【完結】スーツ男子の歩き方

SAI

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22. 言葉にしていない

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チロリン チロリン

メッセージを告げるエインの音が響いた。差出人は分かっている。高見だ。昨日旅行から帰宅すると、笑顔で皆に別れを告げ家に帰宅した。高見からは何度が着信とエインがあったが「僕は今怒っている。しばらく高見とは会いたくない」とだけ返信してそれ以降は放置のままだ。

自分は悪くない。会えばどうせセックスで誤魔化されてしまう。ならば距離を取って高見に頭を冷やしてほしい、そう思っているのにエインが鳴るたびに罪悪感のようなものが湧いてくる。

「あぁ、くそっ。なんか、もやっとする」

だから、そんな時に亨さんからの飲みのお誘いがあったのは、僕にとっては渡りに船といった心境だった。一瞬、亨さんと会わない様にと言っていた高見を思い出したが、この気持ちを打ち明けられる人は亨さんしか考えられなかった。



「やほー、良太元気だった?」
待ち合わせたのは以前一緒に飲んだ個室居酒屋だ。

「元気でしたよー。亨さんはその後、仕事の調子はどうですか?」

「ったく、いつも仕事の話からかなんだから。でも、まぁ、順調だよ。来年くらいには小さな音楽イベントを開催したいと思ってるんだ。うちみたいな小さい会社はいきなり大きなイベントは出来ないからね。小さなイベントを大きく育てていく。勿論、その時は良太にお願いするよ」

「本当ですか? うわ、嬉しいな。いや、僕に頼んでくれるのも嬉しいけど、亨さんが着実に前に進んでるのが一番嬉しいです」

「もう~、可愛いこというなぁ」
亨さんの手が僕の頭に伸びて、よしよしと頭を撫でる。頭を撫でられながら、僕はハッとした。

「亨さん、あの、二回目のレッスンのことなんですけど」
「ん? どうする? 今日する?」

ノリノリの亨さんの笑顔に少し後ろめたさを感じつつ、僕ははっきりと口にした。

「その約束、ナシにしてください!!」
ペコっと頭を下げて亨さんの言葉を待ったが何も聞こえてこず、ゆっくりと顔を上げるとぐったりと壁に体を預けている亨さんの姿が目に入った。

「と……亨さん?」

「……楽しみにしてたのに。良太にあんなことやこんなことをして、あんあん言わせて、とろとろにして、ねちょねちょにして……」

「あ……あの、亨さん?おぉーい」
「男か……。あの時話していた男と上手くいってしまったか!」

突然、般若の表情になった亨さんに驚いたが、それよりも上手くいったという言葉がひっかかってしゅわしゅわと心がしぼんだ。

「亨さん、とおるさぁー~ん。相談があるんです。聞いて下さいよ」
「えぇ~、どうせその男とのことだろう?」

亨さんは最初は嫌がったが、ふと何か思いついたような顔をして笑顔になった。

「わかった、やっぱり聞いてあげる」
僕は付き合っている相手が会えばセックスばかりだという話をした。

「セックスなしで過ごそうと伝えても、必ず、そういう風になってしまって。そういうことをするのが嫌なわけじゃないんです。でも、毎回そういうのだと……ちょっと、なんか引っかかるというか。男性同士ってそういうものなんですか?」

「……この間まで男同士のやり方を知らなかった人のものとは思えない悩みだね……あぁ……」
亨さんは額に手を当ててうっすらと目を閉じ、ゆっくりと目を開けた。

「そうだなぁ。異性と付き合ってる時よりかはセックスの回数は多いかもね。そもそも、男と女とじゃ性欲の強さも違うし。でも、男でも性欲があまりない人もいるわけで、そう考えると人それぞれとしか言いようがないなぁ」

「人それぞれ……確かにそうですよね」
人それぞれと言われてしまってはなんだかもうお手上げのような気がして、グラスのお酒をちびりと飲んだ。

「……不安なんじゃん?」
「え?」

ポツリと亨さんが漏らした言葉に僕は亨さんの顔を見た。

「単純に性欲の場合もあるけど、もし、そうじゃないんだとしたら不安なんじゃないかな」
亨さんが箸でレモンを弄びながら言葉を続けた。

「体を繋げるのって手っ取り早く相手に近づく方法じゃん。心って掴みようがないから、体っていう目に見えるもので繋がって近づいて、そういうことで安心する部分ってあるんだよ」

「そうなんですか……」
「ん。心が繋がってないと、他の部分だけでも繋げたくなる。寂しいから」
「心が繋がってないと……か」

僕と高見は繋がっていないのだろうか。エインの数が多いのも、着信回数が多いのも、あんなにセックスをしようとするのも不安だから?

「ちゃんと好きだって言ってる?言葉にして態度に出して伝えてる?」
「そりゃ勿論……ん?あ、言ってない」

「は?」
「僕、今まで一度も好きだって言ってない」
僕は動揺して立ち上がった。

「え? でも付き合ってるんだよね?付き合う時に一度くらい言ったんじゃないの?」

僕はあまりのことに口元を抑えた。
亨さんにつけられたキスマークに逆上して高見に抱かれた日。

「俺と付き合うって約束してくれたら今日はやめてもいいですよ」
「俺のモノになって誰にも触らせないって約束できるなら、今日はやめてもいい」

そう言われて、高見と付き合うと言った。その後のどの記憶を呼び起こしてみても、一度も好きだと言っていない。もともと、あんなことになる前に僕の中には高見を想う気持ちがあった。だからこそ、高見の思いを受け入れたのに。

これでは脅されて付き合ったも同然だ。

「亨さん、すみません。僕帰ります」
「え?」
「ちゃんと伝えないといけない。あ、あのお代はこれで」

僕は一万円札をテーブルに置くと頭を下げて店を出た。駅までの道を走りながら高見に電話する。1コール、鳴ったか鳴らないかくらいで高見が出た。

「羽山さん!? あの……俺」
「今どこ?」
「え?」
「今どこにいるの?」

「轟ホールです。あと1時間くらいで終わるんですけど」
「わかった。今から行く」
「いや、でも」
「いいから。そっち行く」
「……分かりました」

こんな時間に現場を訪ねるなんて迷惑だろうか、と頭をよぎる。それでも、もし、脅されて付き合っているのだと高見が思っているのだとしたら、その誤解は一刻も早く解くべきだと思った。

僕、本当に馬鹿だ。

高見はあれほどまでに僕への想いを言葉で、行動で伝えてくれていたというのに。

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