【完結】スーツ男子の歩き方

SAI

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サイドストーリー2

亨の場合 2

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 16時からのTYテレビ局の渡辺さんの打ち合わせは最近の業界の情報をこっそり仕入れつつもしっかりとスターフィッシュの音源を渡してきた。

メールで送るという方法もあるが手渡しが一番良い。手渡ししてくれた方が聞いてくれる確率が上がるからだ。

「うちの会社で一番勢いがあるミュージシャンなんですよ。彼らの音楽はいいですよ」

「みんなそう言うんだよねぇ~」

渡辺さんが退屈そうにふう、と息を吐く。

「ピアニストの佐倉修一の息子が見つけて、僕が認めたバンドですよ。気になりませんか?」

一瞬渡辺さんの目が見開いて、おかしそうに笑った。

「いいね、そういうの。そういう揺さぶり方は好きだよ、俺」

僕はほほ笑んだ。よかった、きっとこれで聴いてもらえる。聴いてもらえなきゃ何も始まらない。

僕は親の力だろうが佐倉の親の力だろうがしっかりと利用する。勿論、何にでもというわけではない。だけど、今の僕にはまだ信用が足りないからこうやって底上げして支えて貰う、これがいずれ自分の力になる様に。

「さて、僕はそろそろこれで。渡辺さん、また会ってくださいね」

「ふんっ、この音源次第かな」
「じゃあ、また会えますね」



 18時。僕が向かったのは都内にある個室の料理屋だ。

「長野、お前は部屋の前で待ってろ。で、一時間ぐらい経ったら急用風に呼んで」

「急用ふう、ですか?」

「そう。直ぐ抜けなきゃいけないことが起こったような顔して僕を呼べばいいから。それ以外は入って来るなよ、いいな」

「わかりました」

はぁ、一時間。一時間の辛抱だ。しかも明日は休み。頑張れ自分っ!
僕は気合を入れると座敷の襖を開けた。



「やあ、亨君。先に一杯やってたよ」

「すみません、少し遅れましたか? 急いできたのですが」

「いやいや、私が早く来過ぎたんだよ。さ、君も座って」

川谷さんは目を細めていやらしい笑みを浮かべた。

 川谷さんは50代後半の剥げ親父だ。お腹も出てるし脂ぎった額もむくんだ様な手も日頃の不摂生を伺わせる。これでもラジオの中では圧倒的なリスナー数を誇る番組、ユー・ロードのディレクターだというのだから容姿は出世には関係ないのだなと思う。

もしくは、実力が確かか、だ。

川谷さんの目の前に座ると僕は仕事用のスマイルを浮かべた。

「失礼します。そういえばこの間のユー・ロード、良かったですね。洋楽特集、懐かしい曲と今の曲の対比が素晴らしくて、いつも以上に聴き入っちゃいました」

「お、分かる?」

「勿論ですよ。さすが川谷さんだなと思いました」

「いやー、亨君にそう言われると嬉しいなぁ。ね、ちょっとこっちに来てお酒注いでよ」

きたっ。いつもの時間が……。こうして僕に酒を注がせ、そのうち箸や何やらも自分の隣に移動させ、太腿のきわどい部分を撫で始めるのだ。まだここに来て10分。50分も我慢するのか……。

僕はそんな気持ちはおくびにも出さずにニコニコと川谷さんの隣に座った。

 隣に移動すること20分。ラジオの話題、最近の音楽の話題、流れでスターフィッシュの音源を渡して、お酒を2、3杯。

「もう仕事の話はいいからさ~、最近、どうなの?」

「ど、どうなのって何ですか?」

ん~、と言いながら川谷さんが僕の太ももに手を乗せる。

「何がって、分かるでしょ?」

川谷さんの手が太ももの上を撫でながら時折太腿の内側を擦り、少しずつ手が上がってくる。残念ながら川谷さんはゲイだ。そして多分、僕みたいなのが好みなのだ。

「恋愛の話でしたら、何も、ですよ。仕事ばっかりで」

「へぇ、じゃあ、こっちも寂しいんじゃない?」

川谷さんの手が僕のお尻を撫でる。お尻を撫でながらその中心、アナルの辺りをグイッグイッと押した。

ひええええええ。

何度やんわりと僕はネコじゃないと言っても毎回、必ずこれだ。

「あ、川谷さん、お酒が無くなってますよ。ちょっとお手洗いにも行きたいので、新しいのを注文してきますね」

ニコリと微笑んで川谷さんが何か言う前に立ち上がって部屋を出た。
ふぅ、しんどい。

「亨さん……いつもあんなことしてるんですか?」

「あ、あぁ、まぁな。別に触られても減るわけじゃ無いし。長野、親父には言うなよ」

「じゃあ、あんなこと……」

「今だけだよ」

その後、長野が電話だと部屋をノックするまでの20分間、怪しい攻防を続けて会はお開きになった。



 こんな日はお酒を飲むに限る。アルコールで体の中から消毒してやるのだ。行きつけのバーに足を運ぶと僕はカクテルから始まり、やがてブランデーを飲み始めた。

「って、長野、帰っていいんだけどなんでいるの?」

「なんとなく、ですかね」

「なんとなくって、なんだよそれ」

「亨さん、今日のアレ、川谷さんに会わないわけにはいかないんですか?」

「あー、アレね。ほんと、あのクソ親父嫌になるよね。僕のアナル、すりすりしちゃって気持ち悪りぃのなんだのって」

「やめるわけには……」

「いかないからこうして飲んで消毒してんの。いいか、媚でもなんでも売って少しでもあの人のラジオで流してもらう。そしたら偶然聞いた一人がすげー良いって思ってくれるかもしれない。その一人から広がる、な」

ブランデーを一口飲む。

「今は一人でも多くの人に聴いてもらうことが大事なんだ。どんなにいい音楽作っても、聴いてもらえなきゃ広がんねぇんだよ。体全部差し出せってわけでもないし、ケツ撫でられるくらいいくらでも我慢するさ」

長野が僕のグラスについた水滴をハンカチで拭う。こういう几帳面なところも昔と変わらない。それが妙に笑えてくる。

「今に見てろ、こんなことしなくても日本中にあいつらの音楽が流れるようにしてやる」




「あれー、亨さんじゃん。久しぶりーっ」

熱く語っていたところに声をかけられて振り向くと、何度か夜を一緒に過ごしたサワちゃんがいた。サワちゃん、169センチ、可愛く鳴くネコちゃん。それしか知らない。

「サワちゃん、相変わらず可愛いねー」
「でしょ。彼氏連れ?」
「違う違う。なんつーか、幼馴染!?」

「ふぅん。じゃあ、さ、今晩どう? 僕、今日一人なんだよね。なんか寂しいし」

僕はチラッと長野を見たが、まぁ、いいかと思った。勝手についてきたのはコイツだし、一緒に飲むと約束したわけでもない。

「いいよ。丁度めちゃくちゃ気持ち良くなりたい気分なんだよね」

「奇遇だね、僕もそう」

そう言われてサワちゃんの腕を掴んだ時、僕の手を掴んだ長野がグイッと二人の間に入ってきた。

「今日はやめた方が良いと思いますよ。亨さん、結構酔っぱらってますし」

「そんなことないよ。ヤる元気はあるし」

「そんなことなくないですよ。こんなに酔っぱらってたら中折れ間違いなしです。気持ち良くてどうしようもない時に中折れして放り出されて、あなたは平気ですか?」

長野がサワちゃんに問う。コイツ、何考えてんだ? 文句を言おうと口を開きかけた時、サワちゃんがプイっと僕に背を向けた。

「それは困るな。目一杯気持ち良くしてくれない人はお断り」

「え、ちょっと待てよ、サワちゃんっ」
「またね、亨さん」

ひらひらと手を振って去っていくサワちゃんに伸ばした手を長野が掴み、「そろそろ帰りましょう?」と微笑んだ。

「やだ、もう少し飲んでから帰る。お前、僕の楽しい時間を阻止したんだから責任もって付き合えよ」


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