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-7-『テキサス生まれの男』

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 キッチンの換気扇のボタンを押した。フライパンをガスコンロの上に置く。細かく刻んだ鶏肉を投入して炒め、次に玉ねぎが飴色へと変えていく。

 小麦粉を摘まんでぱらぱらと投下し、マカロニと牛乳と投入した。

 火加減を調整しながら各種調味料をふりかけ、鶏がらスープを加える。

 三人分の下皿にたっぷりバターを塗っておき、パルメザンチーズも忘れない。
 最後にとろけるチーズを上に載せてオーブントースターへ。

「にいちゃん。グラタン?」
「おお、ミーナか。待ってなさい。すぐできるから」
「ふわーっ!」

 我が愛しの妹ミーナは目を輝かせて、両手を慌ただしく上下に振った。

 好物を前にして喜んでいる仕草は微笑ましい。

 百三十センチと身長は低く、身体は細すぎて寸胴ではあるが、俺に似て顔立ちは整っている。

 お団子ヘヤが似合う、愛くるしいロリータフェイス。

 それに似合ったゴシックローリタっぽいフリルを多用した可愛らしいファッションを好み、襟元がレースで縁取られたフォーリング・バンド加工のトップスは清純な印象を与える。

 二枚の生地を段になるように重ねられたチュチュ・スカートをひらめかせる姿は絵本の中のお姫様のようだ。

 中学二年生になっても少し幼児的なところがあるが、俺のたった一人の可愛い妹。

 何よりも大切にすべき存在だ。

「ちょっとお兄ちゃん。今、脳内で私の存在消したでしょ。私が来たのに無視ってたし」

 唇を尖らせたクーナは、むふぅーっと唸りながら腕組みしている。

 食器運びを手伝いに来た様子だが、俺が放置していたのが気に入らないのだ。

「消してない。ちょっと忘れていただけさ。ミーナ、グラスを運んでくれないか」

「合点承知」

 えっちらおっちらトレイを持って運んでいく姿は、まるで小リスのようだ。

 ごちそうが目当てだとしても、家事の手伝いはいい兆候だ。

 一時は学業をおろそかにして部屋にひきこもってばかりいたので、心配していた。

「お兄ちゃんがお料理するなんて珍しいね」
「まあ、たまにはするよ。クーナばかりに任せてたら悪いし」
「家族サービスしても、蒼井先輩とのデート邪魔するからね」

「……クーナ、いい加減にお兄ちゃんを祝福しろ。彼女はお前のお義姉ねいさんだぞ?」

「いや、それは違うでしょ。何その『困ったやつだな』みたいな顔。単なるデートでしょうが……とりあえず、今日の晩御飯終わったら話があるんだけど」

「ん、ああ……わかったよ」

 声のトーンを落としての相談に頷き、オーブントースターのグラタンができあがるのを待った。

 鍋つかみでグラタン皿をトレイに移動させる。

 焼き色が加わったグラタンは、香ばしい匂いを放っている。

 リビングの座卓で三人で食事を摂る。

 父さんと母さんを亡くしてからの日常は少しづつだが、取り戻せてきた。

 俺たちの母さんはキャリアウーマンで仕事が忙しく、家事はヘルパーさんを雇うくらいで接触が少なかったせいか――俺もおぼろげにしか覚えていないし、交通事故であっけなく死んでしまった。

 ――三年前。

 俺たちの面倒を見てくれていた父親は、NASAの火星探検隊に志願してロケットで空の向こうへと消えた。

 半年で無線は途絶え、行方不明。

 死んだと考える方が自然だ。

 どこにでもある話ではないが、本人たちは自分の夢を追って散ったのだ。

 納得はできないが、仕方ないこととして受け入れるしかなかった。

 クーナの黒服ごっこの根底は両親の死を忘れるための遊びなのだろう。

 ――そうでなければ。

 夕飯のテーブルに得体も知れない紫色の肉が乗った大皿があるなんてことは、俺には認められない。

 なんだよ、これ?

 湯気までどす黒い紫だぞ。
 しかも、脳みそみたいな形してんだけど。

 食物とカウントしていいのか?

「おいクーナ」
「何? あ、ごめん。気が利かなかったね」

 対面に座ったクーナはもそもそと足を伸ばすと、黒ストッキングを履いた足で俺の股間を突いてきた。

 足先で敏感な部分をなで回しながらの物欲しげな妖しい目つき、にんまりとしてわずかに開いた唇、ちゅるっと人差し指第一関節を口内に入れ、俺の反応をうかがっている。

 いや、そうじゃない。

「クーナ、この肉はなんだ」
「マグロ」
「あれは赤身魚だろうが、焼いて白くはなってもこんな汚ねえ紫にはならねーよ」
「マグロみたいな形してたもん」
「マグロみたいな、ってことはマグロそのものじゃねーってことだろ」
「お兄ちゃん。地産池消だよ?」

「地元の食材みたいに言うんじゃねーよ。完全に別次元の存在だろうが」

「へぇー、地球外生命体がいるってことは認めるんだ」

「いるいないはこの際置いといて、まったく食う必要はないだろうが」

 俺たちの口論を見かねたのか、ミーナがスプーンを止めてぽつりとつぶやいた。

「にいちゃん。それはデブが勝手に食うだけ。あたしたちは普通の食べよ」

「ふぁっ! で、で、DEBU?!」

 デブというワードにクーナは口を〇にした。
 怒りを表して両手をテーブルにつけて背筋を伸ばす。
 俺の隣のミーナは平然としながらグラタンをむにむにと噛んでいる。

 その足元でシャム猫の一郎丸もエサをがりがり食っていた。

 飼い主と飼い猫は動じない。

「みぃっ、間違えないで! お姉ちゃんは官能美ボディよ。男を狂わせる魔性を肉体に備えているだけよ!」

「メタボリックバーガー女(笑)」

「な、な、何をぉぉおおおおお!」

 エキサイトするクーナ―は歯を食いしばりながら、拳を震わせた。

 今にもつかみかかんばかりの危険な気配を漂わせ、息まで荒くなっている。

「まあまあまあ、落ちつけって」

 間に入っての仲裁は時間がかかった。

 お互いに頑固なところもあるのか「整形乳野郎」とか「クソチビ偽チャイナ娘」とか口汚い罵倒が飛び交い、俺のSAN値が削られていく。

 クー&ミー姉妹はもっと仲がよかったはずなのに、いつからか険悪になってしまった。

 お兄ちゃんとしては、百合の花が咲かない程度に仲良くして欲しいものだが。

 賑やかな食事が終わり、俺はリビングから自室に行こうと腰を浮かせたがクーナが呼び止めてきた。

「お兄ちゃん。用事あるっていったでしょ。今日はDVDを見て欲しいの」

「もう妹モノの萌えアニメはいいよ」

 洗脳されたくないし。

「いや、今日はそうじゃなくって、お父さんが遺したDVDがあるの」

「なんだって」

 そうと聞いては、見るほかはなかった。

 席に戻り、クーナがあらかじめ用意したのかDVDデッキに白面のディスクをセットする。

 その際に意味もなく間を取り、丸みのある尻を官能的な仕草で左右に振ったが、ミーナが近寄ってその尻を蹴飛ばした。「ふぎゃん」と悲鳴があがる。

 お兄ちゃんはどちらも少し怖い。

 普段なら、すぐ二階の自室に戻るミーナだったが、ソファーに座る俺の横にちょこんと座り、俺の腕を取って頭を乗せてきた。

 小さいながらも体温はぬくい。まだ両親が恋しい年頃だ。

 姉は嫌いのようだが、父さんと母さんと俺は好きなのだ。

「お兄ちゃん。本当はこのDVDは永遠にしまっておく予定だったの。でも、無法者の宇宙人が放した地球外生命体を討伐することで、生活が危険と隣り合わせになって、お兄ちゃんの本能を目覚めさせて私と子作りさせるには見せないといけなくなったの」

「愛が重い」
「死ね」
「ミー、あとで話し合うからね。じゃあ、スイッチオン」

 俺を真ん中にして三人でソファーに座る。

 クーナがリモコンを操作し、液晶ディスプレイに光が点った。

 浮かびあがったのは筒状の部屋と白い壁と蛍光灯、張り巡らされた配線やチューブ。

 壁際には複雑な計器類が埋め込まれており、LEDの蛍光灯だけが光源で窓は設置されてなかった。

 宇宙船内部だろうか。もしくはそれに似た装置の内部。

 通路から誰かが顔を出した。無重力空間のせいで浮遊している。縮れ毛の金髪を頭上から二つに分けたアメリカ人が陽気な笑みを浮かべている。

 ジョージ・緋村。

 懐かしい顔。俺たちの父親だ。

 アメリカ人だが、日本にかぶれたせいで母さんの姓名になっている。

『ハロー。映ってるかな? これがパパの仕事場だよ。鉄次と空菜と美菜は元気にしてるかな? 学校にきちんと行ってる? そろそろパパに会えなくて寂しくなっちゃったかな?』

 画面の中の父さんは家族の近況について聞きたがっているようだった。

 表示されている時刻はちょうど三年前。

 火星探検隊のチームとして宇宙船に乗り込んだときの映像だろう。自らが録画した映像が遅れて見られることを予期していたのか。

「パパ……」

 わっと鼻と口許を両手で包んだミーナが鼻声でつぶやき、涙ぐんでいた。

『もうボクは地球に戻ることできないし、最後に君たちのママについて話したい』

 父さんは画面から消えた。

 カメラを移動させるつもりなのだろう。
 映像がめまぐるしく変化する。ハッチを開けて簡素な部屋へと入った。

 無重力だと物を置くことができないのか、ワイヤーで固定されたテーブルとベッドがあるくらいで簡素だ。

 父さんは壁と同化した長椅子に座り、カメラの前で手を組んだ。

 組んだ手で顔の半分を隠しているが、打ち明ける前の真摯な碧眼は恐ろしいほど真面目だった。

『君たちのママは……実は日本人ではない。宇宙人なんだ。彼女の名前はグレイ。小柄で無駄毛がまったくなくて、やたらと目が大きかった』

「おい、テレビ消せ」

 すかさず俺はリモコンを持つクーナに命令したが「まあまあ」と目顔でいなされた。

 俺の記憶の中では、母さんは黒髪日本美人だ。

 決して、デメキンみたいな目をした小人の化け物じゃない。

『出会った場所はテキサス、お前らのグランパにして俺のダディの牧場は神戸ビーフで有名だった。お前らは知らないだろうが神戸ビーフっていうのは日本酒を飲ませ、歌舞伎を見せることで味をよくした牛のことだ』

「飲ませてんのはビールだよ。なんだこの馬鹿外人は。これが俺の親父なのか? 自分のDNAを疑ってしまうじゃねえか」

「お兄ちゃん。テキサスのルールかもしれないから、大目に見ようよ」

「にいちゃん。テキサスは一つの国だから」

 うっ、と喉がつまった。

 娘たちの涙ぐましい擁護を俺も受け入れることにするか。

 爺ちゃんには二度くらいしか会ったことないが、テキサスの悪口は控えよう。

『ママとの出会いは真夜中だった。ショットガンを肩に乗せた俺はいつもの牧場巡回をしていた。卑劣な狼や凶暴なワニ、盗人や酔っ払い、そしてゾンビをいざというときに吹き飛ばすためだ』

「架空の存在まで目の敵にしてのかよ」

『巡回中、柵の周りを歩いていた俺は……上空で不思議な光を見た。木立の上から何かが迫ってきた。それは民家と同じくらい巨大でフライパンの形をしていて、オリーブオイルでぬらぬらしたUFOだった』

「なぁ、マジでこの話をこのまま聞くのか?」

『俺は自分の牛に宇宙人のキャトルミューティレーションが迫っていると理解した。空を飛ぶフライパンからは、ガーリックの臭いがしていたので間違いなかった。完全に牛をステーキにして、食おうとしている。確信を抱いた俺はすかさずショットガンを構えながら叫んだ。「申し訳ありませんがマーケットの営業時間は午前九時から午後五時までとなっております。またのご来店を心よりお待ちしておきます」ってな』

「パパ、最高にカウボーイ」

「ダディクール」

 父さんの行動は娘たちの感性にはかなっているようだ。
 俺の感覚では理解できないが。


『すると、UFOから牧草地に光が投射され、お前たちのママが降りてきた。そしていった。「私はベジタリアン。肉食主義への警鐘を鳴らすために宇宙からテキサスにきた」っな。俺はしびれたよ。テキサスにいるベジタリアンは南北戦争で滅びたからな』

「よし。クスリをキメてラリッた宇宙飛行士の映像って意味ではかなり貴重な資料だとわかったが、そろそろ見るの止めないか?」

 アメリカ史すら知らないアメリカ人を父親とは認めたくなかった俺は、手をパンっと叩き、身振りで姉妹を促したが、二人ともテレビに釘付けだ。

『ママとパパの愛の列車はすぐに終点までたどり着いた。お互いに足りないところを補い合って生きることにしたんだ。俺は宇宙船に乗ってみたかったし、彼女は俺の上に乗りたがった』

「なんだこの下品なジョークは。本当に自分の娘たちに見せることを考えたのか?」

「にいちゃん、ママはなんでパパの上に乗りたがったの?」
「私もわかんないなー」

 にやにや笑いのクーナに右手でアイアンクローを与える。

 激痛でのたうち回らせて苦しませ、三十秒後に解放したあと、純真でくりくりおめめのミーナの頭をなでなでする。

『だが、一つだけ誤算があった。地球人とグレイでは……そう、俺たちのあいだには子供は産まれなかった。だから苦肉の策として宇宙のちょっとやばい感じのオーバーテクノロジーを用いた』

「不穏なこと言ってるな……」

『まずは最初はキャラクターメイキングから始めた。人種、体型、顔の造形、声、性格、自由に決めることができた。当時、俺は時代劇にはまっていた。鉄次、お前は剣豪のミヤモト・ムサイをイメージした』

「ムサシじゃねーのかよ」

『鉄次が生まれたとき、パパは悪ふざけを止めて不妊治療を受けることにした。結果、空菜と美菜が生まれた』

「できるんじゃねーか。なんだ? 悪ふざけで俺は産まれたのかよ」

 凄まじい疲労感を覚えて、ソファーから身をずるずると滑らすと、父さんは更に顔を引き締めた。

『しかし、危惧した通り……自然交配では問題があった。元々、病弱だった空菜は一定周期で地球には存在しないグレートなタンパク質を食べさせなければ死に至ることがわかった。この日から、パパはエイリアンハンターになることを決意した。テンガロンハットと馬を捨て、黒服を着てサングラスをかけた。牛を追うのを止めて、地球外生命体を追いかけた。俺の残酷な行いは宇宙人であり、ベジタリアンのママとの間の絆を失うことだったが……俺は後悔していない』


 先ほどまでの馬鹿な言動から、一気に父親らしくなりやがって。

 馬鹿野郎が。

 そんな理由があったのなら。

 クーナのゲテモノ狩りを止めさせることができないじゃないか。


『俺の子供たちは成長した。少なくとも空菜は自力でハントできるようになった。だから、俺は火星に別居してしまったママと仲直りするために、地球を離れることにした。心残りはある。鉄次。お前は長男として妹たちを護って欲しい。そのためにリビングの下にパパから贈り物を用意した。テーブルの下を見てくれ』

「なんだって?」

 慌てて長机を退かして、絨毯をまくりあげた。
 フローリングの床面に目を落とす。

 ぱっと見ではなんの変哲もなかったが、念入りに指を這わせてみると、ぽこんと床がひっくり返った。

 隠し扉の取っ手。
 引っ張って床扉を開く。
 そこには。

『プロテインだ。むきむきマッチョになるためには必須のアイテムだ』

 五リットルサイズの銀色の缶詰が敷きつめられていた。一個を持ち上げると英文字で確かにプロテインの文字がある。

 パウダータイプで水に溶かして飲むようだが――賞味期限が切れている。

 うーん。

 なんだこのゴミ。

『強化人間であるお前の力を高めてくれるはずだ。パパに代わって娘たちを頼んだぞ息子よ』

 親指と陽気な笑顔でしめくくられ、映像が途切れた。

 なんて無責任な父親なんだ。

「最後にとんでもねえこといいやがって……確かに前々から俺は人とは違う特別な存在っていうか、イケメン過ぎるところはあったが、強化人間だとは」

 確かに俺は、百メートルを八秒台で走れる。
 
 ヤシの実だって、握りつぶせる。

 てっきり、地上最強生物が出てくる格闘漫画を読んでいるおかげだと思っていたが、こんな理由があったとは。

「お兄ちゃん、私を愛さなければならないと自覚は生まれたでしょ?」

「いや、そんな自覚は生まれてないが内容はわかった。クーナのゲテモノ狩りは認めよう」

「やったー。それじゃ、これからも一緒に頑張っていこうね」
「それは無理だ」
「え、なんで?」

 俺はリビングをゆっくりと移動して、ソファーにどっかり座り直した。
 両手を組んで視線を虚空にさまよわせる。
 残念だが、俺は異星人を倒して回るほど暇ではないのだ。

「クーナ。俺の将来の夢は何か知ってるか?」
「宇宙飛行士だっけ」
「違う。ラノベの主人公だ」
「は?」

「この先、きっとだが……俺は学園で複数の女の子と親密になる。そして、責任を取ったりはしないけどラッキースケベで警察に通報されないポジションに落ちつき。努力はまったくしなくても女の子に告白されたりして、相手の好意を無条件で受け取らなければならないんだ。そして最後には色々あったけど、やっぱり見た目が一番可愛い子を選ぶという、つらい役目を負わなければならない」

「ちょっと待ってお兄ちゃん。それって完全にクズだと思うけど」

「わかってる……つらい役目だ。良心が痛むよ。だが、運命には逆らえない」

 ふぅーっとため息をついた。

 手近なところにあった牛乳の入ったグラスをあおって、胸の痛みを紛らわした。

 深い悲しみが俺の心を占拠している。誰にも理解されないこの苦しみが俺を責め立てる。
 ラノベの主人公としての生き方は、俺もできれば止めたい。
 多くの女性を悲しませる結果になるし、もてあそぶことになる。

 しかし、俺は美男子だ。

 強化人間という属性を加えれば、完全に主人公としての資質を備えている。

 世の流れには抗えない。避けられぬ悲劇だ。

「にいちゃん。あたしもお兄ちゃんを独占したい」

「ミーナ……お前も俺の魅力に……」

「あたし、にいちゃんを世間から隔離したい。恥ずかしいから地下牢獄に閉じ込めて誰の目にも触れさせないようにしたい」

 ああ――なんて罪な俺。

 ミーナまでも己の魅力で惑わしてしまっている。
 やはり、こうなる定めか。

「クズお兄ちゃん。芳野先生みたいな被害者を出さないためにも、戦わなきゃいけない義務がJGGのエージェントにはあるんだよ」

「むっ」

 なるほど生まれながらのヒーローである俺は、困っている美女を助けなければならない責務がある。

 それもまた宿命ではあるが、やっぱ面倒だ。

「国家に任せようぜ」

「警察の人は犯罪者の取り締まりで忙しいの。タコの化け物やイソギンチャクの化け物みたいな宇宙産の害獣を駆除させるなんて、可哀相でしょ?」

 その論法だと、俺たちも可哀相になるんだが。

「あと……どのくらい獲物はいるんだ?」

「数は把握してないけど、一匹だけ確実なのがいるよ。地球外生命体じゃなくて、その上の宇宙人だけど」

「ひとまず、そいつだけぶっ倒してやるよ」
「えっ? いいの?」
「男に二言はない」

 言い切ると、クーナは気まずそうに視線をずらした。

「お兄ちゃんに言うか言うまいか悩んでたけど……蒼井先輩は宇宙人だよ」

「……マジで?」
「マジで」

 
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