金髪巨乳妹の胸の谷間に手を突っ込むことで地球を救う話

七色春日

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-20-『隕石打法』

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 ヘリは飛び立ってしまった。
 愛の告白の余韻に浸っているにやけ面のクーナを散々説教してやったが効果はなく。

 しょうがなくヘリポートで黄金バッドの素振りをしながらそのときを待っていると、同じく待ち構えていた先輩が「あっ」と声を出した。

 上空を細かい火球が走っているのが肉眼で確認できた。
 青空にきらめく流れ星の大群。ぱぁっと光って線を描いては消えていく儚い存在。
 本命の大隕石の取り巻きだ。

 多くは大気摩擦で消滅するらしいが、散らばっているので街に当たる物もあるようだ。

「いよいよ、だぞ緋村」
「ええ、すげえ轟音と耳鳴りもしますね」

 先輩は腰元の専用のガンソードを携えていた。
 長い銀刃のリボルバータイプ。細かいところまで装飾されて文様が刻まれてるし、見た目は角ばっていてオサレだ。このセンスのない力にも期待したい。

「おっ、撃墜されてるぞ」
「迎撃ミサイルって本当に当たるんですね」

 自衛隊が地上から放ったミサイルが消滅しなかった小隕石を捉えて破壊し、拡散させている。
 砕けた粒状になった隕石は粉を噴きながら半壊し、各地へ散らばっていく。
 なんとか本命の方もミサイルで撃墜してもらえないものか。

「緋村、お前の持つスペースリーガーの反重力バッドならインパクトさえさせれば跳ね返せるはずだ。タイミングだけは間違うなよ」
「ええ……大丈夫です。俺は野球は苦手でしたけど、ソフトボールで汗を流す女の子は好きなんです」
「お兄ちゃん、全然球技とは関係ない発言になってるよ」
「てか先輩、別にバッドを振るだけなら俺じゃなくてロボットとかでいいのでは?」
「緋村、細かいことは考えるな。そろそろ来るぞ」
「え、あ、はい」

 強引に話が打ち切られると、船にぬっと影が差してきた。
 雲間に太陽が隠れたのかと思ったが違う。
 迫りくる隕石によって隠れたのだ。

 空を覆いつくさんばかりの岩石はド迫力の重量感を保持しており、見る者に生命の危機を訴え、身体と心を萎縮させる効果があった。
 いや、もはや落下する岩盤といってもおかしくはない。

 プレッシャーに歯の根がかたかたと震えた。意志の力で封じ込める。
 天地がそのまま墜落してきたかと思うほどであり、それが猛スピードで地上へと落下してきている。
 先輩がガンソードを抜き、空へと切っ先を向けた。

「バリヤーッ!」
「何その呼び声、ふるっ!」

 先輩がダサい呼び声を出したので俺はすかさず突っ込みを入れた。

 それでもガンブレードは機能した。ぶんっと作動音が鳴り、見えない光の膜が膨らみながら中空に展開されていく。

 石鹸が泡立つように球形になった見えざる障壁の群れはぱらぱらと落ちてくる細かい隕石を見事に弾き返している。

「粒子砲発射ぁぁぁああああああああっ!!!」

 熱い叫び声のわりにはやることは地味だった。カチンッとトリガーが引かれるだけだ。
 それでも出現した光の膜が生き物みたいにうねうねと動き、突起ができた。
 膜の先端は急速に尖り、一筋の光線となって本命の隕石に急速で伸びていく。
 突き刺した光は減速効果もあるのか――気持ち程度に本命の隕石の速さが落ちている気がする。

 俺たち三人を覆うバリアは狭い。
 小隕石の一部が船体にドカドカと当たって穴ぼこだらけにし、甲板がぐらぐら揺れる。

「来るぞ緋村!」
「え、ええ」

 俺は返事をし、身が構える。
 のんきに毛づくろいをしていた一郎丸が再びぴょんっと俺の肩に乗った。
 我が家の愛猫は隕石など恐れていないようで、迫りくる脅威をジッと眺めている。
 猫がびびっていないのに、俺までびびっていられるか。

「お兄ちゃん!」
「ああっ!」

 奥歯を噛んで全身の筋肉をみなぎらせ、鍛え抜かれた肉体をねじり、バッドを引いた。
 ホームランを打つための構えを取る。
 脇を締め、足を振り子のように引く。

 こんなことは正気じゃねえ。
 相手はけた違いにでかくて――何メガトンの衝撃があるかって話だ。
 常識に考えてバッドで打ち返すだなんて無理だ。


 だったらさ――しゃべる金魚だっておかしいじゃねえか。


 言語中枢があんな小さい脳みそのあるわけねえ。
 我が家にきたタコがふくらむのだっておかしいし、学校にいた脳汁を吸うイソギンチャクだっておかしいし、繁殖しまくる大王イカもどきだってクソッタレだ。

 父さんが母さんと仲直りしたくて火星に向かってるのだってイカレてる。
 憧れの先輩は宇宙警察だったし、妹たちは近親相姦まがいのことばかり繰り返してる。
 そんでもって俺が強化人間だっていうんならさ。

 隕石くらい打ち返したっていいじゃねえか。
 どうか、神様。
 おかしくてもいいから。
 この馬鹿でかくてやたらと熱そうな石ころを吹っ飛ばせてくれ。

「いくぜええええええええええええええええええええええっ!」

 一本足打法からの――豪打は全身全霊の力を乗せた。
 タイミングは運任せになったが、灰色の隕石の岩壁をぶっ叩けた。
 全身に電撃のような衝撃が疾走する。踏ん張る足がずぶずぶと金属板にめり込んだ。

 腕にかかってくる隕石はずしりと重い。
 骨が砕けそうなほどの痛む。
 岩そのものをぶっ叩いたのと同質。
 腕力の限界値はとっくに超えちまっている。
 さすが全長一キロの隕石は伊達ではない。小山が落ちてくるようなものだとわかってはいたが無茶すぎた。

 全力は通じず、バッドの摩訶不思議な力のおかげか押し留めることはできたが、弾くには圧倒的に力が足りてねえ。

「きゃああああああっ!」
「おおおおおおおおっ!」

 風圧によって突風が遅まきながら吹き荒れ、先輩とクーナが舷側へと吹っ飛ばされた。
 横目で確認したが姿勢を崩してまで助けには向かえない。

 ここが正念場だ。

 歯を食いしばった。足腰が折れ曲がるのだけは許せない。
 歯茎から血液が流れるほど力を込め、震える腕を意思の力で支えた。
 スペースリーガーの反重力バッドは呼応はしてくれているようで、黄金の輝きはひときわ増している。
 どういう力かわからないが、拮抗状態を維持していられるのはこれのおかげだ。
 だが、肝心の俺が押されている。

 嫌だ。ここでしくじるのは馬鹿野郎のすることだ。
 決して、俺みたいな生まれながらのヒーローのすることじゃない。
 こんな石ころにぶっ殺されるなんてごめんだっ!

「しゃあこらあああああああああっ!」

 硬直してしまった腰を回す。
 負けん気がアドレナリンを分泌させた。
 奥歯を欠けるほどの噛み合わせ、最大限の力で俺は振り抜いた――確かに隕石を押し出した!

 ――が。

 振り終わってからの何かが足りない手応え。隕石は打ち返した。信じられないことに天へ遠ざかっていってる。
 腕に残った空虚感。
 成功したはずなのに失敗したような気分。
 何かがおかしい。ボタンがばっちりはまっていない感覚だ。決め手に欠けている。
 ああ、これは。
 宇宙までぶっ飛ばした感触がないんだ!

「あっ…」

 手に持った黄金バッドにぴしぴしと亀裂が入り、金属片となって砕け散った。
 過重に耐えきれなかったんだ。
 唯一の武器が役目を果たしたようにぶっ壊れちまった。
 隕石は巨体に似合わずふわっと浮かび上がり、空へと舞いあがったが途中でぴたりと力は失われ。
 再び俺たちの頭上へと落下してきた。

「……やべえ」

 勢いは殺したので東京湾は助かったかもしれないが――俺たちが助からない。
 なんてこった。土壇場でこれか。
 俺としたことが、ロンサムのときみたいにまたも仕損じまった。

「兄さん! ファールなんてあかん! 今度こそホームランや!」

 にょきっとヘリ甲板の縁から赤黒い巨大タコが真っ赤な顔を出し、その二本の触腕には先輩とクーナを抱えていた。
 触腕が後ろへ引かれ、勢いがつけられてクーナがぶん投げられる。

「うきゃああああああああああ」
「おおっ、ととっ」

 飛んできた妹を両手で受け止めつつ、ダンスでも踊るかのようにくるりとターンさせた。
 とんっと甲板に揃えた足がつくと、クーナは黒ジャケットをバッバッと手早く脱ぎ捨て、ネクタイを脇に退けてワイシャツのボタンを外した。

「お兄ちゃん。今回は仕方ないよ」
「まあ、しょうがねえな」

 胸の谷間に手を突っ込んだ――びくっとしてクーナは身体を強張らせたが、相変わらず凶暴なバストは弾むし、手を優しくも暖かく包んでくる。
 異次元空間に手が入っている不思議感覚はあまりない。
 ぷにっとした柔らかい触感のみが俺の脳髄を支配していく。ごそごそと乱暴に動かすとクーナはびくっと震えた。

「ふぁっ……きゃううう、お兄ちゃんのえっちぃ」
「うるせえ」

 頬を真っ赤に染めながら、まんざらでもなさそうに責めてくる。
 ようやく、指先に何か硬質なものが当たった。
 掴み取り、谷間から抜き出したのは白銀色に輝くバッド。
 ゴールドからプラチナへ。
 つかんだのヘッドの部分だったので宙で手を放して反転させ、グリップをがしっと握る。

「うぅん、やっぱり、くせになりそう」

 やばいことをつぶやいて、ぺたんとクーナはしゃがみこんだ。
 傍らに駆けつけてきた先輩は凄く白い目で俺を見ているが、あえて見ないように努力した。
 今度のはミーナの手作りなので折り紙の銀紙がツギハギで貼ってあるだけだった。

 隕石は既に顔まで迫っていたので、効果に疑問を持つ余地もなく、下からすくいあげるようにように俺はバッドを振った。

 今度こそ、完璧なフォームと手応えを手にしてやる。
 すると――インパクトした瞬間。
 今度はバッドはぴたりと隕石に吸いついた。

「う、おっ!?」

 破壊の感覚は伝わらず、鳥もちをくっつけたみたいな触感に戸惑っていると足が浮いた。
 グリップをこれでもかと力を込めて握っているせいで外すという考えが湧かなかった。
 にゃあああん!
 それまでずっと黙っていた一郎丸が肩から飛び跳ね、俺の手をひっかいた。

「いってっ!」

 痛みの条件反射でバッドから手が離れる。
 グリップエンドからジェット機が出す炎みたいな白炎を吹き出しつつ、ぐぐぐっとなんらかの作用で垂直になったかと思えば巨大隕石を押し出していく。

 あっという間に隕石は遠ざかり、空の彼方と消え、きらりと光る星になった。

 ――あれ。
 ちょっと待てよ。
 今のって俺、いらなくね?
 最初からミーナの予備バッド投げればよくなかった?

「よかったっ! お兄ちゃん。一郎丸に感謝しないといけないね」
「……ああ、うん。よかった……かな?」

 俺の心にわだかまりは残ったが危機が解決したことは喜ばしい、よな……?
 ぺろぺろと肉球を舐める一郎丸は事態がまるでわかっていないように身体を低く伏せて丸まった。
 頭をなでなでするとご主人様と同じようにごろごろと喉を鳴らして気持ちよさそうにする。
 もう一人の妹、ミーナも俺を護ってくれたことは間違いない。

「お手柄だぞ、テッチー」

 骸骨仮面を脱ぎ、ハンカチで汗をぬぐう先輩の祝福は心底、ありがたかった。
 肩をつかまれ、引かれる。
 ぐらついている内にちゅっと頬にキスされた。
 感触に戸惑いながら頬に手をあてるといつも仏頂面の先輩が俺に初めて満面の笑みを見せてくれている。

 あぁー!! とクーナが金切り声で叫んだが、おかげさまで俺はそれなりにいい気分になることができた。
 ああ、そう、悪くはない。
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