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サイドストーリー
カイの場合 4
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ヒデさんとはエインではなくもっぱらメールでやりとりしている。エインだと既読したか分かる機能があって便利だと思う反面、読んだのに返信がないと妙にヤキモキしたり、読んだらすぐに返信しなきゃいけないような気持になるから、既読が分からないメールでのやり取りは案外気に入っていたりする。
【明日休みだけどどっか行く?】
【行く】
【じゃあ今度はカイの好きなところに連れてって】
【アウトドアだけどいいですか?】
【いいよ】
【じゃあ14時くらいに迎えに行くんで住所送ってください。それと動きやすい服装でお願いします。本持ってきてもいいですよ】
メールを送り終えて直ぐに準備に取り掛かった。準備と言ってももともと明日はでかけるつもりだったから、一人分だった荷物を二人分に増やすだけだ。ヒデさんも気に入ってくれるといいなぁ。
翌日は天気予報通り快晴だった。車で迎えに行くと車で来たのが意外だったらしく、ヒデさんは驚きを隠さなかった。
「車、持ってるんだ?」
「いえ、カーシェアリングってやつです。俺、車でふらっと出かけるのも好きなんで。どうぞ、乗って下さい」
「あ、うん」
ヒデさんが隣に乗ってる。お店の時とはまるで違う狭い車内に二人きり。
なんか緊張する……。
「あの、もしなんなら寝ててもいいですよ。一時間くらい車走らせるんで」
「やだ」
「え?」
「ぷっ、もしかして緊張してる?せっかく二人で出かけてるのに寝るわけないじゃん」
「そ、そうですね。はは」
「で、どこ行くの?」
「山に行こうと思ってます」
「山?」
「ハイキングってわけじゃないけど、山の中でのんびりするのって好きなんですよね。歩くのもいいし、寝転がるのもいいし。結構、定期的に行くんですよ」
「へぇー、一人で?」
「一人が多いですかね。友達と行くとゆっくりするというよりは騒ぐ感じになるんで楽しいのは楽しいんですけど、疲れるんですよねー」
「意外。カイはいつも友達とキャッキャワイワイして過ごしてるのかと思ってた」
「キャッキャワイワイって」
「店に来てるときはそうでしょ」
「……確かにそうかも」
山に着いた。ヒデさんは車から降りるとググっと体を伸ばして深呼吸をした。
「ふぅ、こんな自然の中に来るのは久しぶりだ」
「少し歩きませんか? 向こうに川があるんですよ」
木の葉の間から太陽の光が注ぎ、風が葉を揺らしてカサカサっとした音が鳴る。鳥の鳴き声が聴こえ、僕らの足音が聴こえ、森全体が歌っているみたいだ。
気持ちいい・・・。大きく息を吸えば心まで満たされていくかのようだ。
「あ、すみません。俺、歩くの速かったですか?」
やべぇ、自分の世界に入ってた。
「いや、大丈夫だけど、手は繋いでくれないのかなって」
「あっ……。どうぞ」
勢いに任せて手を伸ばすと、その手にヒデさんの手が乗る。
「ぷ、くくくく。どうも」
「ヒデさん、俺のことからかって面白がってますよね」
「からかってはないよ。手を繋ぎたいなと思ったから言っただけで」
「えっ?」
「面白がってはいるけど」
「やっぱり面白がってるんじゃないですか!」
「くくくく、あ、見て。川だ」
ヒデさんが走り出すから引っ張られて俺も走る。
「ちょっと危ないっすよ」
そのままぐいぐい俺を引っ張って川岸にしゃがむと水に手を入れた。
「冷たくて気持ちいい。ほら、カイも触ってみなよ」
ヒデさんはそう言うと繋いでいる手を川に入れた。
「冷たっ。ちょっと、急に何するんですか!」
「でも気持ちいいだろ?」
ヒデさんが二ッと悪戯が成功した子供の様に笑って、それから目を細めてまた笑った。きつく繋いだ手の間だけが温かい。こんなにたくさん笑うヒデさんを初めて見た。
ここに連れてきて正解だったな。
陽が沈み始めた頃、車に戻ってくると俺は折り畳みテーブルと椅子を並べた。車のスライド式のドアを開けて、上の部分に吊り下げ式のランタンをかける。
「ご飯作るんで、座って待っててください。本、読んでてもいいですよ」
「なろほど。だから本持ってきていいって言ったのか」
「退屈になるかなと思って」
「気にしてくれてありがとう。俺、休みは大抵引きこもってるから出掛けるのって結構疲れると思ってたんだけど、こんな出掛け方もあるんだな。ちゃんと時間がゆっくり感じられる」
「ふふ、心の充電っていうやつですよ」
俺は手早く火を起こすと、飯盒でお米を炊き、カレーを作り始めた。カレーを作ると言っても材料は家で切ってから持ってきているので煮込むだけだ。カレーが出来上がると、お湯を沸かしてレトルトのスープを温め、アスパラやブロッコリーを焼いて塩をかけた。料理を作りながら何度かヒデさんを見たが、ヒデさんは本を読んだり、周りを眺めたりしていてそれなりに楽しんでいるように思えた。
「いい匂いがする」
「もう出来上がりますよ」
テーブルの上にカレーライスと焼き野菜、レトルトのコンソメスープを並べる。
「すごい、外でこんなにちゃんとしたものが食べられるなんて」
簡単料理なのにちゃんとしたもの、なんて言われると恐縮する。
「焼いて煮ただけですけどね。味付けなんて塩コショウだけで、あとはカレールーにお任せだし。冷めないうちに食べましょ」
「いただきます」
ヒデさんがカレーを口に運ぶのを恐る恐る見守る。さっき味見はして、まずくはなかったけど口に合うだろうか。
「あ、味もちゃんとしてる」
「ちゃんとしてるって何ですか~。もう~」
「嘘、うそ。美味しいよ。こんな風に外で食べたことなんてなかったから、格別に美味しい。料理してるカイもカッコ良かったよ」
なっ……。
「そういう不意打ち、やめてもらえます?」
「ふふふふ、カイはさ、同じことしなくても平気なんだね」
「同じこと?」
「ん、さっきの場合でいうと、俺が一緒に料理しなくてもってこと」
「あー、俺、そういうのはあんまり気にならないんですよね。好きなことって人それぞれじゃないですか。同じ事がしたければすればいいし、したくなかったらしなきゃいい。同じ空間で楽しく過ごせるのが嬉しいんですよ」
「それ、すごくいいね」
「お、ヒデさんポイントゲットですか?」
「なんだよ、それ」
食べ終わった皿を水でサッと流して汚れを落としてから片付ける。そうしている間にお湯を沸かして、食後のコーヒータイムにした。
「こういうところで見る星って凄く近くに見えると思いません?」
「本当だ。いつもよりはっきり見える」
「でしょ。ここは明るくないから光が良く見えるんですよね。こういう景色、ヒデさんと一緒に見たかったんだ、うわぁっ!」
星空がきれいすぎて椅子の上で思いっきり体を反らしたものだからバランスを崩してひっくり返ってしまった。
「大丈夫!?」
ヒデさんが俺の顔を覗きこむ。森と星空とヒデさん。吸い込まれるようにヒデさんの首の後ろに手を回した。
「大丈夫……です」
言葉を発しながら顔を近づけ、言葉が終わった瞬間に唇を合わせる。合わせたら止まらなくなって体を入れ替えて唇を貪った。香るコーヒーの匂いに理性が麻痺していく。
【明日休みだけどどっか行く?】
【行く】
【じゃあ今度はカイの好きなところに連れてって】
【アウトドアだけどいいですか?】
【いいよ】
【じゃあ14時くらいに迎えに行くんで住所送ってください。それと動きやすい服装でお願いします。本持ってきてもいいですよ】
メールを送り終えて直ぐに準備に取り掛かった。準備と言ってももともと明日はでかけるつもりだったから、一人分だった荷物を二人分に増やすだけだ。ヒデさんも気に入ってくれるといいなぁ。
翌日は天気予報通り快晴だった。車で迎えに行くと車で来たのが意外だったらしく、ヒデさんは驚きを隠さなかった。
「車、持ってるんだ?」
「いえ、カーシェアリングってやつです。俺、車でふらっと出かけるのも好きなんで。どうぞ、乗って下さい」
「あ、うん」
ヒデさんが隣に乗ってる。お店の時とはまるで違う狭い車内に二人きり。
なんか緊張する……。
「あの、もしなんなら寝ててもいいですよ。一時間くらい車走らせるんで」
「やだ」
「え?」
「ぷっ、もしかして緊張してる?せっかく二人で出かけてるのに寝るわけないじゃん」
「そ、そうですね。はは」
「で、どこ行くの?」
「山に行こうと思ってます」
「山?」
「ハイキングってわけじゃないけど、山の中でのんびりするのって好きなんですよね。歩くのもいいし、寝転がるのもいいし。結構、定期的に行くんですよ」
「へぇー、一人で?」
「一人が多いですかね。友達と行くとゆっくりするというよりは騒ぐ感じになるんで楽しいのは楽しいんですけど、疲れるんですよねー」
「意外。カイはいつも友達とキャッキャワイワイして過ごしてるのかと思ってた」
「キャッキャワイワイって」
「店に来てるときはそうでしょ」
「……確かにそうかも」
山に着いた。ヒデさんは車から降りるとググっと体を伸ばして深呼吸をした。
「ふぅ、こんな自然の中に来るのは久しぶりだ」
「少し歩きませんか? 向こうに川があるんですよ」
木の葉の間から太陽の光が注ぎ、風が葉を揺らしてカサカサっとした音が鳴る。鳥の鳴き声が聴こえ、僕らの足音が聴こえ、森全体が歌っているみたいだ。
気持ちいい・・・。大きく息を吸えば心まで満たされていくかのようだ。
「あ、すみません。俺、歩くの速かったですか?」
やべぇ、自分の世界に入ってた。
「いや、大丈夫だけど、手は繋いでくれないのかなって」
「あっ……。どうぞ」
勢いに任せて手を伸ばすと、その手にヒデさんの手が乗る。
「ぷ、くくくく。どうも」
「ヒデさん、俺のことからかって面白がってますよね」
「からかってはないよ。手を繋ぎたいなと思ったから言っただけで」
「えっ?」
「面白がってはいるけど」
「やっぱり面白がってるんじゃないですか!」
「くくくく、あ、見て。川だ」
ヒデさんが走り出すから引っ張られて俺も走る。
「ちょっと危ないっすよ」
そのままぐいぐい俺を引っ張って川岸にしゃがむと水に手を入れた。
「冷たくて気持ちいい。ほら、カイも触ってみなよ」
ヒデさんはそう言うと繋いでいる手を川に入れた。
「冷たっ。ちょっと、急に何するんですか!」
「でも気持ちいいだろ?」
ヒデさんが二ッと悪戯が成功した子供の様に笑って、それから目を細めてまた笑った。きつく繋いだ手の間だけが温かい。こんなにたくさん笑うヒデさんを初めて見た。
ここに連れてきて正解だったな。
陽が沈み始めた頃、車に戻ってくると俺は折り畳みテーブルと椅子を並べた。車のスライド式のドアを開けて、上の部分に吊り下げ式のランタンをかける。
「ご飯作るんで、座って待っててください。本、読んでてもいいですよ」
「なろほど。だから本持ってきていいって言ったのか」
「退屈になるかなと思って」
「気にしてくれてありがとう。俺、休みは大抵引きこもってるから出掛けるのって結構疲れると思ってたんだけど、こんな出掛け方もあるんだな。ちゃんと時間がゆっくり感じられる」
「ふふ、心の充電っていうやつですよ」
俺は手早く火を起こすと、飯盒でお米を炊き、カレーを作り始めた。カレーを作ると言っても材料は家で切ってから持ってきているので煮込むだけだ。カレーが出来上がると、お湯を沸かしてレトルトのスープを温め、アスパラやブロッコリーを焼いて塩をかけた。料理を作りながら何度かヒデさんを見たが、ヒデさんは本を読んだり、周りを眺めたりしていてそれなりに楽しんでいるように思えた。
「いい匂いがする」
「もう出来上がりますよ」
テーブルの上にカレーライスと焼き野菜、レトルトのコンソメスープを並べる。
「すごい、外でこんなにちゃんとしたものが食べられるなんて」
簡単料理なのにちゃんとしたもの、なんて言われると恐縮する。
「焼いて煮ただけですけどね。味付けなんて塩コショウだけで、あとはカレールーにお任せだし。冷めないうちに食べましょ」
「いただきます」
ヒデさんがカレーを口に運ぶのを恐る恐る見守る。さっき味見はして、まずくはなかったけど口に合うだろうか。
「あ、味もちゃんとしてる」
「ちゃんとしてるって何ですか~。もう~」
「嘘、うそ。美味しいよ。こんな風に外で食べたことなんてなかったから、格別に美味しい。料理してるカイもカッコ良かったよ」
なっ……。
「そういう不意打ち、やめてもらえます?」
「ふふふふ、カイはさ、同じことしなくても平気なんだね」
「同じこと?」
「ん、さっきの場合でいうと、俺が一緒に料理しなくてもってこと」
「あー、俺、そういうのはあんまり気にならないんですよね。好きなことって人それぞれじゃないですか。同じ事がしたければすればいいし、したくなかったらしなきゃいい。同じ空間で楽しく過ごせるのが嬉しいんですよ」
「それ、すごくいいね」
「お、ヒデさんポイントゲットですか?」
「なんだよ、それ」
食べ終わった皿を水でサッと流して汚れを落としてから片付ける。そうしている間にお湯を沸かして、食後のコーヒータイムにした。
「こういうところで見る星って凄く近くに見えると思いません?」
「本当だ。いつもよりはっきり見える」
「でしょ。ここは明るくないから光が良く見えるんですよね。こういう景色、ヒデさんと一緒に見たかったんだ、うわぁっ!」
星空がきれいすぎて椅子の上で思いっきり体を反らしたものだからバランスを崩してひっくり返ってしまった。
「大丈夫!?」
ヒデさんが俺の顔を覗きこむ。森と星空とヒデさん。吸い込まれるようにヒデさんの首の後ろに手を回した。
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