ぐみたんは覚えていない

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 広い広い空に、まずは小さな『地』を作る。
『王様』としての初仕事。
『闇』は元より『無』から在り、何も見えない事を危惧した王様は、後に『光』を作ります。
次には『水』を作りました。
そして『植物』が作れるようになりました。
更に『風』が産まれた頃に『精霊』と言う存在が産まれました。
この『王様』は謂わば『精霊のはじまり、生命体の祖』とされたが故に『精霊王』と呼ばれる事になりました。
精霊王は精霊の次に『動物』を創りました。
これは最初の『島』のできあがり。
同じ物を作ります。
幾つも幾つも作ります。
大きい物も小さな物も。
精霊王は最初はバラバラだった島々を、枝葉を集めるように束ねて一つにまとめます。
外から見ると、それは一本の大樹のように見えました。
これが世界を構築する樹である『ユグドラシル』の始まりです。
そうして生命を創った精霊王ですが、唯一産み出す事を出来ずにいたのは『人間』でした。
何故ならば精霊王は『人間』を知らなかったのです。
見た事もありませんでした。
聞いた事もありませんでした。
お友達の女神様が言いました。
「それでは私が創りましょう」
沢山沢山創りました。
精霊達は魔法が使える者が殆どでしたが、『人間』は最初から魔法が使えません。
ですがユグドラシルには魔力が満ちていて、生物全てが存在しているだけで魔力が体内に自然に送られています。
勿論それは『人間』も同じでした。
やがて『人間』は、枝を丸太に擦り付けた時に生まれた摩擦から『火』を見付けました。
ですが『人間』は他の生命体よりも少しだけ魔力が少なく、足りない魔力を食事で補って生きていました。
そして『人間』は精霊達から魔法を教わる代わりに技術を産み出して、それを精霊たちに与えました。
象(かたち)がなかった精霊達はしだいに『人間』の象を真似るようになります。
そうしてユグドラシルは全ての種族が共存する世界になりました。
そこから各島々は人間や精霊達と協力しあい、独自に発展していきました。
精霊王様と女神様は今でも、これからもずっと、ユグドラシルの何処かにあると言う『ヴァルハラ』から生物達の営みを優しく見守っています。
これがこの世界における『創世記』として永く語り継がれているのでした。
そうして刻は流れ続けます。
歴史は積み重なっていきます。
争いもありました。
苦しみもありました。
されど精霊王と女神は只そこに在るだけで世界を継続させ続けました。
それを『加護』として世界は在り続ける代わりに、精霊王と女神は自身の力が失われ続ける事を代償に世界を存続させ続けていました。
穏やかに。
緩やかに。
二体の創世神は世界を見続ける事しか出来ませんでした。
それでも創世神達は世界に生命が在り続ける限りは幸せです。
ならば果たして生命体達はどうか。
大抵は自身が生きていられるならばそれだけで幸せなのだと無意識で知っていました。
創世神が失われたら自身も滅びる事を識っていました。
ですが。
五百年前に紅の光が精霊王の生命を奪う寸前だった出来事がありました。
その光は一人の『人間』がもたらした物です。
何故『人間』の所業だとわかったというと、紅の光は『GDS-1』と呼ばれる物で、これは精霊達と人間達の叡智を組み合わせた『騎兵』と呼ばれる物の中でも『人間』と精霊の科学と知識、魔力が融合して『生きる』機械兵士であったからです。
中でもこの『GDS-1』と呼ばれる機械兵士は『魔力の高い人間』にしか操れぬ物でした。
それは紅い閃光の如く雷の如く光を音を、そして時空を切り裂いて精霊王の喉元に刃の切っ先を向けました。
これは世界の滅亡に肉薄した出来事です。
寸での所で凶行は女神により防がれました。
それを引き起こした『GDS-1』は、後に『凶紅星(きょうこうせい)』と呼ばれます。
そして追い討ちのように真っ二つにされた『凶紅星』は墜ちました。
少しだけ詳しく言うと、コックピットと本体は切り離されて別々に墜ちたのでした。
それぞれが墜ちた場所は未だにわかっておらず行方不明のままです。
果たしてその『人間』の罪は重く、周囲は次第に『人間』への不信感や嫌悪感を募らせていきました。
それがまだ一部だけに留まっている間、ある日、本当に突然に─────『人間達』は。
『人間』の産みの親である女神の嘆きと哀しみと苦しみによって全て。
地上へと追放されたのでした。
この時に女神も自らの身を地上に投げ出し、地に叩き付けられるようにして粉々に砕け散ったと言います。
果たして『ユグドラシル』に生きる人間以外の生命体によって、世界の破滅を導く存在は『凶紅星(きょうこうせい)』と名付けられ、脅威が去った後もその名だけは深く深く歴史上に刻まれたのでした。
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