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11.高見のいない日々
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迷子だ。恋愛感情とか性欲とか、そこらへんが圧倒的に迷子だ。
高見とキスはしないと決めてからも、相変わらず休みの日になると高見は僕の家に来た。料理をして一緒にご飯を食べ、22時になると高見は帰る。付かず離れず、といった感じだ。僕が気になっているのは、キスはしないと決めているのにどこかソワソワしてしまうという事だ。
並んで食器を片付けている時や、ベッドに寄り掛かってテレビを観ている時、以前していたタイミングでしないということが不自然なことの様な気がしてしまう。
どういうこと? 俺、高見のキス中毒になった!?
男同士なのにと言い聞かせて、きっぱりさっぱり以前の自分に戻ろうとするも高見と会社で会い、自宅でも会うこの生活では高見を抜くことができない。そんな矢先、高見が二週間の出張を言い渡されたのは、僕が元の僕に戻るいい機会だと思った。
「羽山ぁ、今日はトーワさんの食品展示会だろ?」
「はい。午後には顔を出すつもりです」
「おう、森岡さんによろしく伝えてくれ。あと、これ、主催室に差し入れな」
「はい」
トーワ主催の食品展示会の開場に着くと真っ先にコネクトJの詰所に向かった。ドアを開けると当たり前だけど高見はおらず、「あ、羽山さん!」としっぽを振ったような池田が寄ってきた。
「主催にご挨拶ですか?」
「そ。どう? 調子は」
「仕事的には順調ですよ」
「仕事的には?」
池田は「高見さんがどんなに優しかったか思い知らされてます」と小声で言った。
優しいか……。そうなんだよな。高見ってすげぇ優しい。
振られた僕が落ち込んでいるのを知ってご飯に誘ってくれ、胃の調子が悪いからとご飯を手作りしてくれた。一緒にお酒が飲めるようにと時間があればご飯を作りに来てくれて、キスが下手かもしれないと嘆けばキスの練習まで……。
僕、どれだけ高見に甘えているんだろう。
仕事を終え家に帰る。高見が出張に行って10日目、いつもと変わらぬ一人の食事。
「納豆とか豆腐、卵、なんかご飯、飽きてきたな」
今までは高見が来る日があるからこそ、シンプルな食事でも我慢できたし、なんならちょっとやる気を出して鍋とか
八宝菜だって作る日もあった。でも、高見が二週間は来ないとなっただけで急に食事が面倒になったのだ。
「高見に会いたいな……。」
「えっ!?」
息を吐き出すように零れた言葉に驚いて声を上げて口を押えた。
僕、今、なんて言った!?
こんなんじゃまるで高見のことが好きみたいじゃないか。
いや、違う。そういうんじゃない。そういうんじゃ……。
必死に打ち消したものの僕が持った疑惑は胸の中にしこりのように残った。
高見が出張に行って12日目。
「良太君、何してるの? 一緒にご飯に行こうって約束、忘れてないよね?」
ちょくちょくお誘い頂いていたが毎回見事なくらい用事があって断っていた相手、亨さんからのエインだった。
「忘れてないですよ! 今日こそは大丈夫です!」
そんなエインを返信したのが昼過ぎ。18時に待ち合わせをして個室居酒屋に入った。
「で、なんで僕の隣に座るんですか?」
「そりゃあ隣に座りたいからだよ」
二か月半ぶりに会っても亨さんは亨さんでやっぱり良く分からない。良く分からない人の良く分からない行動について考えても、結局良く分からないだけだ。隣の席に座っていることは気にしないことにした。
「元気にしてました? 仕事の方は順調ですか?」
「ちぇ、直ぐに仕事の話かー」
亨さんはむぅーっと拗ねたような口調をしながらも「結構順調だよ」と言った。
「今ね、めぼしいミュージシャンを何組か見つけてきて、デビューの準備をしているところなんだ。それと同時にフリーで活動している動画配信ミュージシャンに声をかけて、より安定した高音質で配信できる音楽サービスも用意してる。他にもいくつかやってるけど、これ以上は秘密。とにかく楽しいよ」
「いろんなことを仕掛けているんですね。凄いです」
「うちの会社の強みは母体が小さいことだからね。小さければ動きやすくなる。これは父親の会社を見て学んだ。手足の末端まで俺はちゃんと見ていたいんだ」
「すごい。今まで抱いていた亨さんのイメージがガラッと変わりました」
「それってどういうイメージなの?」
「あー……怒らないですか?」
「怒らないよー」
「勢いで男にキスする変な人」
「ぷっ、く、あははははは。なにそれー。ひど過ぎて笑える」
「すみません……」
「俺、誰にでもキスはしないよ」
「そうなんですか?」
「うん。隠すのも面倒だからハッキリ言うけど、恋愛対象は同性なんだ」
その言葉を聞いて僕は思わず立ち上がっていた。驚いて亨さんの目が見開かれる。
「亨さん! 同性を好きになるってどんな感じですか?」
「は?」
「ちょっと、一回落ち着いて。座って、ほらほら」
「すみません、つい」
僕は自分が立ち上がっていたことに動揺しつつ、亨さんに頭を下げて腰を下ろした。
「どんなって。僕は同性しか好きにならないから良く分からないけど、気持ちの上では女性を好きになるのと何ら変わらないと思うよ。でも」
「でも?」
「俺らは子供を産めない。日本では同性婚は認められない。だいぶ理解してくれる人は多くなったけど、根強い偏見。前途多難だよ。異性を好きになれるのなら俺だってそうしたい」
「そうですか……」
「何? 同性でも好きになった?」
「そういうわけじゃないですけど」
「けど、がつくってことは少なくとも気になってる人はいるんだ?」
「う~ん……」
「悪いことは言わないから戻れるなら戻った方が良いよ。ってキスした僕が言うのもおかしいけど」
亨さんが、ふふっと笑う。
「簡単に戻れるなら戻ってます」
「へー」
亨さんがまた目を大きくした。
「ヤれるの?」
「やれる? 殺したいほど好きかどうか?」
「なわけないでしょ。ってか、こわっ、それ」
「ですよね。ははは」
「セックスできるかどうかってこと」
「セっ……んっ」
衝撃的な言葉を繰り返そうとしたところで亨さんに口を塞がれた。
「ここで大きな声で繰り返すのはやめようか」
「……ずみまぜん」
「男とヤれるか試してみる?」
高見とキスはしないと決めてからも、相変わらず休みの日になると高見は僕の家に来た。料理をして一緒にご飯を食べ、22時になると高見は帰る。付かず離れず、といった感じだ。僕が気になっているのは、キスはしないと決めているのにどこかソワソワしてしまうという事だ。
並んで食器を片付けている時や、ベッドに寄り掛かってテレビを観ている時、以前していたタイミングでしないということが不自然なことの様な気がしてしまう。
どういうこと? 俺、高見のキス中毒になった!?
男同士なのにと言い聞かせて、きっぱりさっぱり以前の自分に戻ろうとするも高見と会社で会い、自宅でも会うこの生活では高見を抜くことができない。そんな矢先、高見が二週間の出張を言い渡されたのは、僕が元の僕に戻るいい機会だと思った。
「羽山ぁ、今日はトーワさんの食品展示会だろ?」
「はい。午後には顔を出すつもりです」
「おう、森岡さんによろしく伝えてくれ。あと、これ、主催室に差し入れな」
「はい」
トーワ主催の食品展示会の開場に着くと真っ先にコネクトJの詰所に向かった。ドアを開けると当たり前だけど高見はおらず、「あ、羽山さん!」としっぽを振ったような池田が寄ってきた。
「主催にご挨拶ですか?」
「そ。どう? 調子は」
「仕事的には順調ですよ」
「仕事的には?」
池田は「高見さんがどんなに優しかったか思い知らされてます」と小声で言った。
優しいか……。そうなんだよな。高見ってすげぇ優しい。
振られた僕が落ち込んでいるのを知ってご飯に誘ってくれ、胃の調子が悪いからとご飯を手作りしてくれた。一緒にお酒が飲めるようにと時間があればご飯を作りに来てくれて、キスが下手かもしれないと嘆けばキスの練習まで……。
僕、どれだけ高見に甘えているんだろう。
仕事を終え家に帰る。高見が出張に行って10日目、いつもと変わらぬ一人の食事。
「納豆とか豆腐、卵、なんかご飯、飽きてきたな」
今までは高見が来る日があるからこそ、シンプルな食事でも我慢できたし、なんならちょっとやる気を出して鍋とか
八宝菜だって作る日もあった。でも、高見が二週間は来ないとなっただけで急に食事が面倒になったのだ。
「高見に会いたいな……。」
「えっ!?」
息を吐き出すように零れた言葉に驚いて声を上げて口を押えた。
僕、今、なんて言った!?
こんなんじゃまるで高見のことが好きみたいじゃないか。
いや、違う。そういうんじゃない。そういうんじゃ……。
必死に打ち消したものの僕が持った疑惑は胸の中にしこりのように残った。
高見が出張に行って12日目。
「良太君、何してるの? 一緒にご飯に行こうって約束、忘れてないよね?」
ちょくちょくお誘い頂いていたが毎回見事なくらい用事があって断っていた相手、亨さんからのエインだった。
「忘れてないですよ! 今日こそは大丈夫です!」
そんなエインを返信したのが昼過ぎ。18時に待ち合わせをして個室居酒屋に入った。
「で、なんで僕の隣に座るんですか?」
「そりゃあ隣に座りたいからだよ」
二か月半ぶりに会っても亨さんは亨さんでやっぱり良く分からない。良く分からない人の良く分からない行動について考えても、結局良く分からないだけだ。隣の席に座っていることは気にしないことにした。
「元気にしてました? 仕事の方は順調ですか?」
「ちぇ、直ぐに仕事の話かー」
亨さんはむぅーっと拗ねたような口調をしながらも「結構順調だよ」と言った。
「今ね、めぼしいミュージシャンを何組か見つけてきて、デビューの準備をしているところなんだ。それと同時にフリーで活動している動画配信ミュージシャンに声をかけて、より安定した高音質で配信できる音楽サービスも用意してる。他にもいくつかやってるけど、これ以上は秘密。とにかく楽しいよ」
「いろんなことを仕掛けているんですね。凄いです」
「うちの会社の強みは母体が小さいことだからね。小さければ動きやすくなる。これは父親の会社を見て学んだ。手足の末端まで俺はちゃんと見ていたいんだ」
「すごい。今まで抱いていた亨さんのイメージがガラッと変わりました」
「それってどういうイメージなの?」
「あー……怒らないですか?」
「怒らないよー」
「勢いで男にキスする変な人」
「ぷっ、く、あははははは。なにそれー。ひど過ぎて笑える」
「すみません……」
「俺、誰にでもキスはしないよ」
「そうなんですか?」
「うん。隠すのも面倒だからハッキリ言うけど、恋愛対象は同性なんだ」
その言葉を聞いて僕は思わず立ち上がっていた。驚いて亨さんの目が見開かれる。
「亨さん! 同性を好きになるってどんな感じですか?」
「は?」
「ちょっと、一回落ち着いて。座って、ほらほら」
「すみません、つい」
僕は自分が立ち上がっていたことに動揺しつつ、亨さんに頭を下げて腰を下ろした。
「どんなって。僕は同性しか好きにならないから良く分からないけど、気持ちの上では女性を好きになるのと何ら変わらないと思うよ。でも」
「でも?」
「俺らは子供を産めない。日本では同性婚は認められない。だいぶ理解してくれる人は多くなったけど、根強い偏見。前途多難だよ。異性を好きになれるのなら俺だってそうしたい」
「そうですか……」
「何? 同性でも好きになった?」
「そういうわけじゃないですけど」
「けど、がつくってことは少なくとも気になってる人はいるんだ?」
「う~ん……」
「悪いことは言わないから戻れるなら戻った方が良いよ。ってキスした僕が言うのもおかしいけど」
亨さんが、ふふっと笑う。
「簡単に戻れるなら戻ってます」
「へー」
亨さんがまた目を大きくした。
「ヤれるの?」
「やれる? 殺したいほど好きかどうか?」
「なわけないでしょ。ってか、こわっ、それ」
「ですよね。ははは」
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