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本編

ep10_side Gillialo 2

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「私が君を呼び出した理由は、わかるかい?」
「愛し子のことでしょうが……」

 大時計城、真鍮の間――つまり、王太子エドアルド殿下が、個人的に使用するための部屋だ。
 俺はそこに呼び出されたはいいものの――案の定、めちゃくちゃ楽しそうなおもちゃを見るような目を向けられて、怯む。

 はああ……殿下といい、チセといい、俺で遊ぶのは本当に勘弁してほしい。チセもわかっていろいろ仕掛けてきやがるからな。……まあ、かわいいとこもあるが、厄介だ。

 座り心地のいいソファーに座って、向きあったまま殿下と話をする。
 香りのいい紅茶を口にふくんだところで――。

「まだ初夜を済ませてないようだね」
「ぶっ! ……ん、ぐ。ごほっ、ごほっ!」
「あははは」

 くっっっそ! タイミング見計らってやがったな。マジで俺で遊んでるじゃねえか!
 あーもう、気管はいった! チクショウ!!

 …………くそ、巷ではいろいろ噂が飛び交っているようだが、さすがにエドアルド殿下は事実を掴んでるってか?
 まあ、あの部屋の清掃・管理担当してるヤツらが、逐一報告いれてても不思議ではないからな……。

「お言葉ですが殿下。私は、一時的に彼女を預かっているだけです。儀式の時に選んだのも、まちがいかもしれませんし」
「そうかな? お似合いだと思うけど?」
「…………そもそも、私はこの国の者じゃあありません」
「晶精の愛し子の伴侶に、出身は関係ないんじゃないかな」
「それでも。私は彼女に相応しくない」

 年齢のことももちろんそうだ。
 俺は彼女よりも16も年上。つまり、それだけ早く死ぬということだ。
 年が近いにこしたことない。それは誰だってわかるはず。

 それに、チセはあんがい世話焼きで、自分の部屋でも、俺の執務室でも、すぐに俺の世話を焼きたがる。
 でも、アイツが街を出歩くようになってから、エネルギー抽出率とエネルギー効率が上がってるっていう報告が出てきているんだ。確実に、数値になって表れている。
 つまり、アイツには他にやるべき事がいくらでもある。
 俺の世話を焼かせてる場合じゃねえんだ。

 ……俺だって気がついている。
 アイツといるのは居心地が悪くねえ。
 でもそれだけだ。一緒にいて邪魔じゃねえし、話していて楽しいと思える数少ない人間であることももう気がついている。
 でも、アイツは俺の手にあまる。

「私は、いつこの国を出ていくかもわからない人間です。むしろ、今出ていくべきなのかもしれません。これ以上、彼女を俺に縛りつけないために」
「なぜ?」
「……」

 ひとところに留まるのは、面倒だ。
 なにも、懐に入れたくない。
 大事なものをもちたくない。
 誰の記憶にも残りたくない。

 ああ、空の晶精王よ。
 どうか、人々の記憶から、俺の居た場所ごと忘れ去られますように。


「あなたは知っているでしょう」

 俺はもともと、晶精機器が好きで、研究も好きで、ここにいたら興味のあるものに適度に関われて、戦争なんて忘れて適当にのんびり過ごすこともできて――この国には、居心地がよかったからついつい長居しちまっただけだ。
 もっと早く去るべきだった。
 そもそも、晶精眼の戦闘機ヒコーキ乗りだなんて、面倒ごとを呼ばないはずがないのに。

 元はつくが、戦闘機ヒコーキ乗りの傭兵なんてただの人殺しだ。
 戦闘機を使って敵を殺る。
 馬鹿馬鹿しい戦争が終わるころには、俺はもうこの眼の力は失っていたけれど――馬鹿みたいにいろんな国から誘われたもんな。
 金と地位はどこの国でも約束された。
 俺がたまたまこの国を選んだのは、殿下と話が合ったからだ。

 俺は戦闘機乗りを引退し、好き勝手やらせてもらう。その約束だって殿下は守ってくれた。
 意外と他の才能もあるんだな、なんて笑ってよ。
 俺は設計図をひくのも見るのも得意だったからな。家を買って、好きなものに囲まれて――でも、俺はひとところに留まるのが得意じゃなかったから。……たくさんのものを持つのは上手じゃなかった。
 たった一機の戦闘機ヒコーキだけだ。
 戦闘機以外、どう大切にしていいのかわからない。

 目は霞み、世界が色あせていく。
 最初はこの国での生活が楽しかったのに――持つことが、いつまでたっても上手になれない。

 こんな俺だ。
 おそらく、チセのことも大切にしてはやれないだろう。

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