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サイドストーリー2
亨の場合 1
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「んあー、久しぶりにグッと来たのになー。可愛かったし感じやすそうだったし」
深い所を突いて鳴かせたら、どんなにそそる表情をくれただろう。ノンケからこっちの道に足を踏み入れたばかりの純な体……。
「あぁー、良太―っ」
ちょっと大きな声を出して机に突っ伏したところでノックと同時に部屋のドアが開いた。
「社長、来客です」
「美沙ちゃん、今、僕が返事をする前にドアを開けたよね?」
「良太―っていう叫び声が聞こえたので取り込み中ではないなと思いまして」
美沙ちゃんは僕の会社である「GAKU」の秘書兼事務だ。本当に良く仕事ができるのだがしっかりし過ぎるというか隙が無いというかで、僕の扱いはいつもこんな感じだ。
美沙ちゃん曰く、「社長のことは嫌いじゃないけど、チャラっとしている社長には時々イラっとするんですよね」だそうだ。
「ジャパン・ミュージック・カンパニーの長野さんがお見えになっていますがお通ししても宜しいですか?」
「長野か……こ、断るわけには」
「いかないでしょうね」
美沙ちゃんがニコリと微笑んだ。
長野は父の会社であるJMCの社長秘書の一人だ。僕より2歳年上の28歳で、幼馴染だったりする。小さい頃から優秀で僕の家庭教師をしていたこともある人物だ。
長い付き合いではあるもののクールで掴みどころのない長野が僕はずっと苦手だった。
「亨さん、失礼します」
「今日は何の用?」
「こちらで私を雇って頂けないかと思いまして」
「は? JMCは?」
「辞めてきました」
「え……どういうこと? ってか親父は何て言ってんの?」
「亨さんのところで働きたいと正直に伝えましたら快く了承して下さいました」
175センチの身長、耳が半分隠れるくらいの長さでセットされた黒髪に、あっさりとした塩顔のイケメン、ちょっと冷たい印象を与えるクールな表情は昔から変わらない。そういえばいつから眼鏡をかけるようになったのだろう。
「げ、いや、うちの会社で長野を雇う余裕はないよ。見ての通り小さい会社で人は足りているし、給料だってJMCとは比べ物にならないくらいだよ。悪いことは言わないからさ、戻りなよ」
長野は表情を崩さずに僕を見ている。きっと僕が断ることは想定済に違いない。
「給料は今までと同じ額を貰おうだなんて思っていません。貯金もあるし、心配して頂かなくても大丈夫です。人手の問題は」
「それなんですけど。あ、お話し中すみません」
普段は黙って聞いているだけの美沙ちゃんが口をはさんだ時、僕は確かに嫌な予感がした。
「人手の問題なんですけど、私、最近悪阻が始まって早めにお休みを頂きたいと思っていたんですよね。長野さんが来て下さるなら私は会社の心配をせずにお休みを頂くことが出来るのですが」
「えぇっ、美沙ちゃん妊娠してたの?」
「はい。安定期に入ってから報告しようと思っていたのですが悪阻が酷くなりそうな感じなので」
「社長、人手の問題も解決したみたいですけど」
長野の優秀さは良く分かっている。第一、優秀でなければ親父は自分の秘書にしたりはしない。こうなってしまえば断る理由は無かった。
「わかった。明日から出社して美沙ちゃんから仕事を引き継いで」
「承知いたしました」
長野が嬉しそうに笑ったのを僕は意外な気持ちで見ていた。
長野が出社するようになって一週間、思っていたよりずっと仕事は順調だ。むしろやりやすいとさえ言える。
「社長、そろそろお昼にいかないと。本日は13時半から佐倉さんとの面談がありますから」
「あー、そうだった。スターフィッシュの今後について話をしようと思ってたんだ」
「お昼は何か出前取りますか? 食べに行きますか?」
「ん~コンビニにする」
たまごサンドとコールスローと、デザートだな。甘いやつ。僕がコンビニのメニューの中から好きなものを思い浮かべていると長野が口を開いた。
「たまごサンドとコールスローサラダとスイーツで宜しければ買ってきましょうか?」
「……何で僕の食いたいものが分かるんだよ」
「秘密です」
「そういえば今日の夕方ってTYテレビ局の渡辺さんと打ち合わせ入ってたよね?」
「えぇ、16時からの予定ですが」
「渡辺さんって綾夢って店の羊羹が好きなんだよね。食事終わってからでいいから買ってきてくれない?」
「もう買ってきてあります」
「いつの間に……」
「朝に少し時間がありましたので。18時に会食を予定されている川谷様にも何かご用意しますか?」
「あ、今日は川谷さんの日か。川谷さんにはいいや。要らない」
そっけなく言って僕は机に頭をコツンと乗せた。あのセクハラ親父に今日も耐えなきゃならないのか……。
13時になると佐倉が社長室にやってきた。
「最近、スターフィッシュの調子はどう?」
「いいよ。雑誌の取材も定期的に入ってきてるし、ファンクラブの館員数もライブの動員数も増えてる。まさに上り調子だね」
佐倉には二人だけで話すときは敬語はやめるように言ってある。大学の同期で学生時代はずっとタメ口だった佐倉に敬語を使われるのは落ち着かないからだ。
「そうか……。じゃあ、そろそろいいかな。スターフィッシュには今後海外で実績を積んで欲しいんだ。海外ツアー、海外の音楽フェスへの参加を積極的に行う。そうすることでスターフィッシュの名前と共にGAKUの名前を海外にも広めたい」
「なるほどな、お前の夢であるフェスの為か」
「そ、海外のアーティストを呼べるくらいの会社になりたいからね」
「ちょっと待てよ。スターフィッシュの海外での活動が増えるとなったら俺は……」
「いずれは向こうのどっかの音楽会社と繋がりを作りたいけど、最初は佐倉が頑張るしかないかなー。俺は長期で日本を離れるわけにはいかないし」
「ちょ、ちょっと待てよ。俺のプライベートはっ」
「あー、高橋だろ。絵なんてどこでも描けるだろうし連れてけばいいじゃん」
高橋というのは佐倉の彼氏で画家だ。彼氏……そう、佐倉もゲイなのだ。いや、バイだったか……。
会社を作ろうと思った時、真っ先に佐倉の顔が浮かんだ。父親が有名なピアニストというのも魅力的だったし、学生時代に佐倉が手掛けたアートと音楽の融合ライブは嫉妬するくらい素晴らしいものだった。
出演者も全員、佐倉が面接をして決めたという。
才能を見抜く力、プロデュース力、一つの舞台としてまとめ上げる力。大手の会社とは違い小さな会社は一人で何役をもこなす。オールマイティに動く佐倉の能力はうちの会社に必要だ。
それに……。
人を雇う上で重要視したことはゲイに対して偏見がないこと。社会人になった今、ゲイであることを隠すつもりは無いし、自分の会社でそんなことで躓きたくもない。男の恋人がいる佐倉はそういう意味でもありがたい存在なのだ。
「そう簡単に言うなよ。あいつ、変なとこに拘り強いし結構大変なんだよ。変化とか好きじゃないしさー」
「ふんっ、惚気は他でやってくれ」
「なんだよ、機嫌悪いなぁ。さては、振られたな」
「うっ……」
「どーせ遊びか本気か分からないような口説き方して、ふわふわしてるうちに横から攫われたんだろ?」
コイツ……。付き合いが長いと言動が確信を突いてくるから嫌だ。
「怖がってないでドーンと好きになるか、愛されるかしたらいいのに。どっちにも覚悟が必要だけどな」
僕は眉毛をヒクつかせたまま「佐倉君、ここは会社で今はお仕事をしているんだけど」と言った。
深い所を突いて鳴かせたら、どんなにそそる表情をくれただろう。ノンケからこっちの道に足を踏み入れたばかりの純な体……。
「あぁー、良太―っ」
ちょっと大きな声を出して机に突っ伏したところでノックと同時に部屋のドアが開いた。
「社長、来客です」
「美沙ちゃん、今、僕が返事をする前にドアを開けたよね?」
「良太―っていう叫び声が聞こえたので取り込み中ではないなと思いまして」
美沙ちゃんは僕の会社である「GAKU」の秘書兼事務だ。本当に良く仕事ができるのだがしっかりし過ぎるというか隙が無いというかで、僕の扱いはいつもこんな感じだ。
美沙ちゃん曰く、「社長のことは嫌いじゃないけど、チャラっとしている社長には時々イラっとするんですよね」だそうだ。
「ジャパン・ミュージック・カンパニーの長野さんがお見えになっていますがお通ししても宜しいですか?」
「長野か……こ、断るわけには」
「いかないでしょうね」
美沙ちゃんがニコリと微笑んだ。
長野は父の会社であるJMCの社長秘書の一人だ。僕より2歳年上の28歳で、幼馴染だったりする。小さい頃から優秀で僕の家庭教師をしていたこともある人物だ。
長い付き合いではあるもののクールで掴みどころのない長野が僕はずっと苦手だった。
「亨さん、失礼します」
「今日は何の用?」
「こちらで私を雇って頂けないかと思いまして」
「は? JMCは?」
「辞めてきました」
「え……どういうこと? ってか親父は何て言ってんの?」
「亨さんのところで働きたいと正直に伝えましたら快く了承して下さいました」
175センチの身長、耳が半分隠れるくらいの長さでセットされた黒髪に、あっさりとした塩顔のイケメン、ちょっと冷たい印象を与えるクールな表情は昔から変わらない。そういえばいつから眼鏡をかけるようになったのだろう。
「げ、いや、うちの会社で長野を雇う余裕はないよ。見ての通り小さい会社で人は足りているし、給料だってJMCとは比べ物にならないくらいだよ。悪いことは言わないからさ、戻りなよ」
長野は表情を崩さずに僕を見ている。きっと僕が断ることは想定済に違いない。
「給料は今までと同じ額を貰おうだなんて思っていません。貯金もあるし、心配して頂かなくても大丈夫です。人手の問題は」
「それなんですけど。あ、お話し中すみません」
普段は黙って聞いているだけの美沙ちゃんが口をはさんだ時、僕は確かに嫌な予感がした。
「人手の問題なんですけど、私、最近悪阻が始まって早めにお休みを頂きたいと思っていたんですよね。長野さんが来て下さるなら私は会社の心配をせずにお休みを頂くことが出来るのですが」
「えぇっ、美沙ちゃん妊娠してたの?」
「はい。安定期に入ってから報告しようと思っていたのですが悪阻が酷くなりそうな感じなので」
「社長、人手の問題も解決したみたいですけど」
長野の優秀さは良く分かっている。第一、優秀でなければ親父は自分の秘書にしたりはしない。こうなってしまえば断る理由は無かった。
「わかった。明日から出社して美沙ちゃんから仕事を引き継いで」
「承知いたしました」
長野が嬉しそうに笑ったのを僕は意外な気持ちで見ていた。
長野が出社するようになって一週間、思っていたよりずっと仕事は順調だ。むしろやりやすいとさえ言える。
「社長、そろそろお昼にいかないと。本日は13時半から佐倉さんとの面談がありますから」
「あー、そうだった。スターフィッシュの今後について話をしようと思ってたんだ」
「お昼は何か出前取りますか? 食べに行きますか?」
「ん~コンビニにする」
たまごサンドとコールスローと、デザートだな。甘いやつ。僕がコンビニのメニューの中から好きなものを思い浮かべていると長野が口を開いた。
「たまごサンドとコールスローサラダとスイーツで宜しければ買ってきましょうか?」
「……何で僕の食いたいものが分かるんだよ」
「秘密です」
「そういえば今日の夕方ってTYテレビ局の渡辺さんと打ち合わせ入ってたよね?」
「えぇ、16時からの予定ですが」
「渡辺さんって綾夢って店の羊羹が好きなんだよね。食事終わってからでいいから買ってきてくれない?」
「もう買ってきてあります」
「いつの間に……」
「朝に少し時間がありましたので。18時に会食を予定されている川谷様にも何かご用意しますか?」
「あ、今日は川谷さんの日か。川谷さんにはいいや。要らない」
そっけなく言って僕は机に頭をコツンと乗せた。あのセクハラ親父に今日も耐えなきゃならないのか……。
13時になると佐倉が社長室にやってきた。
「最近、スターフィッシュの調子はどう?」
「いいよ。雑誌の取材も定期的に入ってきてるし、ファンクラブの館員数もライブの動員数も増えてる。まさに上り調子だね」
佐倉には二人だけで話すときは敬語はやめるように言ってある。大学の同期で学生時代はずっとタメ口だった佐倉に敬語を使われるのは落ち着かないからだ。
「そうか……。じゃあ、そろそろいいかな。スターフィッシュには今後海外で実績を積んで欲しいんだ。海外ツアー、海外の音楽フェスへの参加を積極的に行う。そうすることでスターフィッシュの名前と共にGAKUの名前を海外にも広めたい」
「なるほどな、お前の夢であるフェスの為か」
「そ、海外のアーティストを呼べるくらいの会社になりたいからね」
「ちょっと待てよ。スターフィッシュの海外での活動が増えるとなったら俺は……」
「いずれは向こうのどっかの音楽会社と繋がりを作りたいけど、最初は佐倉が頑張るしかないかなー。俺は長期で日本を離れるわけにはいかないし」
「ちょ、ちょっと待てよ。俺のプライベートはっ」
「あー、高橋だろ。絵なんてどこでも描けるだろうし連れてけばいいじゃん」
高橋というのは佐倉の彼氏で画家だ。彼氏……そう、佐倉もゲイなのだ。いや、バイだったか……。
会社を作ろうと思った時、真っ先に佐倉の顔が浮かんだ。父親が有名なピアニストというのも魅力的だったし、学生時代に佐倉が手掛けたアートと音楽の融合ライブは嫉妬するくらい素晴らしいものだった。
出演者も全員、佐倉が面接をして決めたという。
才能を見抜く力、プロデュース力、一つの舞台としてまとめ上げる力。大手の会社とは違い小さな会社は一人で何役をもこなす。オールマイティに動く佐倉の能力はうちの会社に必要だ。
それに……。
人を雇う上で重要視したことはゲイに対して偏見がないこと。社会人になった今、ゲイであることを隠すつもりは無いし、自分の会社でそんなことで躓きたくもない。男の恋人がいる佐倉はそういう意味でもありがたい存在なのだ。
「そう簡単に言うなよ。あいつ、変なとこに拘り強いし結構大変なんだよ。変化とか好きじゃないしさー」
「ふんっ、惚気は他でやってくれ」
「なんだよ、機嫌悪いなぁ。さては、振られたな」
「うっ……」
「どーせ遊びか本気か分からないような口説き方して、ふわふわしてるうちに横から攫われたんだろ?」
コイツ……。付き合いが長いと言動が確信を突いてくるから嫌だ。
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