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その1
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「そろそろ潮時なのかもしれないなあ……」
第一王子のクズネッツが、そのように言ったので、パーティー会場に居合わせた人々が、何事が起きたのか、それを見極めようとして、クズネッツの方を見ていた。
新しい人生の門出を祝うはずのパーティーであったのだが、クズネッツは、あまり面白くないようだった。大国の王子という重圧、そして、婚約者との話し合いが上手くいっていない……人々は、そのことをよく知っていた。だから、一際暗い顔をしていても、誰も不思議には思わなかったのだ。
クズネッツは元々、誰もが認める美男子であり、求婚者は多かった。しかしながら、彼自身、誰と婚約すればいいのか、その答えを見つけるのは中々容易ではなかった。そんなところに舞い込んできた婚約話……その相手は、公爵令嬢のマリアだった。
潮時……つまり、一度はマリアと婚約することを、ある程度本気に考えていたのかもしれない。しかしながら、マリアと婚約することも、それは一瞬の気の迷いであり、めでたくゴールにたどり着くことはなかったのだった。
「クズネッツ様……私との婚約につきましては……」
いちいち確認する必要はなかった。しかしながら、婚約をほとんど確信していたマリアにとって、この事態は非常に信じがたいものだったのだ。だから、クズネッツの口から直接想いを聞こうと思ったのだ。
「非常に残念な話かもしれないが……私はまだ、婚約というものがよくわからないのだよ。確かに、一度は君のことを好きだと思ったさ。そして、君も私のことを好いてくれたね。ああ、そんなことはよく分かっているのさ。だがね、これがずっと続くのかって言われたら、そうでもない。私も、そして、君も、非常に大雑把でわがままな性格だ。そんな人間同士が婚約しても……あんまり芳しくないのではないかと思うわけなんだ……」
クズネッツは一通りの説明をした。もちろん、マリアはちっとも納得できなかった。だが、表立ってクズネッツを批判することなんてできなかったし、何よりも、したくなかった。
勿論、直接的な批判は避けるよう努力した。しかしながら、言いたいことは惜しまなかった。
「クズネッツ様?私はそこまで大雑把な人間だと思いますか???」
「自覚がないのか?やはり、それではダメなんだなあ……」
クズネッツは、何度も何度も頷いた。
一方、外野の貴族たちは、驚きを隠せなかった。令嬢たちは、マリアが婚約破棄されることによって、ひょっとしたら、自分が新しい婚約相手になることができるかもしれない……なんて、楽観的に考える者もいた。しかしながら、あのマリアが相手にされなかったシーンを見せつけられて、クズネッツは、非常に頑固で、今後一生、誰とも婚約しないのではいか、と考える者もいた。
いずれにしても、この一件は大きなスキャンダルとして、後世まで受け継がれることになった。クズネッツの対応が、あまりにも子供っぽくて、このときは、大半の国民が、彼を王子の立場に据え置くのはよろしくない、と考えた。
「クズネッツ様……私に理由を告げず、そのまま婚約破棄ですか……それでも仕方がありませんねえ……」
マリアは開き直って、これ以上の質問はしなかった。
「分かってくれるかな?マリア。この度の婚約は、全て、私の意志だけでコントロールできる話ではないのだ」
「ええ、そのことにつきましても、よく分かっております……」
「そうか、ありがとう。それじゃ、正式な書類なんかは、後日送ることにしよう。そして……この度の騒動の慰謝料についても、後で払うことにしよう……」
「承知いたしました。では……私はこれで失礼いたしますわ……」
マリアは、パーティーの会場を後にした。
「ありがとう、マリア……」
クズネッツは、深々と頭を下げた。これで一件落着……クズネッツは、そう思っていた。
第一王子のクズネッツが、そのように言ったので、パーティー会場に居合わせた人々が、何事が起きたのか、それを見極めようとして、クズネッツの方を見ていた。
新しい人生の門出を祝うはずのパーティーであったのだが、クズネッツは、あまり面白くないようだった。大国の王子という重圧、そして、婚約者との話し合いが上手くいっていない……人々は、そのことをよく知っていた。だから、一際暗い顔をしていても、誰も不思議には思わなかったのだ。
クズネッツは元々、誰もが認める美男子であり、求婚者は多かった。しかしながら、彼自身、誰と婚約すればいいのか、その答えを見つけるのは中々容易ではなかった。そんなところに舞い込んできた婚約話……その相手は、公爵令嬢のマリアだった。
潮時……つまり、一度はマリアと婚約することを、ある程度本気に考えていたのかもしれない。しかしながら、マリアと婚約することも、それは一瞬の気の迷いであり、めでたくゴールにたどり着くことはなかったのだった。
「クズネッツ様……私との婚約につきましては……」
いちいち確認する必要はなかった。しかしながら、婚約をほとんど確信していたマリアにとって、この事態は非常に信じがたいものだったのだ。だから、クズネッツの口から直接想いを聞こうと思ったのだ。
「非常に残念な話かもしれないが……私はまだ、婚約というものがよくわからないのだよ。確かに、一度は君のことを好きだと思ったさ。そして、君も私のことを好いてくれたね。ああ、そんなことはよく分かっているのさ。だがね、これがずっと続くのかって言われたら、そうでもない。私も、そして、君も、非常に大雑把でわがままな性格だ。そんな人間同士が婚約しても……あんまり芳しくないのではないかと思うわけなんだ……」
クズネッツは一通りの説明をした。もちろん、マリアはちっとも納得できなかった。だが、表立ってクズネッツを批判することなんてできなかったし、何よりも、したくなかった。
勿論、直接的な批判は避けるよう努力した。しかしながら、言いたいことは惜しまなかった。
「クズネッツ様?私はそこまで大雑把な人間だと思いますか???」
「自覚がないのか?やはり、それではダメなんだなあ……」
クズネッツは、何度も何度も頷いた。
一方、外野の貴族たちは、驚きを隠せなかった。令嬢たちは、マリアが婚約破棄されることによって、ひょっとしたら、自分が新しい婚約相手になることができるかもしれない……なんて、楽観的に考える者もいた。しかしながら、あのマリアが相手にされなかったシーンを見せつけられて、クズネッツは、非常に頑固で、今後一生、誰とも婚約しないのではいか、と考える者もいた。
いずれにしても、この一件は大きなスキャンダルとして、後世まで受け継がれることになった。クズネッツの対応が、あまりにも子供っぽくて、このときは、大半の国民が、彼を王子の立場に据え置くのはよろしくない、と考えた。
「クズネッツ様……私に理由を告げず、そのまま婚約破棄ですか……それでも仕方がありませんねえ……」
マリアは開き直って、これ以上の質問はしなかった。
「分かってくれるかな?マリア。この度の婚約は、全て、私の意志だけでコントロールできる話ではないのだ」
「ええ、そのことにつきましても、よく分かっております……」
「そうか、ありがとう。それじゃ、正式な書類なんかは、後日送ることにしよう。そして……この度の騒動の慰謝料についても、後で払うことにしよう……」
「承知いたしました。では……私はこれで失礼いたしますわ……」
マリアは、パーティーの会場を後にした。
「ありがとう、マリア……」
クズネッツは、深々と頭を下げた。これで一件落着……クズネッツは、そう思っていた。
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