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2・彼氏と上司
痛恨の忘れ物
しおりを挟む「木ノ下。ちょっといいか?」
ミーティングが終わってメンバーが各々の担当箇所に別れた後、雨宮に声を掛けられた。
「はい、なんでしょう。」
「今度のイベントの件なんだが、」
今月下旬に図書館の大会議室を使って、地元絵本作家のトークイベントが行われることになっていて、そのチームのリーダーを雨宮が務め、千紗子も担当メンバーに選ばれていた。
「当日、来場者に配布する栞なのだが、デザインの出来上がりを確認したいから見せてもらえるか?」
「はい」
トークイベントの時の来場者に、記念としてその絵本作家の絵本の絵を使った栞を配ることになっている。
チーム全員で作成に当たることになっているけれど、千紗子はそのデザインの原案の担当を任されていた。
まだ司書としては出来ることの少ない千紗子にとって、小さな仕事でも、自分に任されたことが純粋に嬉しかった。
せっかく任されたからには納得のいくものを作りたくて、昨日は勤務後に自宅に持ち帰って、そのデザインの仕上げに遅くまで没頭していた。
自宅のパソコンから保存したUSBを出そうと、カバンの中に手を入れた。
「え、……あれ?」
「どうした?」
雨宮が千紗子の鞄へと視線を移す。
鞄の中に手を入れてゴソゴソと漁るけれど、千紗子の目当てのものは見付からない。
「す、すみません」
千紗子は慌てて雨宮に謝った。
「自宅にUSBを忘れてきてしまって……申し訳ありません」
頭を深く下げて上司に自分のミスを報告する。
「いや、俺も前もって言っておかなかったからな。明後日にはチーム皆で制作作業に入ることになっているから、今日中にデザイン案を確認をしておこうと思ったのだけど……」
明日は木曜日―図書館は休館日だ。
明後日から作業を開始することはチーム内での共通予定なので、その前に、と千紗子は原案作りに頑張ったのだ。
もちろん事前に上司のチェックが入ることも分かり切ったことだった。
(それなのに、肝心なUSBを家に忘れてくるなんて!!)
痛恨のミスに背筋が寒くなる。自分が情けなくなって、申し訳なくて頭が上げられない。
「大丈夫」
柔らかい声と同時に、ふわり、と温かいものが頭を撫でた。
それが雨宮の手だと認識するのに、一瞬時間がかかった。
「え?」
びっくりして顔を上げると同時に、その手は離れ、彼は何事もなかったかのように、真面目な顔で仕事の話をする。
「あまり深刻なミスでもないから、そんなに青くならなくていい。君が作業していた途中までは確認しているし、アットホーム感のある手作り栞だから、奇抜なものじゃなければ大丈夫だ。ただ、何事も事前確認は怠らないようにしたいから、今日確認しておきたかっただけで、明後日の朝一で見せてもらえれば間に合うと思う」
そう言って優しくフォローしてもらえたが、千紗子はいま一つ納得出来ないでいた。
雨宮は、上司としてはとても優しい。もちろん厳しくすべきところは厳しくする人だが、ちょっとしたミスなどを必要以上に責めたりせずに、どうしたらミスがなくなるかを丁寧に指導してくれる。とても真面目で信頼のおける上司だ。
そんな雨宮に指導を受けているのに、こんな初歩的なミスをする自分が情けなかった。
「本当に申し訳ありません。金曜日の朝一には必ずお見せ出来るようにします」
「よろしく頼んだよ」
切れ長の目を少し細めるように微笑んで、彼は千紗子の前から立ち去った。
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