番号を機械に入力してその部屋の住人にアパートの入り口を開けて貰うシステムになっていた。
「すみません、警察の者ですがお話したいことがありますので中に入れて頂けないでしょうか?」
ウィーンとカメラが起動し樹に焦点があてられたのが分かった。
「えー、ちょっと今忙しいんですよね。それに、さっきの件なら警察の方にも届いてないって話したはずですけど」
「それは伺っていますが、とても重要なことですので私たちにもお話を聞かせて頂ければと思いまして」
「だから、今ちょっと時間が」
外壁を見ていた青砥が樹の肩に手を置くと「お忙しいところすみません」とカメラに向かって言った。
「川崎さんに危険が及ぶといけませんので、私たちを中に入れて貰えませんか?」
樹はムスッとクッションに座っていた。目の前にある小さなテーブルにはクッキーとチョコレートが並べられ、この部屋の住人はいそいそとお茶を淹れているところだ。
俺の時は時間が無いって言ってたのに、アオさんが顔を出した途端これだもんな。分かりやすいというかなんというか……。
「樹、仏頂面になってるぞ」
「アオさんはいつもですけどね」
「どうぞ、お花のフレーバーティです。口に合うといいけど」
瑠璃は青砥だけを見てほほ笑んだ。
霧島の情報によると川崎瑠璃は都内の化粧品会社で事務として働いているらしい。目の大きな可愛らしい女性なのだが、いわゆる裏アカSNSでは会社に対する悪口や友達に関する悪口を大量に吐き出しているとのことだった。
「SNSに「プレゼントを贈る」といった内容のメッセージが届いていませんでしたか?」
「届いてたわよ。っていうか、警察から電話があって気が付いたんだけどね」
昨日飲み会で朝まで寝てたから警察からの電話で起きたくらいよ、と言って瑠璃は笑った。
「ってかお兄さんイケメンだねー。昨日の合コン外れだと思ったらこんなところにいい男がいるなんて。ねぇ、彼女はいるの?」
「いませんけど。では、警察からの電話でメッセージを確認して玄関のドア前を確認したけどプレゼントは無かったということですね?」
「そう。じゃあ、私とさぁ、デートしない?」
「事件の関係者とデートは出来ませんね。実はこっそりプレゼントを隠し持っているなんてことは無いですよね?」
「無いわよー。じゃあさ、ご飯だけでもどう?」
青砥と瑠璃の会話を樹は冷めた目で聞いていた。と同時に、青砥にこんなにストレートに物事が言える瑠璃が爆弾を使いたいと思う程ストレスをためるものだろうかと疑問にも思っていた。
「どうして裏アカを作ってるんですか?」
「どうしてって、ストレス発散の為よ。文句や悪口は直接本人に言うべきだって人がよくいるじゃない? 陰で言うなって。でも私なら、私に気付かれないように陰で言ってて欲しい。直接言われたりしたら、メンタルが持たないもの」
「確かに俺も陰で言ってて欲しいかも……」
デショ、と頷き合う樹たちに青砥が「そうなんだ」と呟いた。
「俺は聞きたいかな。自分のどの行動が相手にどんな印象を与えたのか知りたいし、なんでそう思ったのか思考を知りたい」
「アオさんらしいっすね……」
「やっぱいいなー。益々気に入っちゃった」
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