29 / 100
1章
28
しおりを挟む
「ジル?」
答えられずにいると、フェリクス様はなにも言わない俺に不思議そうに顔を覗き込んでくる。
大した質問ではないのに、一つも答えが見つからない。なにかを答えなければ、と発する言葉も決まらぬまま口を開けて、そのまま閉じて。再び口を開いて視線を彷徨かせて、なにか、と今までを思い起こす。
「あ……」
あった。自分でも驚くくらい美味しくて優しい味がしたもの。
あの時、ノア先生が、アレクサンドルが食べさせてくれた
「りんご……が、すき」
お菓子ではないけれど、今まで食べた中できっと一番美味しかったもの。
「わぁ、一緒だ!ぼくもりんご大好きなんだぁ。今日はアップルパイもあるみたいだから、ジルに一番大きいのあげるね!」
ただ一言を答えただけ。なのにフェリクス様はパッと表情を輝かせて、心底楽しそうに笑いながら言った。
まだ多くは食べられないから、食べられたとしてもタルトかパイかのどちらかになってしまうだろうな、と考えながら頷いてお礼を言う。
「楽しみだねぇ」
フェリクス様は笑いながらそう言っていて、本当に楽しみにしているのが伝わってくる。
「まぁ、フェリクスは甘いものばかり食べたらダメよ?」
「分かってるよ」
アベラ様に呆れたように言われて、フェリクス様は少し不満そうに口を尖らせる。そんな二人を陛下は目を細めて愛おしいと言わんばかりに見守っている。
__美しい家族の姿。綺麗だと思うのに、どうしてだか泣いてしまいたくなった。輝いていて、眩しくて、自分がここにいるのが酷く場違いなように感じる。
ずっと求めていたものが目の前にあるのに、少しも気分が晴れない。それどころか恐ろしく思えてしまう。拒絶も否定もされていないのに、どうして居心地が悪いのか分からない。
陛下とアベラ様に向かって興奮気味に話し続けるフェリクス様を眺めながら、そんなことを考える。間違っても口にしたりなんかはしないけれど、悲観的、というか感傷的、というか。最近はそんな風に考えてばかりだ。
「ジルベール様?」
隣のフェリクス様達を眺めていたら、背後からそっと声を掛けられた。そちらを振り返るとリュカが俺を見下ろしている。
「どうかされましたか?……具合悪くなってしまいましたか?」
「……え」
なんでそんなことを言うのだろうかと首を傾げると、リュカは気まずそうに眉を寄せて少しだけ目を伏せる。
「……いえ、勘違いかも、しれないですけど……なんだか、元気がないように見えて……」
そう言ったリュカの表情は、どこか痛ましげに見えた。
答えられずにいると、フェリクス様はなにも言わない俺に不思議そうに顔を覗き込んでくる。
大した質問ではないのに、一つも答えが見つからない。なにかを答えなければ、と発する言葉も決まらぬまま口を開けて、そのまま閉じて。再び口を開いて視線を彷徨かせて、なにか、と今までを思い起こす。
「あ……」
あった。自分でも驚くくらい美味しくて優しい味がしたもの。
あの時、ノア先生が、アレクサンドルが食べさせてくれた
「りんご……が、すき」
お菓子ではないけれど、今まで食べた中できっと一番美味しかったもの。
「わぁ、一緒だ!ぼくもりんご大好きなんだぁ。今日はアップルパイもあるみたいだから、ジルに一番大きいのあげるね!」
ただ一言を答えただけ。なのにフェリクス様はパッと表情を輝かせて、心底楽しそうに笑いながら言った。
まだ多くは食べられないから、食べられたとしてもタルトかパイかのどちらかになってしまうだろうな、と考えながら頷いてお礼を言う。
「楽しみだねぇ」
フェリクス様は笑いながらそう言っていて、本当に楽しみにしているのが伝わってくる。
「まぁ、フェリクスは甘いものばかり食べたらダメよ?」
「分かってるよ」
アベラ様に呆れたように言われて、フェリクス様は少し不満そうに口を尖らせる。そんな二人を陛下は目を細めて愛おしいと言わんばかりに見守っている。
__美しい家族の姿。綺麗だと思うのに、どうしてだか泣いてしまいたくなった。輝いていて、眩しくて、自分がここにいるのが酷く場違いなように感じる。
ずっと求めていたものが目の前にあるのに、少しも気分が晴れない。それどころか恐ろしく思えてしまう。拒絶も否定もされていないのに、どうして居心地が悪いのか分からない。
陛下とアベラ様に向かって興奮気味に話し続けるフェリクス様を眺めながら、そんなことを考える。間違っても口にしたりなんかはしないけれど、悲観的、というか感傷的、というか。最近はそんな風に考えてばかりだ。
「ジルベール様?」
隣のフェリクス様達を眺めていたら、背後からそっと声を掛けられた。そちらを振り返るとリュカが俺を見下ろしている。
「どうかされましたか?……具合悪くなってしまいましたか?」
「……え」
なんでそんなことを言うのだろうかと首を傾げると、リュカは気まずそうに眉を寄せて少しだけ目を伏せる。
「……いえ、勘違いかも、しれないですけど……なんだか、元気がないように見えて……」
そう言ったリュカの表情は、どこか痛ましげに見えた。
541
あなたにおすすめの小説
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね
舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」
Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。
恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。
蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。
そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。
【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~
蛮野晩
BL
マリスは前世で毒親育ちなうえに不遇の最期を迎えた。
転生したらヘデルマリア王国の第一王子だったが、祖国は帝国に侵略されてしまう。
戦火のなかで帝国の皇帝陛下ヴェルハルトに出会う。
マリスは人質として帝国に赴いたが、そこで皇帝の弟(エヴァン・八歳)の世話役をすることになった。
皇帝ヴェルハルトは噂どおりの冷徹な男でマリスは人質として不遇な扱いを受けたが、――――じつは皇帝ヴェルハルトは戦火で出会ったマリスにすでにひと目惚れしていた!
しかもマリスが帝国に来てくれて内心大喜びだった!
ほんとうは溺愛したいが、溺愛しすぎはかっこよくない……。苦悩する皇帝ヴェルハルト。
皇帝陛下のラブコメと人質王子のシリアスがぶつかりあう。ラブコメvsシリアスのハッピーエンドです。
愛されることを諦めた途端に愛されるのは何のバグですか!
雨霧れいん
BL
期待をしていた”ボク”はもう壊れてしまっていたんだ。
共依存でだっていいじゃない、僕たちはいらないもの同士なんだから。愛されないどうしなんだから。
《キャラ紹介》
メウィル・ディアス
・アルトの婚約者であり、リィルの弟。公爵家の産まれで家族仲は最底辺。エルが好き
リィル・ディアス
・ディアス公爵家の跡取り。メウィルの兄で、剣や魔法など運動が大好き。過去にメウィルを誘ったことも
レイエル・ネジクト
・アルトの弟で第二王子。下にあと1人いて家族は嫌い、特に兄。メウィルが好き
アルト・ネジクト
・メウィルの婚約者で第一王子。次期国王と名高い男で今一番期待されている。
ーーーーー
閲覧ありがとうございます!
この物語には"性的なことをされた"という表現を含みますが、実際のシーンは書かないつもりです。ですが、そういう表現があることを把握しておいてください!
是非、コメント・ハート・お気に入り・エールなどをお願いします!
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる