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第十三話【ほろにがカラメルプリン】その笑顔が見たいから
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ソファーに座って待っていると、怜がプリンと飲み物を乗せたトレーを運んできた。
怜の囁きに美寧が頷いた後、怜は美寧の耳元から顔を離し、「リビングで食べますか?ここで食べますか?」と訊いてきた。
「リビングに行くよ」と美寧が答えたので、四人でリビングへと移動してきたのだ。
美寧の耳元で囁いた後、普通の距離に戻った怜は『プリンなら食べられますか?』と訊いてきた。
真っ赤になった美寧が首を縦に振ると、怜は後ろを振り向いて、『二人も、一緒にプリンを食べませんか?』と訊ねた。
(“そういうところ”って……)
怜の触れた耳の端が熱く痺れて、そこばかりにいってしまう意識を何とかしようと別のことを考える。
(れいちゃんにはお見通しってこと、よね……?)
自分が『何か食べたい』と言い出した理由。
それは、美寧がそう言い出さなければ怜が『一緒にプリンを食べませんか』と柚木親子を誘うことはない、ということ。そして、それ自体も美寧本人が分かっている、ということも。
『俺の料理を食べられるのはこれからずっとミネだけです。』
ひと月ほど前、怜はそう宣言した。
彼は約束を破ったりしないと、美寧は確信に似た何かを感じている。
昨日高柳がやってきた時にふるまった料理が“たこ焼き”だったのも、美寧との約束を守るためだったのだ。
(私が変なヤキモチ妬いたから……)
お客様に料理をふるまうのに、いちいち美寧の了解を取らなければならないなんて不便だ。
怜が料理好きなことは、一緒に暮らした三か月で美寧もよく分かっている。自分の作ったものを誰かに食べさせることが好きなのも。
自分以外の女性にその料理をふるまうのは、やっぱりちょっと嫌だな、と思ってしまう。
けれど、いたく哀しそうな顔で「おなかしゅいたよ~」と言う愛らしい天使を、そのままにしておくことなど出来なかった。
怜は運んできたそれをソファー用のローテーブルに並べていく。
三人掛けのソファーの端に座る涼香の前、そして反対側の端に腰かけた美寧の前にもプリンが置かれた。
「わぁ、かわいい!」
美寧は置かれた器に、思わず目を輝かせた。
ガラス製のミルクポット型の器には、カスタード色のプリンと濃い茶色のカラメルがきれいな二層になっているのがよく分かる。
食べる前からプリンに魅入っている美寧の反対側で、スプーンを握りしめた健が足をバタバタさせた。
「ままぁ、るぅくん たべていい?」
「フジ君に食べていいか、聞いてからね?」
「ふじくん いい?」
「もちろん。どうぞ」
「わ~い!いたらきまぁす!」
母親の膝から降りて、ラグの上にちょこんと正座をした彼は、嬉しそうにプリンを手に取った。
「ミネもどうぞ」
「あ、うん……いただきます!」
可愛らしいミルクポッド型の器を左手で持ち、右手のスプーンでひと掬いする。
とろりとした感触のプリンは、家庭で作るものにしては少し柔らかめで、まるで洋菓子店のもののよう。
上にかかっているカラメルと一緒に掬い上げたそれを、美寧はこぼさないように口に入れた。
「んん~っ、おいしいっ!」
ほっぺたが落ちそうになる。
甘めのカスタードをカラメルのほろ苦さが程よく中和する。少し苦めのカラメルは“大人の味”で、美寧は初めて食べた時から怜の作るプリンが大好きになった。
「おいちいね!」
口元にプリンを付けながら笑顔で言った健がとても愛らしくて、美寧は自然と笑顔になる。
「うん。美味しいね。れいちゃんのプリン、ほんとに美味しい」
怜の作ったカラメルプリンは、美寧にとっては想い入れのある一品でもある。
三か月前。美寧が二番目に食べた怜の料理。玉子雑炊の次に食べた玉子料理が、このカラメルプリンだったのだ。
その時のことを思い出すと、美寧は胸の中がじわりと温かくなるのを感じた。
「喜んでもらえて何よりです」
美寧と健の顔をそれぞれ見ながらそう言った怜の瞳も、柔らかく細められている。
(れいちゃんもあの時のこと、覚えてるのかな……)
じっと怜の顔を見つめていると、隣から「ほんと、大事に溺愛中よね」という声が聞こえる。振り向くと涼香がなにかしたり顔で笑っていた。
「それ。ナギにも言っただろう………」
憮然とした怜の声。
「あら?本当のことでしょ?」
それが何か?というような涼香の顔。
気の置けない友人同士の遣り取りを、美寧は黙って聞いていた。
ソファーに座って待っていると、怜がプリンと飲み物を乗せたトレーを運んできた。
怜の囁きに美寧が頷いた後、怜は美寧の耳元から顔を離し、「リビングで食べますか?ここで食べますか?」と訊いてきた。
「リビングに行くよ」と美寧が答えたので、四人でリビングへと移動してきたのだ。
美寧の耳元で囁いた後、普通の距離に戻った怜は『プリンなら食べられますか?』と訊いてきた。
真っ赤になった美寧が首を縦に振ると、怜は後ろを振り向いて、『二人も、一緒にプリンを食べませんか?』と訊ねた。
(“そういうところ”って……)
怜の触れた耳の端が熱く痺れて、そこばかりにいってしまう意識を何とかしようと別のことを考える。
(れいちゃんにはお見通しってこと、よね……?)
自分が『何か食べたい』と言い出した理由。
それは、美寧がそう言い出さなければ怜が『一緒にプリンを食べませんか』と柚木親子を誘うことはない、ということ。そして、それ自体も美寧本人が分かっている、ということも。
『俺の料理を食べられるのはこれからずっとミネだけです。』
ひと月ほど前、怜はそう宣言した。
彼は約束を破ったりしないと、美寧は確信に似た何かを感じている。
昨日高柳がやってきた時にふるまった料理が“たこ焼き”だったのも、美寧との約束を守るためだったのだ。
(私が変なヤキモチ妬いたから……)
お客様に料理をふるまうのに、いちいち美寧の了解を取らなければならないなんて不便だ。
怜が料理好きなことは、一緒に暮らした三か月で美寧もよく分かっている。自分の作ったものを誰かに食べさせることが好きなのも。
自分以外の女性にその料理をふるまうのは、やっぱりちょっと嫌だな、と思ってしまう。
けれど、いたく哀しそうな顔で「おなかしゅいたよ~」と言う愛らしい天使を、そのままにしておくことなど出来なかった。
怜は運んできたそれをソファー用のローテーブルに並べていく。
三人掛けのソファーの端に座る涼香の前、そして反対側の端に腰かけた美寧の前にもプリンが置かれた。
「わぁ、かわいい!」
美寧は置かれた器に、思わず目を輝かせた。
ガラス製のミルクポット型の器には、カスタード色のプリンと濃い茶色のカラメルがきれいな二層になっているのがよく分かる。
食べる前からプリンに魅入っている美寧の反対側で、スプーンを握りしめた健が足をバタバタさせた。
「ままぁ、るぅくん たべていい?」
「フジ君に食べていいか、聞いてからね?」
「ふじくん いい?」
「もちろん。どうぞ」
「わ~い!いたらきまぁす!」
母親の膝から降りて、ラグの上にちょこんと正座をした彼は、嬉しそうにプリンを手に取った。
「ミネもどうぞ」
「あ、うん……いただきます!」
可愛らしいミルクポッド型の器を左手で持ち、右手のスプーンでひと掬いする。
とろりとした感触のプリンは、家庭で作るものにしては少し柔らかめで、まるで洋菓子店のもののよう。
上にかかっているカラメルと一緒に掬い上げたそれを、美寧はこぼさないように口に入れた。
「んん~っ、おいしいっ!」
ほっぺたが落ちそうになる。
甘めのカスタードをカラメルのほろ苦さが程よく中和する。少し苦めのカラメルは“大人の味”で、美寧は初めて食べた時から怜の作るプリンが大好きになった。
「おいちいね!」
口元にプリンを付けながら笑顔で言った健がとても愛らしくて、美寧は自然と笑顔になる。
「うん。美味しいね。れいちゃんのプリン、ほんとに美味しい」
怜の作ったカラメルプリンは、美寧にとっては想い入れのある一品でもある。
三か月前。美寧が二番目に食べた怜の料理。玉子雑炊の次に食べた玉子料理が、このカラメルプリンだったのだ。
その時のことを思い出すと、美寧は胸の中がじわりと温かくなるのを感じた。
「喜んでもらえて何よりです」
美寧と健の顔をそれぞれ見ながらそう言った怜の瞳も、柔らかく細められている。
(れいちゃんもあの時のこと、覚えてるのかな……)
じっと怜の顔を見つめていると、隣から「ほんと、大事に溺愛中よね」という声が聞こえる。振り向くと涼香がなにかしたり顔で笑っていた。
「それ。ナギにも言っただろう………」
憮然とした怜の声。
「あら?本当のことでしょ?」
それが何か?というような涼香の顔。
気の置けない友人同士の遣り取りを、美寧は黙って聞いていた。
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