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本編
ep08_3
しおりを挟むさすがにエドアルド殿下に案内していただくわけにはいけなかったけど、許可はもらったもんね。護衛のみんなに案内してもらいながら、ギリアロさんの執務室に向かう。
なんだっけ? ええと〈晶精技術認可省大臣〉?
なんとなーくだけど、日本でいうと特許庁的なのかなって思ってる。けど、正確にはもちろんわかってない。でも大臣だからね。エラいひとのはず。
実際、あたしが召喚されたときに部屋にいたひとって、全員エラいひとだったっぽいしね。あそこにいただけでスゴいひとって認識はしてるんだ。
一緒に過ごしてるときは、ただの面倒くさがりなオッサンだけどね。ふふ。
ギリアロさんの仕事場はお城の東のほうだった。工業地区に比較的近い場所にあるってことで、連れて行ってもらう。
さすが〈鉄と鋼、そして空の街〉の大時計城ってだけあって、城に直接、晶精研究所とか工場みたいなところがくっついてるんだよね。さらに東には、めちゃくちゃおっきな船渠もあるみたい。
東に歩いていくだけで、なにかを作る金属音が大きくなってわくわくするね!
そういえば、工業地区の方は自動車で行くのは大変だからって、まだ連れて行ってもらってない。
だから城内ではあるけれど、物作りしている現場ってはじめてだ。工場見学みたい。
で? ギリアロさんの執務室は? って、きょろきょろしながら歩いていたらようやく辿り着いた。
城の内廊下に入ったら、音はかなり小さい静かな場所。
行き交うひとも全然いなくなった奥まった部屋。
へぇーっ、どうやらここが、ギリアロさんの執務室っぽい。
「あの。愛し子さま、どうか、ノウト閣下を咎めないであげてくださいね」
「ん?」
どゆこと?
あ、ノウト閣下ってのはギリアロさんのことなのはわかるよ。護衛のひとりがなにか訴えてきてるけど、なにかまずいことでもやっているのだろうか。
ちなみにあたしの護衛は、エドアルド殿下の推薦のひとが半分、で、もう半分がギリアロさんの推薦らしいから。ギリアロさんとも面識ある兵隊さんのはずなんだけど。
護衛のひとりがギリアロさんの部屋をノックする。
晶精の愛し子さまがきましたー、って伝えてくれてるんだけどさ。
なかからギリアロさんの驚くような声と、誰かが笑うような声がして――でも、なかなかドアが開かない。
「ギリアロさーん! チセです。入りますよー!」
「は!? マジかよ!?」
めちゃめちゃ驚いてるね。
なんだかなかからバサバサーって、物が崩れるような音がして――。
んんん、大丈夫!? なにかあった!?
そう思って、あたしはあわててドアを開ける。
「バッ! まっ……!」
待てって言おうとしたんだろうね。
でももう遅い。ドアの向こうにいたギリアロさんと目があって――絶句する。
「ん!? けほっ、けほっ……!」
開けた瞬間に舞い散る埃。――てか、めちゃくちゃ空気が澱んでいるんだけど。
わっ! なにこれ。
ずっと窓しまったままの図書室のニオイを濃くした感じ。
ギリアロさんってば、執務机の奥にある窓際のソファーに寝っ転がってて、体を起こした瞬間に、左右に積んであった書類の山が崩れたみたい。
本棚に入りきらないくらいの大量の本と書類、それからなにかの模型とか、機材とかが大量に放置してあって。しかも長く使ってないっぽいものも多い。
かろうじて、部屋のすみの作業台っぽい机の上にわずかなスペースはあるけれどさ。真ん中の執務机も完全に物置になってない!?
お昼ごはんもってきてここで食べたのか、食べたお皿も放置したまま。
ギリアロさんと――あ、顔は見たことあるな。……ええと、補佐官のマーキさんとかいうおにーさんも一緒にいたみたいだね。さっきの笑い声は、マーキさんの声だったのか。
埃がいっぱい積もっていて、掃除もまともにしていないお部屋。
これ、大臣の執務室? ってついつい言いたくなる散らかしっぷりに、あたしは目を丸めた。
ってか、頬が引きつっていたかもしれない。だって、脱ぎ捨ててる服とかもあるよ……? なにこれ正気???
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