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第四章 はじめての【友達】
第四章 はじめての【友達】 ③
しおりを挟む「……削り過ぎちゃった」
「はあ!?」
三原の手元には、他の羽に比べて小さくなった羽がある。僕はズキズキと痛む頭を抱えながら、三原の手からその羽を奪った。
「ど、どうしよ……!」
「仕方ないだろ、他の羽も同じくらいまで削る」
「ご、ごめん! 俺もやる!」
「いい。また変なことされると困るし」
「……ごめん」
三原は眉を下げて、しゅんと小さくなる。それを見ていると、何だか悪い気がし始めた。僕は三原が失敗した羽を使って他の羽にかたどるように線を引き、三原に渡した。
「次は、これの通りにやれよ」
「分かった! ありがとう!」
今度はニコニコと笑みを浮かべる。何だか、子どもの相手をしている気分になってきた。これならまだ、【子ども図書館】に出入りしている子どもたちの方が賢そうだ。危なっかしい三原の手付きを尻目に、僕は作業に戻る。
しかし、時間をかけて出来上がった羽は不揃いなもので……このまま飛ばすのは不安な出来栄えだ。それでも三原はとても満足げな表情をしている。
「じゃ、飛ばしに行こうぜ野々口!」
勇んで教室を飛び出していく三原の後を追うように、僕も完成したペットボトルロケットと発射セットを持っていく。ペットボトルのあまりはもう残っていないので、もしこれが壊れたりでもしたら、また一から作り直す必要があるし……材料を集め直す必要がある。作るのは問題ない、一度作ってしまえば手順だって覚えることができる。しかし、問題は材料集めだ。三原の兄に頼んで四本、クラスメイトは一切あてにならない。今度からは、自分で炭酸飲料を買わなければいけないのか、と思うとがっくりと肩が落ちていく。
「おせーよ、野々口」
「全部僕に持たせておいて、何言ってんだよ。手伝えよ」
「あ、ごめーん。じゃ、やろうぜ」
僕はロケットの中に水を入れて、射出台にセットする。空気入れはやりたがりの三原が担当することになった。
「じゃ、よろしく」
「よし来た! 任せろ!」
三原が空気入れを大きく上下させる。初めは楽そうにしていたが、すぐに眉をしかめて空気を入れるのも辛そうになり始めた。もうペットボトルの中に入らないのだ。
「もういいぞ、それくらいで」
「いや、もうちょっと行ける……」
「でも、これ以上やったら……」
「……まだまだぁーっ!」
顔を真っ赤にした三原が、息をグッとためて、空気入れを最後まで押し込んでいく。僕の視界の横で、何かがボコッという音を出しながら……ゆがむ。
「……え?」
「もういっちょー!」
「おい、待て!」
僕が止める間もなく、三原はもう一度強くレバーを押し込んだ。次の瞬間――バンッと今まで聞いたことのないような大きな爆発音が聞こえた。
「うわぁあ!」
「……あーもう!」
爆発音の後に散らばるペットボトルの破片を見て、三原はあんぐりと口を開けている。僕は肩を落として、盛大なため息をついた。頭に締め付けられるような痛みが走り、もう何もする気にはなれない。それでも散らばった破片をそのままにしておくわけにもいかず、拾い集めていると三原も慌てて後片付けをしていた。
「ごめん……」
「言っただろ、もういいって。どうしてそう無理やりやろうとするんだよ」
「行けると思って……」
「羽作ってた時もそうだけど、加減を知らないよな、三原は。適当にやればいいってもんじゃないんだよ、こういうのは。作り方通り丁寧にやらないと」
このしょぼくれた肩は、きっと反省のポーズだ。僕はその姿を見て、怒りの行き場をなくしてしまう。
「……せめて、ケーキ作るときと同じだって思ってくれよ」
「ケーキ?」
「そう。慣れてるお前だって、最初はレシピ見たしするし……今だって、温度とかちゃんと守って作るんだろ?」
「う、うん……」
「それと同じ。作り方と加減さえ守ってくれれば、ロケットはちゃんと飛ぶ」
「でも、今日みたいな失敗があったら……俺だってやっぱりへこむわ」
「……僕もそうだよ。そんなこと、いくらでもある」
「野々口も?」
うっかり口が滑った。仕方なく、僕はそのまま話を続ける。
「そういう時、失敗は、明日への糧だと思うことにした」
「『糧』?」
「頑張りの源とか、そういう意味。たとえ失敗でも、それを積み重ねていけば必ず成功につながる。僕はいつもそうしていた」
デモで何度も失敗をしても、計算を繰り返す。その度に、今まで見えてこなかった視点や新たな考え方が生まれる。そうした時間を過ごすのは、僕は好きだった。失敗を重ねれば重ねるほど、新しい世界に出会える。その出会いが、嬉しくて仕方がなかった。
「ねえ、野々口」
「何?」
「お前、今まで何してたの?」
「……なんで?」
「なんか、人生達観してない? おっさん臭いというか……」
「ほんと、失礼な奴だよ。お前」
そんな話をしているうちに、破片は拾い終わっていた。
「どうする? これ」
三原は破片を抱えて、ぽつりとつぶやく。彼の中の反省はまだ続いているらしい。
「捨てるしかないだろ、もったいないけど」
「だよな~。あー、どうしよ! ペットボトルなくなっちゃったよ」
「クラスはあてにならないしな」
三原は頭を抱える。そうしたいのは僕だって同じだ、やっとこんな面倒な事からおさらばだと思ったのに。三原のせいで文字通りパーだ。僕たちはゴミ捨て場に寄ってロケットの残骸を捨てた後、教室に戻る。明日からどうするか、それを決めなければいけない。
「……あれ? 佐竹じゃん、何してんの?」
「え?」
おそらく同じクラスであろう男子が、三原が用意した回収箱の前にいた。箱の中を見てみると、炭酸飲料のペットボトルが数本入っている。
「もしかして、持ってきてくれたの?」
僕がそう聞くと、佐竹と呼ばれていた彼は小さく頷いた。少し驚いたいたようで、黒縁の眼鏡が大きくずれている。
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