耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか

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第四話【スペシャルパンケーキ】休日ブランチは極甘に!?

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ガタン、ガラガラ。
ここ一か月あまりで耳に馴染んだ音が聞こえる。縁側の雨戸を開ける音だ。
瞼の向こうに強い陽射しを感じ、美寧は思わず眉間にしわを寄せた。

「ミネ。―――そろそろ起きませんか?」

縁側に面した障子が少し開き、そこから柔らかな声が聞こえた。毎朝美寧を起こすのは怜の役目だ。

「う…う~ん、れいちゃん、もうちょっと……」

美寧は朝に弱い。低血圧なのだ。
平日は七時半には起きて怜と一緒に朝食を食べるが、怜を見送った後ソファーでしばらくぼんやりしてしまうことも少なくはない。

けれど今日は日曜日。
怜は大学の期末試験や何やらと忙しいらしく、昨日も出勤したので、今日はやっと迎えた“休日”なのだ。

二人で水族館に行くはずだったあの日から初めての、二人そろっての休日。
美寧の肩書が、藤波家のただの居候から怜の恋人へと変わってからまだ数日ほどだ。

「これでも大分待ったのですが……。早く起きて俺をかまって、ミネ」

やけに近くで声がして、驚いて目を開けると、すぐ目の前に怜の顔があった。

「っ!」

完璧と言って良いほどの端整な顔が真上から美寧を見下ろしていて、目を見開いて息をのむ。美寧が固まった次の瞬間

額に柔らかなものが触れ、ちゅっと音を立て離れていった。

「おはようございます。ミネ」

「お、…はよう…………」

「朝食の準備をしてきますね」

そう言うと怜は、呆然となる美寧を残し部屋を出て行った。

怜が締めた襖を見つめ、しばらく固まっていたミネだが、縁側からのまぶしい光に我に返り時計を見ると、短い針はもう10を過ぎていた。

「やだっ、もうこんな時間!?」

うっかり寝過ぎたことに気が付いて、慌てて服を着替え敷いていた布団を片付けると、部屋を後にした。

***

「れいちゃん、今日はこんな感じでどうかな?」

美寧が怜に見せたのは庭から摘んできた花々。千日紅と秋海棠を組み合わせていて、ピンク色で左右非対称の花びらの秋海棠の間から、丸くて小さな紫色の千日紅が可愛らしく顔を出している。

「ああ、いいですね。今日もとても素敵です」

「じゃあ、活けてくるね」

「はい、お願いします」

パタパタと小走りで美寧が向かったのは、さっきまで美寧が寝ていた部屋。そこに戻った美寧が持っていた花を活けたのは仏壇の前だった。

実は、美寧が自室にしているのは仏間だ。

公園で倒れていた美寧を拾って帰った怜が、彼女をこの部屋に寝かして以降、美寧はこの部屋を使っている。

八畳ほどある仏間にはこれまでは何も置いておらず、来客があった時などに使う程度だった。客用布団などもこの部屋の押し入れに入っているので、必然的に美寧を寝かせる部屋になったのだ。

美寧がここに留まることになった当初、怜は他の部屋に変えることを美寧に提案した。
けれど美寧は今のままでいい、と言った。その代わりと言っては何だが、怜に一つお願いを聞いてもらったのだ。

そんな経緯で仏間は現在美寧の部屋になっているため、仏壇のお世話は美寧の仕事なのだ。

平日は、起床して顔を洗うとすぐに仏壇にお茶やお線香、仏飯を備え、休日には花を活ける。美寧はこの仕事がとても好きだ。
自分にも出来ることがある、それが何よりも嬉しい。

怜の家には庭がある。決して大きくはないそこには、様々な花が植えられていて、季節ごとに目を楽しませてくれる。美寧がここに来た当初満開だった紫陽花はとても綺麗だった。今は、さっき摘んできた千日紅と秋海棠以外にも、ペンタスやアガパンサスが咲き誇っている。

できることなら四季を通してずっとこの庭を見ていたい。

立ち昇る線香の煙の向こうに手を合わせ、瞳を閉じてそう願った。

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