【SF×BL】碧の世界線 

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第三章

4. 返却

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 霧島たちと合流して車に乗り込んでからも田口はご機嫌だった。ずっと追っていた時空マシーン製造の黒幕にようやく手が届いた、そう確信していた。

「政府の許可が下りていない発射台を持っているとなれば、これで公に研究所内の捜索が出来る。そうなればこっちのものだ」

「内部をこっそり撮っておいたので、そこにも何か写ってるといいんですけど」

「撮ってたか! さすが青砥、でかしたっ」

車は大きなビルの間を抜けセント中央捜査本部が目前に迫っていた。田口の機嫌のよさに引きずられて霧島もどこか浮足立っている。

「茜ちゃん、今夜一杯どぅ?」

「お、いいねぇ。熊さんのとこに暫く顔だしてないから、久しぶりにいくかっ。樹は行く?」

「熊さんのところになら俺も行こうかな」
「樹が行くならアオも行くわよね」

「なんで俺とアオさんをセットみたいにっ」
「しっ、ちょっと黙って」

唇の先に人差し指を当てて耳を澄ましている霧島を皆が不思議な面持ちで見つめた。

「捜査本部に神崎が来てる」

霧島の言葉で一気に皆の緊張感が高まった。田口は霧島の表情に答えを探すように鋭い眼差しを向けている。霧島の次の言葉を待って誰も言葉を発しなかった。

「墜落した車を届けに来たって言ってる」

「そんなっ、ついさっきの出来事なのに俺たちより早く!?」

「それが神崎の財力なんだろうよ。嫌な予感がする。急ごう」


 捜査本部に飛び込むように田口が登場したことで、そこにある視線が一斉に田口に注がれた。唯一人、神崎を覗いて。ちょうど入り口に背を向けるようにして立っていた神崎は、皆より1テンポ遅れてゆっくりと振り返った。それは自身に絶対的な自信を持っている人物の振舞だ。

「あぁ、うちの施設に墜落した方たちですね。お怪我はありませんでした?」

「それはご心配どうも。幸運なことに全員が無事ですよ。それで何の御用で?」

「墜落した車をお返ししようと思いましてね。こういうことは早いに越したことはないでしょう?」

神崎が口の端で笑い、それに応えるように田口はニヒルな笑みを浮かべた。

「そうでしたか。てっきり圧力でもかけに来たのかと思いましたよ」

「圧力!? とんでもない。でも……そうですね。弊社が人工衛星の打ち上げに携わっていることはもう少し秘密にして頂けると助かりますね。なんせ許可を得たばかりで、まだ株主にも公表していないことなので」

「許可だと!? そんなバカなっ」
「ついさっき許可が出ている企業をチェックしましたが、そこに神崎グループはありませんでしたよ!」

樹が一歩前に出て田口に並んだ。

「おや、それはおかしいですね。ひと月前には許可が下りているはずですが。何かのエラーで表示されなかったんですかね?」

「そんなはずは」

「確かに、今は載っていますね」

樹の声に被る様にして山口が発言し、樹は言葉を飲み込んだ。皆の視線は山口が表示した人工衛星研究許可一覧に注がれている。

「あぁ、今日ここに来て良かったですよ。でなければ無許可で発射台を持っていると誤解されて、皆様の手を煩わせることになるところでしたから。では、そろそろ私は他に用事がありますので」

神崎は捜査課の出入口で立ち止まると振り返って「車は屋上の駐車場に停めておきましたので」と微笑んだ。

 極秘会議室に入ると田口は悔しそうに「クソっ」と声を上げ、テーブルを叩いた。

「テーブルが壊れますよ」
「んぁ? 間壁、お前は悔しくないのかよ」

「悔しいですよ。ただ、ここで机を叩いても何もならないので」

田口は答える代わりに舌打ちをすると「ちくしょう」と唸り声をあげた。

「人工衛星研究許可を持っているならロケット台を持っていても何の不思議もない。それどころか、時空マシーン製造の機材は人工衛星の為だって誤魔化せちまう」

「黒幕が神崎じゃないという線は無いんですよね?」

「はっ、青砥がそんなこと言うとはね」
「ただあらゆる可能性を考えているだけなんで」

「それは無いんじゃないかしら。何も後ろめたいことが無かったらここまで来たりしないと思う」

山口に小暮が「そうだな」と言葉を返した。

「様子見とけん制ってとこか……何にしろこれで証拠がつかみにくくなったわけだ。都内で頻発していた爆弾事件もすっかり大人しくなったし、何か大きなことでも起きなきゃいいが……」

会議室に重い空気が立ち込めていた。

「如月、マスコミに情報を流せ。詳しい罪状は要らない。警察が動いているってことだけでいい。噂が流れれば世間の目は自然とそこへ向く。目はいくつあってもいいからな」


 神崎が捜査課に来てから2か月が過ぎた。その間、人工衛星研究許可証の線から探りを入れたが下端の役人が記載漏れをしたと始末書を提出、その先を調べようと試みたが政府筋からの圧力で捜査は行き止まりとなった。

「圧力をかけているのは誰なんですかっ!!」

樹が苛立たし気に声を荒げた。

「落ち着けよ、樹。その先を調べたところでトカゲのしっぽ切り状態で神崎には届かない」

「じゃあもう一度、今度は見つからないように侵入しましょうよっ」

青砥に食ってかかる樹を窘める様に小暮が二人の間に入った。

「おいおい、犯罪者になるつもりじゃないだろうな。神崎相手に侵入すれば捜査官ではいられないぞ」

「じゃあどうすりゃいいんですかっ」

「マスコミに情報を流したお陰で細かい情報が入ってきてるだろ。それを精査するしかない」

「あのガセばっかりの情報……。いくら調べても使える情報なんか出てこないじゃないですか! もっといい方法が他にあるんじゃないですかっ」

「んあ!?」

小暮の眉間に皺が寄ったのを見た如月が素早く樹の肩を抱いて、うろついていたロボットからとったお茶を樹に渡した。

「まぁまぁ、ほら、お茶でも飲んで」
「ソレハ キリシマサンノ オチャデス」
「ごめん、ごめん。また新しいの淹れて」

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