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男となった白井修也

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 シュウはすぐに行動に移した。
 今回の作戦に際していくつかのグループを作成した。
 まず、新メンバーとドレイク、ラッシュ、更にアイカ達騎士団を加えた素材回収チームだ。
 新メンバーのレベル上げも兼ねているので一応の安全も考慮してアイカ達にも協力を仰いだ。
 元々、エネミーの間引き作戦があったのでそれに便乗する形だ。

 そこから取れた素材と在庫の素材を駆使してマナとカナはギルドに残り武器や機体のオート強化に励んでいる。
 今回のオート強化には月光のフルスペックを注ぎ、マナとカナで可能な限り上限を上げる。
 オート強化にも成功率等が存在しマナとカナは自分達で100%になるようにオート強化を繰り返す。
 もし、90%等が出ればそこで打ち止めだ。
 その後はマナとカナは準備してオート強化実行ボタンをリオに委ねる算段だ。
 リオの因果力があれば、1%の成功確率でも100%に出来るので更なる限界値に挑む事ができる。
 
 ただ、リオには現在、別件で月に行って貰っている。
 その理由は簡単でリオが管理するエンパシーを作戦区域になると想定される宙域まで輸送する事だ。
 そこにはボイドセクターも随伴しておりその助けもあり現在、月と惑星の丁度中間地点まで艦を輸送している。
 輸送後は地上に戻り、カナ達に協力するのだ。

 そして、シュウと護衛のリリーシャは作戦の為の下準備を行う為に方々を回っていた。
 まずは“荒廃の文明”の新潟基地にいるユウキ准将だ。



「突然の訪問、申し訳ありません」

「いえ、あなた方は有益な協力者です。こちらとしても無下に扱ったりはしませんわ」



 ユウキは表面的には丁寧に接していたがくまで表面だけだった。
 その態度からしてこちらがユウキの裏切りに気付いていないと思っている。
 恐らく、他世界の因果を読み、近くに配置した思考リーディング装置によってそのように思い込んでいる。
 だが、こちらへの警戒心は発露している。
 だが、あいにくシュウは常時因果魔術を駆使して偽りの因果情報をユウキに流し込み、思考盗聴系もこちらの言う事が全て本当であると思い込むように仕組んでいる。
 何の隙もないのだ。
 
 ユウキと言う女はそう言った能力に依存して本人そのものが人間の思考予測と言った能力が低い。
 それらの能力を過信している故に人の本心を何も理解していない。
 外だけ天才を気取った愚か者に過ぎない。
 故にシュウの話がどれだけ超越したとしても「自分は因果を見て本質を見ている天才だ。俗人ではない」と言う思い込みでこちらに有利な状況を作る事でできる。



「実はですね。近日中にNOの世界でスフィアクリーチャーを産み出した根源悪のような存在が召喚されます。」

「根源悪ですか……」

「えぇ、この討伐に成功したなら、あなた達はスフィアクリーチャーへの脅威を払拭できるでしょう。その為にあなたの力を借りたい。」

「と言いますと?」

「あなたの論文は読ませて貰いました。大変、興味深い研究をしている。だとすれば、用意は出来ていますよね?人類を救う為に造った因果律量子決戦兵器……他の世界の因果を読み取り最適解を導く兵器。その力を振るって欲しいのです。」

「……驚いたわ。あの論文はわたし以外に理解できる人はいないと思ったわ。そこまで理解した上でわたしのその兵器を完成させていると?」

「十分に可能でしょうね。それともそれすら造れないほどあなたの天才の称号は矮小だったりするのですか?」



 シュウは完全にユウキを煽った。
 ユウキと言う女は自分が天才だと思い込み、自分が人類のカースド上位に来る人間であると言う自負心がある。
 故に自分が「人類にとっての救世主的な聖母願望」が強く潜在的に因果を読み取れる自分に対して愉悦を抱いている。
 それ故にチョロイ。
 シュウが付けたコンタクトレンズを介して既にこの女が“ユウキ ユズ ココ”である事を証明されている。
 だからこそ、ユウキは決まったパターンしか取れない。
 なので、これに対する回答も既決する。



「良いでしょう。スフィアクリーチャーを倒す事は我々の本懐です。人類の存続を考えるならここで戦力を出し惜しみすべきではありません。」

「ありがとうございます。」



 予想通りだ。
 この女は「人類の存続」=「聖母の救済」と考えておりその本性のままに動いた。
 後は他世界の因果情報を読み取り、思考リーディング装置にシュウが嘘をついていない事を確認して同意した。



(全く、こうも簡単に乗せられるとは、本当にチョロイ女ですね)



 シュウとしては他にも反論された時の大作や疑問点を付かれた時の対策等を多重に用意したが、それを使うまでもなかった。
 理智的に見えて、この女の本質は貪欲を叶えようとする獣と大差ないと言う事だ。



 ◇◇◇



 新潟基地を出たところでシュウの背後から抱き着く者がいた。



「パパ!終わったよ!」



 それは天真爛漫でまるで天使のような笑みを浮かべるルオの姿だった。
 シュウは抱き着いてルオはそっと地面に置くと頭を撫でた。



「よくやりました。偉いですよ。」



 シュウも心なしか微笑みを浮かべた。
 終焉の女神が現れる前にシュウとルオは真剣に話合った。
 結果的にルオを諜報員にする事をシュウは承諾した。
 ルオがそれを生き甲斐にしているのにそれを殺すのも忍びなかったからである。
 遠回りになってしまったがGC諜報部はこれを皮切りに本格的に稼働する事になった。
 なので、今回初任務としてユウキとの会談の最中、ルオを使って新潟基地に侵入しユウキが保有する因果律量子決戦兵器に細工を施した。

 ルオの潜入能力とGC製ハッキングツールなどを駆使して見事に細工は成功した。
 彼女も晴れて諜報員となった。




「ケガとかはありませんか?」

「うん、ないよ」

「そうですか、良かった」



 微笑ましいシュウを見てリリーシャが口を開く。



「シュウでもそんな顔をするんだな」

「……そうですね。自分でも少し驚いていますよ。わたしも色々と変わったのかも知れません」



 NOを始める前、シュウは一生独身で障害を終え、誰とも関りを持たず、ソロプレイで過す事を目指していた。
 結果的にそれは叶わなかった。
 だが、それでも良かったと思う。
 それよりも勝った結果になったのだ。
 多くの仲間が出来、娘もでき、クソゲーだと思った世界に自分の意志が干渉できるまでになった。
 これ以上、望む物はないと言いたい程に……だからこそ、思う。
 
 この全てを守る為に必ず復讐は果たさないとならない。
 復讐を果たさず逃げ続けてはいつか、“理不尽”により全てを奪われる。
 ルオの顔をみて改めて決心した。



(わたしはどんな事をしても……どんな犠牲を払っても必ず、仲間を……家族を守って見せる!)



 そこにいたのは少年の白井修也ではなく男となった白井修也の姿があった。
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