【R18】処刑されるはずが、目覚めたら敵国王子の推し活包囲網にとらわれていました

浅岸 久

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実質、初夜なのでは?(1)

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 領都ライラスへやってきて2日たっぷりと休ませてもらい、翌日。

(なんだか、ノルヴェンに来てからずっと寝ている気がする……)

 それもこれも、ことあるごとに魔力が枯渇するせいだ。
〈命脈〉に干渉した影響は1日寝たらなんとかなったけれど、万全の態勢にするまでにはもう少し時間がかかりそうだ。
 以前はどれだけ魔力を使っても枯渇することなんてなかったから、残魔力量を気にしたことなんてなかったけれど、これからは違う。いつ〈命脈〉を調整することになっても大丈夫なように、無駄遣いしないようにしなければ。

 ということで、2日ゆっくりしたあとは、この領地に関する勉強をはじめることとなった。
 丁度そのころにはこの領地にある残りふたつの〈命脈〉の調査報告も上がってきた。
 領都ほどではないけれど〈水脈〉が強く出ていたため、所属する青の神子が調整してくれたのだという。いずれ、私が〈火脈〉も整えたいところだけれど、ひとまず陛下への連絡が先ってことで、当分は領都に留まることになりそう――なんだけど。


 今日はメリルが城内を案内してくれることになり、部屋の外に出て気がついた。
 城内がざわついているというか、浮き足立っているような雰囲気がある。

「ライラ様がいらっしゃってからずっとよ」
「本当に助かるわ。東の森の方に、ユラルリの花が咲いてたって」
「ええ、本当に? いつぶりの春かしら……!」

 ユラルリの花と言えば白にほんのりと青みが差した可憐な花で、別名春呼花ともいう。雪の代わりに大地を白く染める様は、神話にも登場する特別な花だ。
 この花を見るたびに、ノルヴェンの人々は長い冬の終わりを感じるのだそうだ。

(よかった……! 〈火脈〉を調整したかいがあったわね)

 おしゃべりの邪魔をしないようにすっと彼女たちの横をすり抜け、窓の外を見た。

 空は青く晴れ渡っていて、先日までの雪雲が嘘のように消えている。この地の人々は、もう長らくこの青を見ることはなかったらしい。
 喜びの声が満ちる城内を、少しくすぐったい気持ちになりながら歩いていく。

 力は随分と弱くなってしまったけれど、それでも十分役に立てる。その事実を実感し、私自身口元が緩むのを止められなかった。

(ひとつひとつ、頑張っていかないとね)

〈火脈〉を調整する以外にも、出来ることはあるはず。
 現金なもので、ひとつ成功したら色んなことが上手くいくような気がする。
 私はこの地のために頑張って、アーシュを幸せにするという目標があるのだ。今日から早速、色々動いていきたいと思う。

 気持ちを新たに、辺境領での生活が始まったんだけど――。





 ――1週間。
 ある程度采配を任せられて自由に動いていいとなると、やりたいことは山積みだ。

 学びたい、といえば教師を手配してくれるし、お願いした領地に関する資料もどんどん届く。貴族関係のやりとりはアーシュにまるっとお願いしているけれど、時間がいくらあっても足りない。
 魔力の無駄遣いを極力避け、しっかり回復に注力しながら、勉強する日々だ。

 髪や瞳の色彩は魔力の回復とともに、ほんの少し赤みが戻ってきたような気もする。
 ほんのわずかな変化だから、いまいち実感はないけれど、真っ赤になったらそれはそれでコトだ。しばらくは観察を続けようと思う。

 ……ただ。
 たまにだけれど、アーシュとも斥候とも違う不思議な視線みたいなものを感じるのだ。

(害意はなさそう、だから放置でいいのかな……?)

 深く気にしてはいけない。私の直感がそう言っているので、放置するとして。
 やりたい仕事や勉強を全部させてもらえるというのは幸せなことで、充実した毎日を過ごしている。

(イッジレリアだったらこうはいかないのよね)

 私に勉強をしてもらったら困るという人間が一定数存在した。
 まともな教師は派遣されなかったし、学びたいことがあれば、隠れて図書館へ侵入して文献を読みこむか、市井で生きる専門家に直接学びに行っていた。
 あれはあれで楽しかったけれど、今の環境は理想的だ。知識欲が満たされていく楽しさに、ついついのめり込むようになって勉強を続けていた。

 ――そうして夜。
 すっかり寝支度を終えてから、私は自室の資料が山積している机の前で、明日以降のスケジュールと睨めっこしつつ、ううんと考える。

「明日は城下町に出る予定だから、明後日にはもう一度〈命脈〉の確認をしたいわね。メリル、アーシュの許可を取っておいてもらえるかしら?」

 スケジュールの空き時間と睨めっこしながら、メリルに声をかけるけれども返事はない。
 あれ? メリル? と思って振り返ろうとした瞬間、ふっと、目の前に大きな手の平が差し出されたことに気がついた。
 それを目で追うと、私の予定一覧がサッと奪われる。
 え、何? と思った瞬間、後ろから声がかかった。

「ライラ」

 低い、声だった。
 とってもとっても聞き覚えのある――名目上の婚約者と言うべきか、夫と言うべきか、どう称するべきかいまだに悩んでいる人の声だ。

「今日も、このまま仮眠だけとるつもりなのか?」
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