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実質、初夜なのでは?(3)
しおりを挟む「え、っと。それは――」
こうも真っ直ぐ誘われると、私の方も体温が上がる気がする。
嫌なわけじゃないのだ。もう一度は身体を重ねているし、私だって覚悟はしている。
(アーシュのこと、嫌いじゃ、ないし……)
というよりも、どちらかと言えば好ましいというか。
こうして真っ直ぐ見つめられてドキドキするし、甘い言葉にすぐに心が浮き立つ。その本心こそわからないけれども、私は、彼に恩義を感じているし――きっと彼と過ごしていくことで、もっと好ましく思えるようになる、という予感すら感じている。
正直、ここ数日のめり込むように勉強をしていたのは、距離を計りかねていたからだ。
近付きすぎて、うっかり気持ちが育ってしまったら、もっと落ち着かなくなりそうだから。
多分、私は彼を好きになる。その予感と向き合う時間が欲しかったというか。
「その、ええと――」
でも、身体を重ねたいと言われたら、拒否する理由などない。
(……ちょっとだけ、怖いけど)
一足飛びに、彼のことを好きになってしまいそうで。
でも、答えは決まっている。
「――――ぅん。いいよ?」
そう言うなり、再び彼の唇が落ちてきた。
彼の大きな手の平が私の胸に到達し、一度、二度と揉み拉く。
「ん、ぁ……」
か細く息が漏れるも、すぐにがっちりと唇を覆われてしまった。
そのまま舌が侵入してきて、歯列を丁寧になぞってから、上顎のボコボコしたところを嬲る。舌の動きが脳に焼き付くように意識をかっ攫い、私は彼に縋りついた。
「ずっと、君に触れたかった」
そうしたら彼が、安心するように息を吐くから、少しだけ肩の力が抜ける。
彼は私が逃げないのを確かめるように胸元に顔を埋めた。艶やかな黒髪が撫で放題になったから、それを遠慮がちに梳いていく。そうするうちに楽しくなってきて、髪から彼の背中の方へ指先でなぞっていくと、擽ったそうに呻いた。
(あ、可愛いかも)
なんて。
最強辺境王子に何を考えてるんだって感じだけれども。
「ライラ、愛している」
彼の誠実さからくる真摯な言葉をぶつけられ、私は戸惑った。
本物の気持ちではないとは思うけれど、妃に対してかくあるべき、な言葉を彼はくれる。
私はと言えば、つい、その言葉を本気にしそうになってしまい、嬉しさと恥ずかしさで胸の奥がぐずぐずになる感覚が落ち着かない。
(本当は、同じ言葉を返してあげた方がいいんだよね……)
でも、どうしても口に出せなくて、私は微笑みを返した。
もうちょっと、気持ちが整理できるまで待ってほしい。きっとそのうち、私だって、嘘でもなんでもその言葉を口にできるようになると思うから。
「――ん、ありがと。アーシュ」
だから、今は。
この身体と、感謝の気持ちなら差し出せる。
いくらでも好きにしていいよ、と私は微笑んだ。
厚手のネグリジェを捲り上げられ、くすぐったさに私は睫毛を震わせた。
私が受け入れたことで安心したのか、アーシュは幸せそうに微笑み、再びキスを落としてくる。
(ええと、ええと、私、どうすれば……?)
初めて身体を重ねたときは、状況に流されるしかなかった。自爆の首輪のことも気になって仕方がなかったし、言わば、今回の方がよっぽど初夜っぽいというか。私が覚悟を決めてはじめてのエッチ、というわけだ。
彼と身体を重ねるのは吝かではない。
というよりも、彼と夫婦関係を構築するにあたり、私が前向きであるということを示すべきなのだろう。
(閨教育、一応、受けるには受けたけど……)
国外に出されることはあり得ないと思っていたし、そもそも、まともな結婚なんて出来る気がしていなかった。イオネルの血が入ったどこかの貴族の後妻あたりに適当に宛がわれ、いいように使われるのが関の山だと。
なので、こうも優しく、愛おしそうに触れられると調子が狂うというか、ドキドキして落ち着かなくなる。
なんて、頭の中でぐるぐると混乱しているうちに、すっかり衣類を引っ剥がされてしまった。
「ん、ぁ…………っ」
彼は私の胸やお腹に触れながら、たくさんのキスマークをつけてくるけれどもちょっと待ってほしい。だって、私ひとりだけ裸というのはすごく恥ずかしい。
「っ、アーシュ」
だから彼の服を袖をキュッと掴んだ。
身体を起こし、彼のナイトガウンの紐を解いていく。
「っ!?」
その行動がよほど意外だったのだろうか。アーシュは片眸をこぼれ落ちそうな程に開けて、私の手を凝視した。
「えと、あの。私だけじゃ恥ずかしいから、あなたも……駄目、かな?」
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