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本編

ep20_5

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 そしたら、船のなかにブゥン……って通信音みたいなのが聞こえてさ。
 操縦席の方だ。無線? 拾ったかんじ?
 どういう仕組みかわからないけど、通信がつながって――、

《チセ! そこにいるかっ!?》

「! ギリアロっ!!」

 大好きな旦那さんの声が聞こえてきて、あたしは叫ぶ。

「ムダだ。こちらのマイクはつなげていない」
「っ……!」

 でも、ヴィリオに容赦のない事実を告げられた。
 ただ、電波に似たなにかから、外からの通信音声を拾っているだけみたいだけど――、

《いるんだな!? 待ってろ、すぐ助けるっ!!》
「!?」
「なぜだ!? なぜつながるっ……!」

 あたしの声、ちゃんとギリアロの機体に届いたみたいで、船内が騒がしくなる。
 でも、あたしにはわかった。
 きっと、晶精だ!
 この通信システムにも、晶精の力が使われているはず。だから、あたしの声を届けてくれた!


 ばばばばばば!

 相変わらず銃声は途切れない。でも、当たった音はしないから大丈夫なんだと思う。
 ぎゅうううってこの船も大きく旋回し、速度を上げる。
 かなり速いスピードだけど、ギリアロはちゃんと追ってくる。というよりも、ぐんぐん近づいてきているみたいで、遠くからエンジン音のようなものが聞こえた。

《チセ、お前さん、どの位置にいる!?》
「いちばん後ろ! センターよりのっ」
《わかった……!》

 ばばばばばば!
 相変わらずけたたましい音で耳がどうにかなりそうだけど、ギリアロの声があたしの気持ちを支えてくれる。
 でも、あたしがギリアロと会話するのをヴィリオが黙って聞いてるわけがなかった。ひとり操縦席を立ち上がり、慌ててこちらへやってくる。

「や! やめて……っ!! ん、ンン……っ」
「黙れっ!」

 胸ぐらをつかまれ、口もとを押さえられる。でも、この声も通信はひろった。

《チセ!? ティーガ、やめろっ!!》
「ふっ……あはははは!! 追っては来られても、手が出せないか」

 ヴィリオもその事実に気がついちゃったんだね。めちゃくちゃ悪い顔して、高笑いしてる。

「諦めろ。この娘は私が――」

 あたしを羽交い締めにして、動けないようにしたところで――――もう一度、船に異変が起こる。

 がくん!
 船が大きく揺れ、音を立てた。

「ヴィリオさま、大変です!」
「今度はなんだ!?」
「船の……燃料が……っ!!」
「!?」

 操縦席にいた男たちが焦って声を上げる。

「燃料が、勝手に減っていきます! 晶精エネルギーが……!」
「20%を切りました! 18、17、16……なんてスピードだ……!」
「ダメです、このままではすぐに、空中で燃料が……あっ……!!」

 がくっと船が揺れる。あたしとヴィリオは折りたたまれるようにして後ろの壁にぶつかった。
 船内のランプが点灯する。動力を失った船は、どんどん速度を落としていく……!

 これってもしかして……って、あたしだって思う。
 晶精が、あたしの気持ちに反応して、動いてくれた――!

「まずいです! いつ墜落してもおかしく……!」
「逃げないと……!」

 でも!
 ちょっとこの状況はないんじゃないかな!?
 だって、こんなの、あたしだって死ぬよ!?

「やだ! ヤバい、ギリアロっ……!」
《どうした!? なにがあった……!?》

 かろうじて通信はつながっているけど、これもいつまでか。

「晶精が――」

 ヴィリオ以外の男たちがあわてて緊急用の――たぶん、パラシュート的なものを身につけはじめた。ヴィリオもまた立ち上がり、彼らにつづく。
 でもあたしはまだ手錠がそのままで、立てないでいて――。

 ばつん!!

 船内のメイン照明が消えた。通信も、完全に切れた!
 パニックになった男たちのうちのひとりが、かろうじてハッチをあける。

「ちくしょう!!」

 そしていっさいの躊躇なく男たちが脱出していく。

 いやいやいや。
 まって、さすがにちょっとまって! そう思うのに、ヴィリオまでもが脱出準備をして、あたしのほうを見る。

「……貴様のせいかっ」

 その表情には迷いが見えた。
 つまり、連れていくべきか、やめるべきかっていう。

 いやいや、ちょっと待って!
 さすがにあたしも死ぬのはごめんだよ!? そう思うのにさ。
 脱出用のパラシュートてきなのにも、もしかしたら晶精の力が使われているのかもしれない。あたしを連れて飛べるかどうかを考えたんだと思う。
 ヴィリオはわなわなと震えて、あたしと、外を交互に見る。

 けれど、このままじゃ飛行機は墜落する。
 あたしは、どうにかして助けてほしくて、這うように前に進んだ。瞬間、恐怖に弾かれるようにして、ヴィリオがあたしの前から姿を消して――、

「やだ! まって!!」

 船にひとり、取り残された。手を枷で繋がれたまま!
 かろうじて船はいきなり墜落することないっぽい。いやでも、あたしは素人だから、これからどうなっちゃうのか予測すらできないもんっ。
 けれど、コックピットの光が点滅して、あきらかにおかしな動きをしている。
 このままじゃ、船と一緒に死んじゃう! でも、手は枷でつながれて――緊急用のパラシュートも残ってない! 残ってたところでどうやったらいいかもわかんないけどさ!
 晶精さん、お願いだから助けるならもうちょっと手段を考えて!?

「やだ、ギリアロ……っ!」

 通信はもう繋がっていない。あたしの声は届かない――なのに……!


 ――セ!

 声が聞こえた気がした。
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